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『イノセンス 冤罪弁護士』坂口健太郎が訴え続けた“正義”とは 最終回は武田真治の怪演も話題に

2019年03月24日 16:11  リアルサウンド

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 『イノセンス 冤罪弁護士』(日本テレビ系)が、3月23日の放送で最終話を迎えた。前回の第9話では、拓(坂口健太郎)と秋保(藤木直人)が共に大切な人を失った11年前の「東央大学殺人事件」と酷似した事件が発生。一連の事件の真犯人に迫るべく拓たち弁護士チームが奮闘するものの、拓と秋保の間には事件に対する思いの決定的な違いーー拓は幼馴染である浅間(鈴之助)の冤罪を信じて事件の真相を追究し続け、一方秋保は、死んでしまった人は戻ってこないという苦悩を抱えながら真犯人を探す動機を失っているーーがあることが浮き彫りになっていった。それでもなお、楓(川口春奈)からのアドバイスなどもあって真相究明の手を止めない拓。


参考:『イノセンス』最終回の結末


 最終話ではかなり早い段階で、武田真治演じる神津一成が一連の事件の真犯人であると自首をする。これは、本作が犯人探しの物語に重きを置いているのではなく、司法制度の欠陥や冤罪の怖さを伝えるなど、社会への問題提起を含んだ物語を展開していくという決意を感じることができるストーリーテリングだ。拓は、浅間の冤罪を晴らすために神津が真犯人であるという確固たる証拠を探しながら、他方で「なぜ神津は3人もの女性の命を奪うことになったのか」という事件の根底に迫っていく。最終話の特筆事項として挙げられるのは、この坂口健太郎と武田真治による熱演合戦と、明らかになっていった拓の行動の“正しさ”だろう。


 バラエティ番組ではユーモラスな一面を発揮していたり、サックス奏者としてダンディな雰囲気も覗かせる武田であるが、今回は一転、サイコパスにも見える役どころを演じ、拓を刺激しながら最終話の物語を牽引するポジションに。なかでも、拓と神津が初めて面会した場面で犯行を自白する武田の温度のない声と拓を挑発する目の動きは、嫌なシーンであるが必見の演技だ。この場面での神津の言動を元にして、物語終盤で拓は、神津が過去に冤罪で苦しんだことがあるという事実に辿り着くのだが、確かにここでの武田の演技は、拓を煽りながらもオドオドしていて人間的な弱さもあり、その両面性を見事に孕んでいた。


 そんな神津への“抑えようにも抑えきれない怒り”や、父・黒川真(草刈正雄)に(実際には思い込みだったわけだが)理解してもらうことができない“悔しさ”を表出した坂口健太郎も、視聴者の心をゆるがす見事な演技だったと言えるだろう。とりわけ、「おまえは死体の冷たさを知らない」と秋保に言われてもなお、その“わからなさ”を噛み締めながら「でも僕は、浅間先輩が生きていたときの温かさを知っています」と、浅間が生きた証を訴える場面はとても感動的だ。真や秋保、あるいは神津へと向けられた拓の訴えかけが結実する形で、物語はラストの法廷の場面へと移っていく。


 科学鑑定の証人として証言台に立った秋保が語ったのは、人が偏見や思い込みを持ち、あるいはくだらない面子を維持しようとすることで冤罪は生まれるということ。そこで必要なのは、「愚直なまでに真実を追究しようする意志」。拓のような強い信念を持った弁護士こそが、被害者や遺族の苦しみを晴らすことができると、今までの拓の行動を全肯定しながら、そう秋保は語気を強める。


 本作において、黒川拓という人間は決して強い人間としては描かれていない。裁判で負けるとひどく落ち込むし、冷静を装いながらも常に心は11年前の事件における悔しさで溢れている。それでも拓が負けないで挑んでこられたのは、「真実はわからない、けれど絶対にわかろうとする」という強固たる意志があったからだ。過去の悔しさと未来への希望を持っているからこそ、時として拓が進むべき方向を見失った際にも、拓の持つ信念の“正しさ”は楓や秋保によって復唱されていく。


 最後に、真実を追究し続けるこころざしと、過ちがあったときに正すことのできる勇気を持つことの重要性を語る拓。やはり真相が明らかになったところで、目の前がスッキリと晴れ渡ることはなかったかもしれない。しかしそれでも、とことん真相を突き詰め冤罪を晴らすことで、現在と未来を生きる人々の救われる心はあると伝えた『イノセンス』。変えられない過去を背負いながらも、前を向いて歩みを進める登場人物たちの姿を克明に捉えながら、このドラマの物語は幕を閉じた。そしてその想いは、視聴者の心へと受け継がれていくのだろう。 (リアルサウンド編集部)