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「ピエール瀧さんを追い込むだけ」 報道と自粛に疑問…薬物依存を克服した俳優

2019年03月16日 11:01  弁護士ドットコム

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「ガッカリした」「心が弱い」ーー。芸能人が違法な薬物を使い、逮捕される度にこのような声が上がる。


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コカインを使用したとして、12日に麻薬取締法違反の疑いで逮捕されたピエール瀧さん。過熱する報道や出演作品を自粛する動きを疑問視する声も少なくない。



コカインを使うことは法律で禁止されている。しかし、違法だと分かっていてもやめられずに悩んでいる薬物依存症者やその家族がいることも事実だ。



俳優の内谷正文さんもその1人。内谷さんの弟は覚せい剤がやめられなくなり、薬物依存症に罹患。家族も巻き込まれ、苦しい毎日を送ってきた。内谷さん自身も17年間、薬物を使い続けた経験があり、依存症の回復者でもある。



上映中の映画「まっ白の闇」(2017年製作)では監督を務め、実体験をもとに、崩壊した家族が立ち直る姿をリアルに描ききった。



当事者と家族、両方のいたみを知る内谷さんに話を聞いた。(編集部・吉田緑)



●過熱する報道に傷つく当事者、そして家族

薬物を使った芸能人が逮捕されるたびに過熱する報道。そして、浴びせられるバッシング。好奇心や非難の的は家族にまで及ぶことがある。



メディアを通じて、その様子を見ている人たちの中には、回復に向けて薬物依存症の治療に励んでいる当事者やだれにも相談できずに悩んでいる家族などがいる。



「薬物依存症の問題で悩み苦しんでいる当事者やその家族にとっては、つらいことだと思います。僕はあまり見ないようにしています。



薬物がもたらす弊害やおそろしさを伝えることも必要です。しかし、同時に薬物依存症が病気であること、回復の可能性があることも知ってほしいと思います。



瀧さんにとって大切なのは、これから先をどう生きるか。新しい生き方をみつけていくことです。生き方を変えるには相当の勇気と苦労がいると思いますが、復活してほしいと願っています。立ち直ることで、過去をプラスに変えることはできます」



出演する作品の出荷や販売、上映などを自粛する動きについても内谷さんは疑問視する。



「撮影中の作品については関わる人たちに迷惑をかけ、今後の撮影にも参加できないので、仕方ないと思うところもあります。しかし、すでに撮影や収録などが終わった作品の自粛については疑問があります。作品に罪はありませんし、(その決定は)瀧さんを追い込むことになるのではないでしょうか」



●「刑罰だけではなく治療」を

法律で禁止されている薬物を所持・使用することは「犯罪」になる。つまり、刑罰が科されるということだ。



しかし、薬物依存症は「だめなことだと分かっているのに、やめられない」病気でもある。内谷さんは「大切なのは刑罰だけではなく治療につなぐこと」と訴える。



「薬物依存症は病気です。同時に、家族も他人の問題を自分の問題にしてしまい、抱え込んでしまうという共依存症になっていることがあります。当事者も家族も、ともに回復していかなければなりません。治療につなぐことは社会のためでもあります。



社会に出ることだけが回復ではありません。人間関係やこころの回復も含めて、『人』として回復することが必要です。罰するだけでは、回復の道を歩むことはできません。



人を良くするも悪くするも人です。気軽に相談や話ができる仲間とつながり、回復している人もいます。



報道などでは違法薬物が注目されることが多いですが、市販薬・処方薬の依存も深刻な問題になっています。薬局には薬があふれていますし、簡単に入手することもできます。薬物依存症はだれにでもありうる問題で、他人事ではありません」



●回復の光はある

内谷さんが監督を務めた映画「まっ白の闇」は実体験をもとにしている。主人公のモデルは内谷さんの弟だ。





兄にすすめられ、薬物に手を出した主人公。覚せい剤をやめられなくなり、家族を巻き込んで一気に崩壊していく。しかし、主人公と家族は薬物依存症の回復支援団体・ダルクに出会い、回復の道を歩み始めるようになる。



「1人でも多くの人に、回復の光があることを知ってほしいーー。映画にはそんな思いをこめました。自分をさらけ出すことは、自分自身の回復のためでもあります。自分のためにおこなったことが人のためになったとしたら、これほど嬉しいことはありません。



当事者も家族も薬物の問題を1人で抱えこまず、ダルクなどの支援団体に相談してほしいと思います。もっともこわいのは孤独です」



「まっ白の闇」は東京などで上映され、連日満員御礼となった。現在は大阪で上映中。23日からは横浜での上映が決まっている(詳しくは「まっ白の闇」公式サイトへ)。



【プロフィール】内谷正文(うちや・まさぶみ)。俳優、映画監督。自身の体験談をもとにした一人体験劇「ADDICTION~今日一日を生きる君~」を上演。中学や高校など220カ所をこえる公演を重ねている。 https://bumi.jp/profile/



(弁護士ドットコムニュース)