通常なら、華やかな雰囲気に包まれながらスタートするシーズン最初の木曜日のFIA会見は、チャーリー・ホワイティングの突然の訃報を受けて、深い悲しみに包まれてスタートした。
特に前日にホワイティングとコースの下見を行なっていたセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)は大きなショックを受けていた。
「今朝、訃報を聞いて、みんなと同じくらいショックだったし、いまも動揺している。昨日彼といくつかのコーナーを一緒に歩いて話をしていたんだ。その人がいまはもういないなんて……」
ベッテルの隣に座っていたロバート・クビサ(ウイリアムズ)がフォローした。
「本当にショックだよね。僕も昨日、チャーリーとセバスチャンが一緒に歩いているのを見ていたからね。金曜日のドライバーズブリーフィングで、彼(ホワイティング)に会えるから、昨日は彼らふたりの邪魔をしないように、歩み寄らずに遠くから見ていた。でも、もう彼と話すことができないなんて、悲しすぎる」
ルイス・ハミルトン(メルセデス)も次のように哀悼の意を表した。
「2007年にF1にデビューして以来、チャーリーのことを知っている。今朝、訃報を聞いて、インスタグラムにコメントしんだけど、ダウンしていたのでうまくいかなかったようだ(3月14日の未明から、FacebookやInstagram、Messenger、WhatsAppなどのSNSが世界的に不具合が発生していた)。いずれにしても、トト(・ウォルフ)が言っていたように、彼はF1の大黒柱だったし、この世界の象徴的な人物だった。彼と彼の家族を想い、祈りたい」
オーストラリアGPに来る前、ジュネーブでホワイティングに会っていたマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)も、辛い思いを次のように吐露した。
「数週間前にジュネーブで彼と一日を過ごして本当にたくさんのことを話したんだ。『オーストラリアの開幕戦でまた会おう』と思って別れたばかりなのに……。まだ66歳。早すぎるよ。残された僕たちはこれから毎日、毎朝新しい日が訪れることに感謝しながら、人生を楽しんでいくしかない」
いつもは陽気なダニエル・リカルド(ルノー)も、神妙な面持ちでこうコメントした。
「僕はいつもポジティブでいようと思っているけど、いまは本当に困惑している。僕たちは傷ついたレコードのように何度も不満を彼にぶつけていたけど、彼は決して跳ね返すことなく、いつも受け入れてくれた。僕がF1にデビューして初めて臨んだ2012年のオーストラリアGPのことをいまでも覚えている。フランツ(・トスト代表)が『君にチャーリーを紹介しよう。新しいシーズンのスタートだ』と言って彼のところに行ったことをね」
■際どいジョークで場を和ませようとするセバスチャン・ベッテル
そんな重苦しい雰囲気を吹き飛ばそうとしたのがベッテルだった。
リカルドに、「ミスター・クロコダイル・ダニエル、オーストラリア人ドライバーが母国グランプリを制したのは1980年のアラン・ジョーンズが最後です。みんなが期待しています。勝てますか?」という質問が飛ぶと、ミスター・クロコダイル・ダニエルと呼ばれたことにピンと来ない様子のリカルドを見て、隣にいたベッテルがリカルドに、クロコダイル・ダンディという映画あったことを説明。
そのあと、フェルスタッペンに「開幕戦に向けて、マシンが良くなっているはずと言いましたが、具体的にどこが?」という質問が飛び、フェルスタッペンが「それは答えられない」と返答すると、「ダニエルが後ろからナイフを持って近づくぞ!!」と言って、会場をなごませていた。
またオフシーズンに何をしていたかという質問を受けたクビサが、「答えるのが難しいなあ」と言うと、「だって、冬休みがみんなより長かったからね」と、際どいジョークを発していた。
辛いときにあえて明るく振舞うことで、明るい気持ちになろうとする人がいるが、この日のベッテルが意識して、そうしていたのかどうかはわからない。ただ、ベッテルは3年前のメキシコGPではホワイティングへの不満をFワードを使って無線でぶつまけたこともある。それは、ホワイティングなら、自分の正直な気持ちを伝えられるという信頼関係があったからではないだろうか。木曜日の会見で、ベッテルはホワイティングが特別な存在だったことを次のように語った。
「チャーリーは僕たちの仲介者だった。いつでも、何でも相談できた。彼は誰に対してもオープンで、ドアをずっと開けてくれていた」
ホワイティングの冥福を祈りたい。