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アイドルの夢は終わらないーー妄想キャリブレーション、ラストライブで提示した5人の未来

2019年03月12日 15:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 妄想キャリブレーションが、2月23日にZepp DiverCity TOKYOで開催した『妄想キャリブレーション LAST TOUR 2018/19 ~HOME~』をもって活動を終了した。


参考:妄想キャリブレーションが語る、活動終了でもブレない“前向きな気持ち”「叶えられる夢は叶った」


 妄キャリは、2013年に秋葉原ディアステージで活動するメンバーによって結成されたアイドルグループ。メンバーの変遷を経て、胡桃沢まひる、桜野羽咲、星野にぁ、雨宮伊織、水城夢子の5名にて、グループの幕を下ろすことを決めた。


 活動終了の理由は、至って前向きだ。およそ1年に渡り開催してきた『47都道府県ツアー』が、昨年4月に終了し、その後メンバーやスタッフを交え何度も話し合いを重ねた結果、「妄想キャリブレーションとして叶えられる夢は叶えた」という判断から、メンバーが個々に次のステップへ踏み出すことを決心した(参照:妄想キャリブレーションが語る、活動終了でもブレない“前向きな気持ち”「叶えられる夢は叶った」 )。


 妄キャリと妄想族(ファンの総称)にとって、ライブという場所は“HOME”だった。全国47都道府県に加え、アジア圏やロンドンを巡る海外ツアーも行い、妄想族は全世界に点在している。ツアーを経て見つけた「旅」というコンセプトで制作された1stメジャーアルバム『妄想道中膝栗氣 ~moso traveling~』然り、やはり妄キャリにとってライブとは5人それぞれの人生のような、自身を映す鏡であったように思う。


 そう感じたのは、今回のラストライブが今までの5年間を表すと同時に、5人のこれからを示す道標になっていたからだ。セットリストは、ダブルアンコールまで含め全31曲。その中で、5曲目「ちちんぷいぷい♪」から9曲目「アンバランスアンブレラ」までのブロック、続く10曲目「夢のカケラ、愛のカタチ」から16曲目「妄想が止まらない」までのブロックはDJドリチャイこと水城“夢子”によるDJノンストップミックスだった。自身の生誕祭やツアーのオープニングアクトとして披露していたDJ。ラストライブは優に3時間を超えるボリュームとなったが、それでも妄キャリの歴史を振り返る上ではとても足りない。そこでメンバーの個性を活かしながらセットリストにぎゅっと曲を詰め込むことができるのが、DJというわけだ。1ブロック目は、メジャーシングル曲とfripSide、ClariSのカバー曲、2ブロック目はインディーズ時代の楽曲で構成されていた。特に“始まりの曲”としてスタートした「夢のカケラ、愛のカタチ」は、音源化もされていないほどの初期楽曲だ。


 DJブロックが終わり、会場のスクリーンには2013年の妄キャリ結成から約5年に渡るグループの歴史がVTRで流れる。そのナレーションを担当したのが、胡桃沢。もともと自分の声が好きではなかった彼女は、妄キャリの活動を通し声優という夢を見つけた。決して順風満帆とは言えなかった妄キャリの歴史を、唯一の結成当時からのメンバーである胡桃沢が振り返っていくのは、ある種必然だったようにも思える。“宝物の1曲”として、メンバーが作詞に参加し、夢だったアニメ『冴えない彼女の育てかた♭』のエンディングテーマ「桜色ダイアリー」に繋がっていくのも憎い演出だ。


 羽咲桜野は本編終盤に「忘れられないクロニクル」をアカペラで歌い出した。彼女が進むのは歌手の道。力強くどこまでも伸びていくような歌声でサビの一節を歌うと、一瞬の静寂の後、会場が一気に沸き立つ。幾度ものライブを重ねてきた妄キャリのパフォーマンスは、歌唱力、ダンスと共に全員がハイレベルであるが、特に羽咲桜野の歌声はグループの武器と言えるものであった。まるでファンをリードしていくような羽咲桜野の歌声が響くパートは、ソロとしてステージに立つ未来の彼女の姿を想像させた。


 星野の夢はカメラマン。アンコール前、スクリーンには星野が撮影したメンバーの動画、スチールがスライドで流れた。撮影される側だったからこその、カメラマンとしての強みが星野にはある。にこにこパークの遊具に乗ったり、子どもと戯れるメンバー。淡い思い出として輝く一瞬、一瞬に素顔のメンバーがいた。「ひとまずは1年ぐらい普通に暮らして、資金を貯めてから、カメラの学校に行きたいなって思ってます」というインタビューでの発言に期待しながら、彼女のクレジットが話題になる未来を楽しみに待ちたい。


 アンコールの「手をつないで」「帰り道」の2曲は、雨宮がピアノを演奏した。「桜色ダイアリー」は、彼女がピアノでレコーディングに参加した1曲。「五線譜」「back stage」、そしてラストライブ後をイメージしてメンバー5人が作詞した「帰り道」も雨宮が作曲した楽曲だ。故郷への凱旋公演となった富山でのライブに続く、ピアノ演奏。幸せそうに笑みを浮かべながら弾く雨宮の姿と、4人の間に信頼関係が見えた。また、ダブルアンコールが終わり、スクリーンに流れたエンドロールのコスチュームには「雨宮伊織」のクレジットが。彼女はメンバーの中で一人、表舞台には立たない裏方として活動していくことを公表している。つまり、ファンの前に立てるのはこれが本当に最後ということ。“伊織との約束”としてファンと結ばれた「健康で幸せになってください」は、アイドルがファンに残すメッセージとして120点だ。


 2018年は、中堅アイドルが次々と解散を発表した年だった。グループそれぞれに活動を終える違った理由があるはずだが、世間一般から見ればそのほとんどがネガティブなイメージに捉えられており、妄キャリも決して例外ではないだろう。昨年は筆者も多くのアイドルグループの最後を見届けてきた。アイドルとしての活動を全うし表舞台から去るものもいれば、前キャリア同様、もしくはそれ以上に脚光を浴びているものもいる。アイドルとは誰かの夢の存在であり、次の夢を叶えられる場所でもあるということを、2018年は強く実感し、妄キャリのラストライブを観てそれを再認識させられた。ラストライブで次のキャリアを示すことができる5人は、きっと幸せだっただろう。5人それぞれの色が再び光を放ち出すのは、そう遠い未来ではないはずだ。(渡辺彰浩)