2019年のF1で使用するヘルメットは、より厳しい安全基準が適用された新しいヘルメットの着用が義務付けられている。
新しい規格は『FIA 8860-2018-ABP』で、2018年に義務化された。ABPとは、『アドバンスト・バリスティック・プロテクション(最先端弾道保護)』の略で、ドライバーの頭部への保護をさらに強化された仕様となっている。
アライ・ヘルメットで開発を担当している中里知直によれば、「昨年までのヘルメットは(2009年のフェリペ・マッサの事故を受けて)バイザーの開口部をバイザーパネルで補強していましたが、新仕様ではヘルメットの開口部を10mm狭くし、ヘルメット自体の耐性を向上させることで粉砕と貫通に対するエネルギー吸収を向上させたシェル構造になっている」と言う。
アライは当初、2018年中に新ヘルメットの製造を完了し、イタリアで衝撃テストを通過させた後、ドライバーに試用してもらう予定だったが、実際にドライバーが新ヘルメットを着用したのは、プレシーズンテストにズレ込んでしまった。
これは、アライだけでなく、現在F1ドライバーにヘルメットを供給しているほかの3メーカー(ベル、シューベルト、スティーロ)にとっても同じだった。それは、それだけ新しい規格でのヘルメット製造が技術的に非常にチャレンジングだったことを意味している。
さらに日本で開発・製造しているアライにとっては、ヨーロッパに拠点を構えている3メーカーにはない地理的なハンディもあった。FIAの承認を取るための衝突安全テストを行う会社がイタリアにあるからだ。
アライの新ヘルメットが最終的にテストに合格したのは、プレシーズンテストが開始される直前の2月上旬。しかし、それですべてが終了したわけではない。合格したのはシェル構造の衝撃吸収性と耐性性のテストであり、ドライバーの使用感は含まれていない。
そこでアライ・ヘルメットの中里は、バルセロナへ出向き、内装に関してドライバーからフィードバックを元に、テスト後から開幕戦までにドライバーごとにジャストフィットするよう調整が図られた。
ヘルメットもマシン同様、見えない部分で常にアップデートしている。もちろん、メルボルンにも、中里の姿はあった。