ルノーF1チームのマネージングディレクターであるシリル・アビテブールは、F1においてハースが採用したアプローチが、このスポーツの有り様を永遠に変えてしまう先例となったのではないかと危惧している。
フェラーリと緊密な関係にあり、かつ技術提携契約を結んでいるハースは、この提携を利用して多くの利益を得ており、ライバルチームからはフェラーリの『Bチーム』のひとつだと見なされている。
またフェラーリはアルファロメオ・レーシングとも同じような提携関係を結んでいる。レッドブルはジュニアチームのトロロッソと事実上の業務提携を結んでいるほか、メルセデスもレーシングポイントと協力関係にある。
これまでルノーは『Bチーム』戦略を敬遠してきたが、アビテブールはハースが先べんをつけたこの戦略モデルは、今や不可欠のものとなりつつあるのではないかと考えている。
「我々が現在実施している戦略は、F1参入を開始した当初に決めた目的に沿っている」とアビテブールはAuto Motor und Sport誌のミハエル・シュミットに語った。
「その当時はいくつかのチーム、特にフェラーリやメルセデスが、無分別な拡大競争を始めるなどという想定はしていなかった。あれ(トップチームの予算規模)はもう別のスポーツであり、別の世界だ」
「我々はトップチームと同じ予算レベルで活動するという計画を持っていた。だが彼らは毎年拡大を続けている。彼らがつぎ込む予算は狂ったような規模だ。我々はそれを真似することもできないし、そのつもりもない」
そして、フェラーリとのアライアンスを組んだハースが、F1固有のパンドラの箱を開けるきっかけとなった。
「ハースは、もはや取り消すことができない先例を作り出した」
「私に言わせれば、時代は『ハース以前』と『ハース以後』に分断されたと思う。彼らのアプローチはF1をおそらく永遠に変えてしまった。10チームが実質的に4~5チームになったのだ」
「当時、今の戦略を開始したころには想定していなかったことだ。じきに、F1ではBチームを持っていなければ勝てない時代になるだろう」
アビテブールは、現状は自分には止められない流れになっており、FIAが介入すべきだと考えている。
「我々はフェラーリに勝つ前にまずハースに勝たなければならなくなる。そしてそれが困難になればなるほど、多くの賞金を獲得し、多くのスポンサーをつけることが難しくなる」
「今の状況は非常に深刻だと捉えている。これはルノーだけの問題ではない。同じ戦略モデルを採用できないチーム共通の問題だ」
「こうした拡大競争をどうすれば止められるのか、私には分からない。それらのサテライトチームも競争の一部であり、FIAは現状を認識すべきだ。我々は今のようなF1の一翼を担いたいとは思わない」
■ルノーF1、バジェットキャップ制度は逆効果と警告
さらに、2021年のF1の新レギュレーション施行と同時に導入が予定されているバジェットキャップ制度も、問題の解決にはつながらないとアビテブールは見ている。
「逆効果だろう。使える予算とリソースが減るのであれば、コラボレーション効果はさらに高まるはずだ」とアビテブールは主張する。
「ひとつのチームが空力開発に集中し、別のチームがシャシーに集中することができる」
「そうなればとてつもない規模のアライアンスが生まれてしまう。我々のように自前で続けていこうとすれば、もはや勝てるチャンスなどなくなるだろう」
ルノーがマクラーレンにエンジンを供給していることを前提に机上で考えれば、マクラーレンをBチームとする提携は合理的なようにも見える。
だがアビテブールは、これは実際には機能しないだろうと考える。
「なぜなら我々は対等なチーム同士だからだ。(Bチーム化によって)どちらが王様でどちらが奴隷になるというのだ?」
「どこかの時点ではマクラーレンと議論することになるだろう。だが、我々は提携するとしても、フェラーリとハース、メルセデスとレーシングポイント、レッドブルとトロロッソなどと同じレベルにはなり得ないはずだ」