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ドラマ『QUEEN』で話題のmilet、ヒットの理由は孤独を肯定する価値観とそれを届けるための歌声

2019年03月14日 21:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 無名の新人がYouTubeに公開したMVが、短期間で400万回以上再生され話題になっている。ハスキーかつダークな歌声を武器に持つその新人の名はmilet。3月6日、『inside you EP』でデビューしたばかりのシンガーソングライターだ。


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 デビュー作は『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』オープニングテーマ、『JOKER×FACE』(ともにフジテレビ系)のメインテーマ及びエンディング、さらに次作でも映画『バースデー・ワンダーランド』のメインテーマ・挿入歌、イメージソングを担当することが決定。デビュー作の表題曲「inside you」はONE OK ROCKのギター・Toruがプロデュースを手掛けるなど、新人としては異例の大抜擢を成し遂げている。さらに今作は、オリコン週間デジタルアルバムランキング(3月18日付)にて初登場1位を記録し、CD売り上げ枚数とデジタル配信実績をあわせたオリコン週間合算アルバムランキング(3月18日付)では初登場8位を記録。デビュー作にしてTOP10入りを果たしている。


 一見するとタイアップが上手くいった偶然のヒットに見えるかもしれない。しかし彼女の個性を紐とくと、miletは時代に求められたアーティストの1人であり必然的なヒットだったということが見えてきた。


■自分の価値観を後押しする音楽が求められる時代


 2010年代前半は、みんなで盛り上がれる音楽が主権を握った時代だった。4つ打ちのダンスビートに乗せ、至るところで発生するツーステップ。隣にいる人が知り合いかどうかなんて関係ない。その場にいる人と一体感を楽しむという動きは、フェスが増えていくのと比例するように広がっていった。


 しかし2010年代後半になると“SNS疲れ”という言葉が生まれたように、繋がることに疲れる風潮が高まっていった。また、YouTubeやInstagramなども“共有するためのもの”というよりも“お気に入りを追い続けるためのもの”に変化。世間は自然と“繋がること”よりも“自分だけのお気に入りを深める”方向へと流れていった。その波はもちろん音楽にもやってきたのだ。


 “自分の価値観を後押ししてくれる音楽”、これが昨今にヒットしている音楽の共通項であるように思う。「コンプレックスは個性」と固定概念を翻すCHAI、己の信念を貫くかっこよさを魅せるKing Gnu、普遍性のなかにドラマを見出すあいみょん。彼らはいずれもマス受けする音楽性でありながら、個人の価値観に寄り添ってくれるアーティストだ。”孤独”を帰るための安らぎの場所として考えるmiletも、そのようなアーティストのひとりと呼べるのではないだろうか。


■孤独を大切にする感性


 多くの場合、“孤独”はネガティブな印象を持つ言葉として用いられるし、国語辞典を引いてみても「ひとりぼっち」や「さびしいこと」などといった文字列が並ぶ。そんな“孤独”に対してmiletは「マイナスなイメージは全くなく、むしろすごく落ち着く場所」だと話す。(miletインタビュー 関和亮、山岸聖太らからのラブレターとともに)繋がることを最善とする時代にもっとも枯渇していた“孤独を受け入れる”ということを提示してくれるのが彼女という存在なのである。


 『JOKER×FACE』のメインテーマに抜擢された「Again and Again」は、「孤独のなかの強さ」を歌った1曲だ。何か決断をしたり踏み出したりするときは、誰かの意見を聞いたり助けを求めたりしたくなる。そして、誰かに後押しされた気になって前に踏み出してみたりする。さも、自分ではない誰かの意見に流されたかのように。


 しかし結局は、どこへ行くにしても何をするにしても、決断しているのは自分自身なのである。誰かの意見に身を任せているように見えても物事を決断するときというのは、深層心理に深く潜り孤独になり自分自身と向き合い、次の一手を決める。そこにあるのは、孤独になることで未来へと歩みを進める強さだ。〈孤独だって それでいいんだ〉何度だって 抜け出すまで〉というリリックは、まさしくそういった類の信念を反映しているといえるだろう。


■すべてを許容する深さを持ったダーク


 その世界観の構築に一役を買っているのが、ハスキーかつダークな彼女の歌声だ。このような表現をすると声が低いかのようなイメージを持たせてしまうかもしれないが、決してそのような意味ではない。miletを形容する際のダークというのは、“暗い”のではなく“深い”のだ。例をあげるのであれば、底の見えない深い海のような、終わりの見えない広大な宇宙のような。全てを許容し受け入れるであろう深さを持っている。


 彼女は自身の歌声を「発見した」と表していたが、必然的に引き寄せたように思えてならない。それはmiletというアーティストが、ひとりの人間として芯を持った人物だからだ。中学・高校とカナダで過ごしたこともあり、「イエス」「ノー」という意志表示をハッキリと行い、自分の考えや気持ちを伝えるためには物怖じせず発言する。日本人が苦手とする自己顕示を当たり前に積み重ねていたからこそ、自分が進むべき道を見据えぶれない信念を培ってこれたのではないだろうか。また、そんな彼女だからこそ人々を魅了し許容する歌声に愛されたのではないだろうか。


■miletのブレイクは偶然ではなく必然


 “孤独を肯定する”という独自の価値観をもちながら、それを届けるための歌声を持ちあわせているmilet。3月16日には新人としては異例のスピードで『CDTV』(TBS系)への初出演も決定している。言わずと知れた国民的音楽番組であり、King Gnuやあいみょんのような新進気鋭のNEW GENERATIONアーティストも出演し名を広げた同番組での歌唱が、彼女の名をさらに知らしめることは間違いないだろう。miletへの評価が偶然ではなく必然だと証明される日もそう遠くないはずだ。(坂井 彩花)