2019年F1開幕戦オーストラリアGPは、バルテリ・ボッタスが逆転勝利を飾った。いっぽうテストで好調だったフェラーリは失速。レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンは見事な走りで3位を獲得している。F1ジャーナリストの今宮純氏がレースを振り返る。
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四冠王者のセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)を抜き、五冠王者のルイス・ハミルトン(メルセデス)と最後まで争い、初戦レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが表彰台3位へ。変動の2019年シーズンを実感させる幕開けだ。
彼らだけでなく22戦ぶりに(17年最終戦以来)勝ったバルテリ・ボッタス(メルセデス)には、変身したかのような“男気”が感じられた。
スタートを決めると2番手ハミルトンをまったく寄せつけず、20.886秒リードの大独走。これほどの“大差”ぶっちぎりは2018年には無い。終盤57周目にチーム側の指示に反して最速ラップの“ボーナス1点”も獲りにいった。
17年に加入してから控えめでいた彼に貪欲さがみなぎった。変動の19年をふたりが生々しくアピール、これから20戦の創造力をかきたてる――。
いったいフェラーリに何が起きたのだろう。バルセロナの“テスト・チャンピオン”は2週間後の開幕戦オーストラリアで速さを失った。
我々には分からない、チームも解明できずにいたのだから。コース特性の違いに惑わされたのか、いや過去オーストラリアGPで2連勝中だった彼らはここを熟知している。
週末が高温条件になったせいか、いや三日間同じ天候でさまざまなセッティングを2台で試すことができた。何か本番アップデートを新投入したのか、いやそれが機能しないと判断すればテストバージョンに戻せばいい……。
■1コーナー手前地点の最高速ではウイリアムズにも負けていたフェラーリ
予選3番手ベッテルは、1コーナー手前の最高速計測地点で、ウイリアムズのラッセル(316.0KMH)よりも遅い19番目315.9KMHだった。テスト期間中ストレートライン・スピードが際立っていたのに、ベッテルは他のセクター速度計測地点も15番目以下。プラス・ダウンフォース方向に振っても、ベッテルは「コーナーすべてがスローだった」と述べた。アルバート公園の迷路を彷徨い続けたフェラーリ……。
謎は深まり、決勝ではこのような現象も起きた。28周目にハードタイヤ(C2)を履いたシャルル・ルクレールは感触が好転、4位の最速タイム1分26秒926をマーク(58周目)。
一方ミディアムタイヤで苦しむベッテルは8位の最速タイム1分27秒954(16周目)がやっと。コースのラバーインが進んだとしても両者のタイム差は過大すぎる。
メルセデスはテスト後から2週間で戦力を高め見事に挽回してみせた。謎めいた失速に陥ったフェラーリが、第2戦バーレーンGPまでの2週間に戦力を回復できるか。なお開幕戦で表彰台を逃したのは5年ぶりのことだ。
ドライバー力がさらに進化したフェルスタッペン、82戦24度目の表彰台をホンダとともに。スタートでルクレールに先行されるが1~2コーナーでフェラーリ勢の動きを見切り、ポジションを失っていない。これが大きかった。
予選使用のソフトタイヤをケアしつつ24周目に1番手に上がり、25周目にミディアムへ。ここまで引っ張ったタイヤマネージメントがベッテル攻撃につながる。
■最後まで王者ルイス・ハミルトンに圧力をかけたマックス・フェルスタッペン
31周目、1コーナーで仕掛けていった。ブロックラインをとるベッテルは2コーナーが窮屈なラインに、それが狙いだった。出口加速でトラクションがかからないベッテル、並走すると見せてアウトラインへ。“かまぼこ状”路面のフラットなラインをトレース、ホンダ製パワーユニット(PU/エンジン)のパワーを用い3コーナー減速開始地点の前で出し抜く。綺麗なオーバーテイクにはいくつもの“布石”があった。
ハミルトンを追う49周目に、1コーナーでわずかにエントリーをミス。芝にはみ出るが適切な速度をキープ、最適な角度で(まっすぐ)コース復帰。タイヤを傷めず、冷やさず、タイムロスを最小減にとどめている。
そして51周目からペースアップ、54周目時点の最速ラップ、57周目にさらに自己ベストラップ。しかし、この周にトップのボッタスが新最速ラップ1分25秒580を決めていた。
フェルスタッペンは、ボーナスポイントを狙うというより、2番手ハミルトンに圧力をかけるペースで最後まで揺さぶり続けた。五冠王はそれを意識しつつオールドタイヤでポジションを守りきるが、あらためてフェルスタッペンの攻撃性を感じたに違いない。
王者の彼だからこそ王者になりうる者のドライバー力はよく分かる。ルイス対マックス、セブ対マックスのリアルな攻防で始まった19年、昨年とは違う活気あるシーズンになりそうだ。