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みのミュージックは『タモリ倶楽部』を目指す? 60~70年代カルチャー伝える入り口となるか

2019年03月16日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

 人気YouTuberトリオ・カリスマブラザーズの解散から約1カ月が経ち、ジョージとジローが「JJコンビ」、みのが「みのミュージック」と、それぞれが新たに開設したチャンネルも軌道に乗り始めている。中でも、みのミュージックは音楽やファッションなどのカルチャーをメインコンテンツに、早くもチャンネルとしての色が定まってきた印象だ。本稿では2月2日に投稿された『今後について』で「『タモリ倶楽部』のようなチャンネルを目指したい」と語ったみのミュージックの方向性について考察したい。


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・サブカルチャーとポピュラリティーを掲げるチャンネルに


 みのはカリスマブラザーズ時代から音楽好きで知られていた。自身のバンド「ミノタウロス」に加え、カリスマブラザーズ名義で発表した楽曲の多くもみのが手がけており、先述の動画でも背景に映る本棚には、膨大な数のCD、レコード、DVD、漫画が並べられていた。先の動画では今後、音楽にまつわるコンテンツをメインに、自身のルーツやファッションなどを紹介していきたいと抱負を語っている。


 制作状況についても言及があった。当初ミニアルバムを発表する予定だったミノタウロスだが、制作をフルアルバムに切り替え、新曲をレコーディングしていることを明かした。ミニアルバムに収録予定だった楽曲はMVとして随時、このチャンネルで公開していく。楽曲を聴くことで、「ここのフレーズはあの動画でみのが語ってたアーティストの影響かも」なんて発見もできるかもしれない。


 一方、みのは1人で活動していく上で課題もあると明かした。みのは動画編集を行なったことがほとんどなく、実際、編集やサムネにはまだまだ改善の余地が見られるものも多い。しかし助っ人として旧知の仲であるビートメイカー&プロデューサーのOSUREC BERTOPを招き、ふたりで切磋琢磨していくとのこと。動画編集と楽曲制作には似た部分が多くあり、楽しみながらやれていると語るみのの姿を見れば、ファンとしては一安心だろう。


 100万人以上の登録者がいたチャンネルを手放し、ひとりでゼロから作り上げる男のサクセスストーリー的なエモーションはほとんど感じさせない淡白なスタートだったが、蓋を開けてみればこれまで投稿された27本の動画(2019年3月1日時点)すべてが、アーティストや動画クリエイターを招いての対談にファッション談義など、そのテーマに濃厚なサブカルチャー色を醸しながらも、多くの人に伝わりやすいポピュラリティーを感じさせるものに仕上がっていたのが印象的だった。


・音楽、ファッション、対談の三本柱


 これまでの動画は主に「音楽」「ファッション」「対談」の3本柱となっている。音楽については、みののルーツとなっているThe Beatlesなどのレコード紹介や、楽器の紹介を主に行っている。ファッションでは、何年もかけて集めたという古着たちをじっくりと解説してくれる。どれもマニアックな内容だが、これまでの活動におけるバックボーンが明確に伝わるものになっている。


 そして、これまで3回にわたって行われてきた対談シリーズでは、へきトラハウスのへきほー、トミック、そしてGLIM SPANKYの亀本寛貴が出演している。へきほー、トミックの回では、彼らがYouTubeを始めた理由や、活動へのモチベーションについて、深く掘り下げている。へきトラではあまり口数の多い方ではないへきほーや、ひとりで活動しているトミックのパーソナルな部分を改めて知ることができる内容で、彼らのファンにとっても興味深い内容と言えよう。


 「共通点が多いと思っている」とみのが語るGLIM SPANKY・亀本寛貴との対談では、レコードの話からGLIM SPANKYの制作の裏側、さらに音楽業界の裏側までが語られており、さながら音楽番組のような雰囲気に。亀本はみのの第一印象について「YouTubeにおかしなヤバイやつがいる。この人なら僕らがやってるような音楽をもっとマスな人たちに発信してくれる架け橋になってくれるんじゃないか」と、ギターを弾くみのの動画を見て思ったという。第一線で活躍するアーティストにも引けを取らないみのの音楽知識には脱帽するばかりだ。


・みのが60’sカルチャーの入り口に?


 みのはこれまでの活動の節々で「音楽が好きだ」と熱弁をふるっていたが、亀本との対談で改めてその熱量が伝わってきた。2月1日に公開されたみのミュージック1本目の動画『【MV】ミノタウロス「ひいふうみいよ」』でも、GLIM SPANKYやこの対談で出たようなルーツミュージックにつながるオールディーな雰囲気を醸し出している。さらにピアノ、ホーンセクションを加えることでよりキャッチーな楽曲に仕上がっているのもポイントだろう。マニアックな世界をキャッチーに伝えるという意味で、こうした楽曲はみのの宣言通り、『タモリ倶楽部』のような機能を持ち得るのではないだろうか。


 その工夫は楽曲だけでなく動画にも随所に表れている。みのミュージックの動画は、検証やドッキリといった一般的にイメージされるYouTuberというカテゴリーからは少し外れている。しかし、60~70年代の音楽やファッションが好きな人にはたまらない内容になっていると同時に、こういったカルチャーの入り口として、みのミュージックは今後大きな役割を担っていくかもしれない。


 最初の動画でみのは自身のことを”大衆性に欠ける男”と言っていた。確かに扱っているコンテンツはマニアックなものが多い、しかし、十分な知識量と丁寧な解説から、誰が見ても楽しめる動画にしようという工夫が伺える。そして何より、YouTubeを通じて自分の好きなカルチャーを発信していきたいという熱意と誠意が感じられるものとなっている。今後YouTuberという枠を超え、音楽業界やファッション業界までをも巻き込んだ展開を期待せずにはいられない。(馬場翔大)