ACOフランス西部自動車クラブのスポーティングディレクターを務めるビンセント・ボーメニルは、複数の自動車メーカーの要請を受け、WEC世界耐久選手権が2020/2021年シーズンから採用予定である“ハイパーカー規定”の対象範囲を拡大したと語った。
WEC/ル・マン24時間を統括するFIA国際自動車連盟とACOは2018年6月、ル・マンで現行の約4分の3という低コストでの参戦実現と、出場マシンに市販車のデザインを取り入れたハイパーカーを用いることを定めた新規定を2020/21年から施行すると発表した。
しかし、これまでに大手自動車メーカーから正式な参戦表明はなく、一部の少量生産メーカーやプライベーターチームが手を挙げるに留まっている。
そうしたなかでFIAは3月7日、世界モータースポーツ評議会において同規定の対象範囲を拡大することを承認。従来考えられてきたロードカースタイルの純レーシングカーに加えて“市販車ベースのレーシングハイパーカー”の参戦を許可している。
その結果、2018年12月に明らかになった新規定が変更され、導入初年度には自前のパワートレインを搭載するレースカーと、他社のパワートレインを積むレーシングカー、そして市販ハイパーカーをレーシングカーに仕立てたクルマの、少なくとも3つの異なるプラットフォームを持つ“ハイパーカー”が、未定義のBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)の下で同じクラスを戦うことになる。
ボーメニル氏によると昨年、アストンマーティンとフェラーリ、さらにマクラーレンというWECにとって“非常に重要な”関係者たちがFIAとACOに、ロードカーベースのハイパーカーを採用するよう持ちかけてきたが、これはコストの増加を理由に棄却されていたという。
「我々は初めてハイパーカーのルールを発表したとき、始めから(興味を持つマニュファクチャラーに)歓迎されていたと考えている」とボーメニル。
「それでも、一部のメーカーはマーケティングの面からみて、自分たちのロードカー(をベースとしたハイパーカー)をレースに出したいと言ってきた」
「これに対して、盲目的に『いいや、その要望は聞きたくない』と言うことはできない。我々は彼らの意見を確実に聞いてきたんだ」
そうして実現したロードカーベース車両が参戦できる新規定によって、当初3分20秒とし、昨年12月には3分24~25秒と改められたハイパーカーのル・マン1周ラップは、最終的に3分30秒ほどになるようだ。これに伴いLMP2カーのスピードは現行車と比べてル・マンで5~6秒遅くなるように設定されるという。
■エントリー数確保のためノンハイブリッドカーの参戦も許可か
また、ボーメニルは、現時点では未確定要素が多く、BoPをどのように設定するかなど詳細までは説明する段階に至っていないと語った。
さらに、氏によれば現在、フロントアクスルにKERSシステムの搭載を義務付けた当初の規則を変更し、純レーシングカーとロードカーベースの両方でノンハイブリッド車の出走を許可する計画も整っているという。
「結局のところ、制限が厳しすぎたため、それを拡大しただけなんだ」とボーメニルは述べる。
「12月に発表したルールでもロードカーから(車両製作を)スタートできないとは書かれていない。しかし、現実的にはかなり難しかったので、我々はそれを簡単にしたかったんだ」
2020年の正式採用に向けて新規定の“ぶれ”が続くなか、WECのジェラール・ヌーブCEOは、「今後、数週間のうちにもう少し詳しい状況がみえてくるだろうと確信している」とコメントした。
「いずれにせよ、新しい規則に何らかの問題があれば、背後には必ずプランBか何かがあるんだ」
3月上旬にスイスで行われたジュネーブ国際モーターショーに登場したヌーブ氏は、各マニュファクチャラーがハイパーカー規定に関する議論を初めて以来、おそらく今がもっとも大きなテーブルになっていると述べている。