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シド、8年越し横浜アリーナ公演で見せたファンとの“絆” 新曲も披露した15周年グランドファイナル

2019年03月14日 19:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 本来であればシドにとって2度目の横浜アリーナ公演になるはずだった。華々しくメジャーデビューを果たし、2010年に行われたさいたまスーパーアリーナ公演、東京ドーム公演を経て、さらなる飛躍を期待されていた2011年の3月19日、20日に予定されていた『dead stock TOUR 2011』の横浜アリーナ2デイズは東日本大震災の影響で中止となった。あの悲しい記憶から8年、シドにとって15周年のグランドファイナルの場所として選ばれたのは横浜アリーナ。そして日付は奇しくも3月10日、否が応にもあの日のことを思い出してしまう。本稿では様々な思いが込められた『SID 15th Anniversary GRAND FINAL at 横浜アリーナ ~その未来へ~』の模様をレポートする。


(関連:『SID 15th Anniversary GRAND FINAL at 横浜アリーナ ~その未来へ~』写真


 開演時間を少し過ぎ、会場が暗転するとスクリーンに雨の中を飛ぶ飛空艇が映し出される。その飛空艇は15年の月日をタイムスリップするかのように巻戻る時計とともに時空を飛び越える。時計の針はシドの結成年である“2003”まで巻き戻ったのち、少し進み“2011”を指したところで止まり、歓声に包まれる中、メンバーが登場した。


 記念すべき15周年グランドファイナルは「NO LDK」で幕を開ける。その意図はイントロが鳴った瞬間の歓声が表していただろう。何を隠そうこの曲は8年前に中止になった『dead stock TOUR 2011』のセットリストの1曲目に演奏していた曲なのだ。やはりシドにとってもこの公演はリベンジなのであるということを強く感じたオープニングだった。スクリーンに「SID 15TH ANNIVERSARY」の文字が映しだされて始まった「ANNIVERSARY」では〈出会ったんだ 魅かれたんだ それが奇跡 君にありがとう〉の歌詞を大合唱する場面も見られ、シドとファンが互いに思い合っていることを見せつけられる。その想いは「V.I.P」で客席まで伸びた通路に下りオーディエンスと一番近いところで歌うマオ(Vo)の姿からも感じ取ることが出来た。


 MCでマオは「今日はその名の通りシドの15年をぎゅっと詰め込んだライブ、セットリストにしている」と話し、ライブはシドらしいエロティックで大人な詞世界が魅力なセクションへ。明希(Ba)のスラップが光る「cosmetic」、Shinji(Gt)の洒落たアレンジのギターとゆうや(Dr)のキメとタメの効いたドラムが心地いい「KILL TIME」ではジャジーに、続く「罠」ではブラスを交えた歌謡ロックを聴かせ、このセクションを締めくくった。


 MCで明希は「今日は15周年の大打ち上げだと思う。そしてこれからを感じる最高のライブにしたいと思います」と語り、最近なにかとラーメンの話題が多いShinjiはバンドをラーメンに例え「昔は細くて長い麺が多かったけど、最近は太くて長い麺もたくさんあるからそんなバンドになりたいと思ってます」と笑いを誘った。また、ゆうやは「どれだけこの光景を見たかったか。あまり多くは語りませんが、8年越しですね」と感慨深そうに話していたのが印象的であった。


 「僕らのデビュー曲です」とマオから「モノクロのキス」のタイトルがコールされると大きな歓声があがる。さらに「嘘」「ホソイコエ」と続いた流れではマオの伸びやかな歌声を十分に堪能することができた。また、「ホソイコエ」の冒頭ではスクリーンに雪が降る映像が映し出される。ここから続く「2℃目の彼女」までの冬にまつわる楽曲は、「スノウ」で雪解けを、「ハナビラ」で春を迎えた。この季節の移ろいを感じさせる切ないラブソングの数々もシドならではのセットリストだったように思う。


 ライブは折り返し地点を過ぎ、スクリーンに「ARE YOU READY?」の文字が現れると明希の骨太なベースとゆうやのスピード感あるビートに乗せて、ラストスパートをかけるべくオーディエンスを煽り会場をあたためる。熱を上げた横浜アリーナに彼らがお見舞いしたのは「dummy」。これまでとは打って変わって楽器隊が花道に勢いよく飛び出したかと思えば、「横浜アリーナ! やれるか!!」と煽る明希や、再び通路まで下り客席に乗り出して歌うマオの姿にファンは熱狂。さらに高速シャッフルナンバー「隣人」、「結婚しよう!」と始まった「プロポーズ」、本編ラストを飾った「眩暈」と畳み掛け次第にオーディエンスのボルテージは上がっていった。


 アンコールはインディーズ1stアルバム『憐哀-レンアイ-』に収録されている「空の便箋、空への手紙」でしっとりとスタート。本編では軍服のような統一感のある衣装であったが、お色直しをして登場したメンバーの衣装が打って変わってバラバラすぎることを明希に指摘され、「衣装はバラバラだけど仲良いよ」とマオが返す和気藹々としたMCをはさみ、「今までは過去の曲をいっぱいやったけど、どうしても今日はタイトルが“その未来へ”だからみんなにシドの未来を見せたくて新曲を持ってきました」と新曲「君色の朝」を披露。Shinjiが奏でるアコースティックギターとピアノの音色が特徴のゆったりとしたナンバーで、〈流した汗には裏切られたけど 信じた道には疲れ果てたけど そのあとに溢れた涙の数だけ僕たちはまた色を纏う〉というサビの歌詞が印象的なシドの15年間を肯定するような1曲だった。


 オーディエンスがメンバーの名前を叫ぶメンバー紹介の際には「いくつになっても“マオにゃん”でお願いします!」とマオが往年の“マオにゃん”呼びを望めば、初期の雰囲気さながらに「循環」へ。「ここからはお前らがシドの舵を取ってくれ!」と演奏された「Dear Tokyo」ならぬ「Dear Yokohama」ではマオが「横アリ、リベンジ果たしたぞ!」と叫び、続いて銀テープが舞った「one way」も同様に彼らの初心を歌った曲。不確かな未来に不安を抱きながらも〈きっと大丈夫さ〉と自らを奮い立たせて辿りついた15周年で歌うこの2曲はいつも以上に特別な思いを感じずにはいられなかった。


 そして、メンバーズクラブ限定ツアー、コラボレーションツアーが告知され、告知の最後にはニューアルバムの制作が決定したこと、さらに秋には全国ホールツアーの開催とシドとしての“新しい未来”を提示したのち、アンコールのラストに用意されたのはこの日のタイトルでもある「その未来へ」。〈その未来に 光に 罪はなくて その未来へ 光へ 目を向けよう〉とハート型の紙飛行機が舞う中で起こった大合唱には未来を恐れることなく前を向こうという力強さがあった。


「(映像にあった飛空艇のように)浮いたり沈んだりするのが俺だし、シドだって15年かけて思えるようになりました。だから、この浮いたり沈んだりも込みで応援して下さい。そのかわりにみんなが沈んでるときは俺たちが歌で、音楽で、精一杯励ますから」


 と去り際に涙ながらに声を詰まらせて話すマオの姿は弱くて脆く、実に人間らしく、それでいてその弱さを受け入れる強さがあった。そのうえで固く結ばれたファンとの絆は美しく、「3.11」以降頻繁に聞かれるようになった“絆”というワードはここにもあてはまるのだと感じた。もちろんまだ見ぬ未来にも浮き沈みがあり、様々なことが待ち受けていることだろう。しかしシドはこの15年で培ったものと受け入れたものを糧に〈きっと大丈夫さ〉と前を向いて歩いていくはずだ。(オザキケイト)