3月12日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)は、看護師や保育士たちの過酷な労働実態を伝えた。ネット上では、視聴者から次々と共感や自身の体験談、行政に対する憤りの声が上がった。
バブル崩壊後、共働きの家庭が増えたことで一気に増えた待機児童。行政は、原則として市町村や社会福祉法人のみが開設できる保育所の規制を2000年に撤廃し、営利団体も保育所の運営が可能になった。2015年には、行政からの委託費の使途規制も緩和され保育所の数は増えたが、現場のひずみは限界に達している。(文:okei)
行政からの運営費を人件費にかける割合、営利団体は5割以下
ベテラン保育士のKさんは、ある保育園(宮城県名取市)の質について「壊れて危険でも新しいおもちゃを買ってもらえず、子どもたちの遊びは随分乏しいものだった」と語る。狭い園庭には小さな滑り台が一つだけ。手作りの新聞紙ボールや牛乳パックがおもちゃ代わりだ。
Kさんは自宅で、子どもたちの発達を考慮したおもちゃを作っていた。彼女の月給は手取り13万円ほどで、年収はボーナス込みで240万円。保育士の全国平均よりさらに90万円も低い。シングルマザーで、家賃と娘の高校の学費を払えばほとんど残らなかったという。命を守る国家資格を取って20年以上のベテランが、まともに暮らせない状況だ。
保育士たち支援をする、介護・保育ユニオンの森進生代表は、
「利益重視のなかで労働環境が悪化したり保育サービスにお金をかけなくなっていくと、保育士だけの問題ではなく、日本全体の『保育の質の低下』を招く」
と危機感を募らせる。
行政から保育所へ支給される運営費のうち「人件費に充てる割合」(東京都調べ)は、営利団体では49.3%と社会福祉法人(69.6%)よりも低く抑えられている。Kさんは仲間4人と2年以上前から、国から支給される運営費を正しく使うよう、運営会社に交渉を続けていた。
ところが、改善されないまま運営会社は新しい保育園の開設を計画。Kさんたちは抗議したが聞き入れられず、「変わる兆しもなく、もうヘトヘトです」と漏らす。結局昨年10月に、4人は一斉に辞めるという苦渋の決断をした。
保育士は「ここが限界」 運営側は「保育士を引き留める価値無し」
年度途中で保育士が多数いなくなる異常事態に、保育士たちは手書きの手紙で保護者たちに謝罪していた。ストレス性難聴になったという保育士は、「ここが限界だった」と涙声で語る。
保護者説明会では、運営側に「引き留めはしたんですか」と保護者が詰め寄る場面があったが、事務長は
「結論から言うとしていません。『引き留める価値に値するか』の判断で、『引き留めない』という結論に至った」
と回答。当然、保護者からは「納得できない」という声が上がった。
この説明会には名取市の職員も同席し、立ち入り検査に入ると申し渡した。「中核をなしていた4人の保育士が抜けたことで、『保育の質』を担保できるとは感じておりません」と職員は市の立場を表明。後日、園長は退任し新園の計画も中止となったが、今後、園が保育の質を上げていけるかは不明だ。
番組では、看護師の過酷な労働環境も紹介。厚生労働省が医療費削減のため2018年に行なった医療制度改定によって、看護師がより忙殺される事態になったという。ある婦長は「誰でも医療事故の当事者になりうる」と不安を語っていた。
かけるべきところにお金が正しく分配されていないと感じる放送に、ツイッターでは「どうしてここまでお金をかけない?」「子どもの命預かって手取り13万て…」など国や企業に対する憤りの声が次々上がっていた。人の役に立ちたい、子どもが好きなどの理由で保育士や看護師になりたい人は確実にいるが、このままでは担い手がいなくなるという危機感が募るばかりだ。