スクーデリア・フェラーリのチーム代表を務めるマッティア・ビノットは、前代表のマウリツィオ・アリバベーネとの間に意見の相違があったことや、メルセデスF1からオファーを受けたことについて語った。
2018年の夏、フェラーリのチーム代表であったアリバベーネと、当時テクニカルディレクターを務めていたビノットが一触即発の対立状態にあるという噂がF1のパドックを飛び交った。アリバベーネはそれらのうわさを「フェイクニュース」だとして退けたが、実際にアリバベーネとビノットとの溝は深まっていた。
フェラーリの会長であるジョン・エルカーンが対立解消に向けて動いたものの、2019年の初めになって、アリバベーネがチームを離脱してビノットが指揮権を引き継ぐことがフェラーリから発表されたことで、事態は顕在化した。
ビノットはイタリアの『Corriere della Sera』紙の取材に対し、「当時、私はもうこれ以上今のポジションで良い仕事は続けられないと考えて、それを言明した」と語った。
「それは私ひとりが体験していた困難の話ではなく、私のグループ全体にも関わる話だった。なぜならテクニカルディレクターとしての私が最高の状態で仕事をしなければ、私が管理するすべての領域にその影響が及んでしまうからだ」
フェラーリ内部における対立が先鋭化しつつあった2018年シーズン終盤、ビノットに対してメルセデスから誘いの声がかかったというニュースが流れてきた。
これについてビノットは、「それは事実だ。複数のチームから私に接触があった。F1における私の経験には価値があるということだろう」と認めた。
「私は子供のころからフェラーリのファンだ。フェラーリ以外のチームで働くことは、一度も考えたことがない」
なぜアリバベーネと対立したのかを明かしてほしいと問われると、ビノットは、フェラーリの運営方法に関するふたりの考え方にかなりの隔たりがあったことを理由に挙げた。
「私はフェラーリで25年間働いてきた。その間の輝かしい時代を、(ジャン)トッド、(ロス)ブラウン、(ミハエル)シューマッハー、そしてその後はステファノ・ドメニカリといった人たちとともに過ごせたことは、私にとって幸運だった」
「私はすべての人たちから学び続けてきた。マウリツィオからもだ。そのことについては彼に感謝している」
「彼との個人的な関係は常に良好だった」
「けんかになったことはない。我々の間にあった困難は、将来の展望、チームやレースウイークの管理に関するものだった。互いに異なる見解を持っていたのだ」
■ビノットの昇格に“賭けた”フェラーリ元会長の教訓
年を追うごとにフェラーリでのポジションが急速に上がっていったことについて、ビノットは元会長セルジオ・マルキオンネがその前進を後押ししてくれたと故人をしのんだ。
「彼は2014年に私をパワーユニット部門のトップに昇格させてくれた。だがその後の任命について言えば、彼はフェラーリだけでなくF1全体にあった古い慣習を打ち破ろうとしていたのだと思う」
「マシン設計の経験がない人間をテクニカルディレクターとして選んだのだから。これはフェラーリの水平型組織に関わる賭けだったはずだ。チームは現在もこの形で運営されている」
「リーダーとしては、もう個々の詳細に立ち入ってスタッフたちの権限を決めることはできない」
「私ひとりのマシンではない。デザイナー、ペインター、ドライバーなど、すべてのスタッフのものだ。ともに作業を行った全員が主人公なのだ」
2018年の夏にマルキオンネが亡くなったが、これはフェラーリにとって大きな打撃だった。だがビノットは、自動車業界の伝説的経営者から伝えられた価値観や教訓を、大切に心にしまっている。
「『限界を設けるな。不可能に挑む目標を作れ』。彼(マルキオンネ)の意欲は絶えることがなかった。個人的なことであれ、F1に関することであれ、歴史に残ることをしようとする気持ちを持っていた」