インディカー・シリーズでルーキーが勝つのは簡単じゃない。毎年マシンの変化が少ないことがほとんどで、コースもずっと変わらず、チームもドライバーもそれらを知り尽くした状況になり、経験が大きくものを言うカテゴリーだ。
しかし、2018年は珍しくインディカーのエアロが大きく変わった。ホンダとシボレーのマニュファクチャラー2社製からダラーラのワンメイクとなって、出場者全員が新スペックのマシンで戦う状況に。
このチャンスを味方につけ、特にシーズン序盤に才能あるルーキーたちの活躍が見られ、中でもカナダ出身ルーキーのロバート・ウィケンスが頭ひとつ抜きん出ていた。
ワークス対決が激しいDTMドイツ・ツーリングカー選手権で活躍していた彼は、インディカーでこそルーキーとして扱われたが、世界レベルの技術競争もあるシリーズで経験を積んでいたことで、アメリカのトップシングルシーターでもすぐさま上位で争うことができたのだ。
開幕戦セント・ピーターズバーグでは刻々と変化するハーフウエットの路面コンディションもプラスに影響、ウィケンスはポールポジションを獲得。レースでもリードを続けたが、最後のリスタートがその1周前に宣言されない異常な状況下で切られ、ルーキーの彼は対応し切れず加速に失敗。
アレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)とのバトルで弾き飛ばされ、優勝を目前にしてリタイアを余儀なくされた。
続くフェニックスで2位。ミド・オハイオのロードコースでも2位となったが、とうとうウィケンスは勝てなかった。彼の他にもザック・ビーチ(アンドレッティ・オートスポート)、ジョーダン・キング(エド・カーペンター・レーシング)、マテウス・レイスト( AJ・フォイト・エンタープライゼス)が輝く走りを見せていた。
■2019年はルーキー当たり年?
ルーキーでいきなり優勝争いに加わる“第二のウィケンス”が現れるか?
その期待に今年応えてくれそうなのがフェリックス・ローゼンクヴィスト(チップ・ガナッシ・レーシング)だ。デビューからトップチームでの出場で、チームメイトは5度のタイトル獲得経験を持つスコット・ディクソンという、これ以上は望みようのない環境が彼には整っている。
スウェーデン出身のローゼンクヴィストは、5年間という長い時間をF3で過ごしたが、そこで素晴らしい成績を残している。ドイツのシリーズでデビュー年の2010年に2勝したのを皮切りに、ザンドフールトでのマスターズ・オブF3で2勝。フランスのポーグランプリも勝ち、マカオGPでは2014年と2015年に史上初めての2年連続優勝を達成している。
2015年にはユーロF3の33戦で13勝してチャンピオンに輝いたローゼンクヴィストだったが、F1への道は開かれず、アメリカのインディ・ライツ10戦に出場して3勝。メルセデスAMGでDTMを走り、2017年はフォーミュラEに初挑戦して1勝、ルーキー最上位のランキング3位となった。2017、2018年はフォーミュラEに加え、日本でも活躍。スーパーフォーミュラ、スーパーGTに参戦した。
彼の能力にはオーナーのチップ・ガナッシが目をつけていて、2017、2018年にチームのテストに参加。フィードバック能力の高さで更に評価を高めていた。そして今年、27歳でついにインディカーのレギュラーシート確保がなると、いきなりデビュー戦の予選でトップ3に食い込み、レースでも序盤にトップに躍り出て31周もリード。
表彰台には惜しくも届かなかったが、4位でのゴールを成し遂げた。トップ3はチーム・ペンスキーとガナッシから出場の元チャンピオン3人。デビュー戦としては文句のつけようのない素晴らしいものだった。
デビュー・レースを終えたローゼンクヴィストは、「まだマシンに余力があったが、それをすべて引き出せなかった」と悔しがった。しかし、1レースですでに“雰囲気”は醸し出しており、「先輩チームメイトのスコットもフェアに情報交換をしてくれている。今シーズン中に勝つのが目標」と自信のほどを語ってもいる。
彼の他にもF1から来たマーカス・エリクソン(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)、ブライアン・ハータの息子のコルトン(ハーディング・スタインブレナー・レーシング)、サンティーノ・フェルッチ(デイル・コイン・レーシング)、スポーツカー出身のベン・ハンレイ(ドラゴンスピード)と今年のルーキーは層が厚い。
そして、第2戦からは昨年度インディ・ライツチャンピオンのパトリシオ・オワードもカーリンから登場する。昨年の最終戦ソノマでデビュー戦にして予選5位、決勝9位というパフォーマンスを見せた彼の潜在能力も非常に高い。
今年は昨年以上のルーキー当たり年だ。この中からルーキーイヤーで勝利を掴むドライバーは現れるのだろうか?