今月下旬から始まる統一地方選挙は、「18歳選挙権」が導入されて初めての選挙となる。各自治体では若者への投票を呼びかけているが、若者の投票率はどの程度になるだろうか。
3月8日放送の「モーニングクロス」(TOKYO MX)では、慶應義塾大学特任准教授などを務める若新雄純氏が、10代が投票率アップのために、「パブリック」(公)よりも「プライベート」(私)が重視さえている若者の現状を考えるべきだとの見解を示した。
パブリックなテーマが若者に届かないのは「当たり前」のこと
若新氏は、「なぜ若者は選挙に行かないのか」との疑問に対して、興味深い論文があると語る。政治系の研究者の間では当たり前のことらしいが、
「若者の関心が、パブリック(公)に対して縮小しており、プライベート(私)が拡大している」
のだという。
例えば、戦後ならば病院や学校がないなどの「パブリック(公)」が若者にも重要で、多くの人が政治に期待していた。だが今はそうしたインフラがかなり整備されているので、多少の社会的不満よりも自分の日常の中の人間関係や進路、生き方、趣味など「私的」なことの問題に関心が向いている。スマホの登場もあり、
「若者は公より私的空間への関心がずっと広がって、今後も止まらないだろう」
と解説した。自身も、若いときから常に自分の周辺のことばかり考えていたので、そうした考えはエゴではなく当たり前という認識にホっとしたと語る。
だが現状では、若い政治家でも医療や福祉、教育、経済などパブリックな政策しか論点にしていない。若新氏は、「それが税金を再分配していく政治家の役割であると思われているし、政治に期待してきた高齢者向けの政策が多い。現在もパブリックな政策が必要ないわけじゃないけれども、それが若者に届かなくなってきているのは当たり前のこと」などと解説した。
司会の堀潤氏が、「本当は公の中に私は含まれているし私は公と一体のはずなんだけど、うまく接続できていないよね」と感想を述べると、若新氏は「それもあるし、自分のプライベートっていう時間や空間が拡大しすぎてて、パブリックという存在が押しやられたというのもあるでしょう」と意見を重ねた。
私的政策を打ち出せる政治家は誕生できるか?
では、仮に若者の投票行動を促すために「プライベート政策」を打ち出す政治家がいたらどうなるか。
「あなたの人間関係、親子関係がうまくいくようにします!納得のいく人生の選択ができるようにします!日々の趣味が充実します!」
と打ち出しても、現状では「インチキ」「怪しい人」になってしまうので、工夫が必要だと若新氏は語る。その上で、今後興味があるのは、
「本当に若者向けのプライベート(私的)政策を上手に打ち出せる政治家は誕生できるか?」
とのことだ。
これに対して堀氏は、「確かに一億総中流と言われた時代なら、個人の問題が社会の問題に直結していたはず。でも(価値観が)多様になると、個人の問題が公を担えなくなってきた」と時代の変化を語った。
若新氏はこれに同意し、「公共全体がこうであればすなわち個人も幸せだよね、というのが日本の戦後の経済成長の中であったと思う。今は、個人に密着した政策をやろうとしても、『そんな個人のことに税金使っていいの』と(批判)されてしまう」と、難しい時代の空気も指摘している。
また、番組放送後、キャリコネニュースの取材に若新氏は以下のように語った。
「若者の問題意識や関心が公から私に変わってきたというのは、単に視野が狭くなったということではないと思う。社会の公的な制度やインフラが整備されたことで、自分自身のことと深く向き合う余裕ができるようになり、私的な問題こそが人生において深刻で重要なものになった。でもその内容は個人によってバラバラで、政策として打ち出すのが難しい。その壁を乗り越えてくるような政治家や政党の出現に期待したい」