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『バンブルビー』なぜ高評価を獲得? 『トランスフォーマー』シリーズの今後を占う重要作に

2019年03月11日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 3月22日に『トランスフォーマー』シリーズ最新作『バンブルビー』が公開となる。米国では昨年の12月21日に公開され、大手映画評論サイトRotten Tomatoesでは一時100%フレッシュを記録。3月6日現在も93%の高フレッシュを記録している。シリーズ最高傑作との呼び声も高い。


参考:『トランスフォーマー』シリーズ10年の歴史が獲得した、偉大なるマンネリズム


 遡ってみると、第1作『トランスフォーマー』から第5作『トランスフォーマー/最後の騎士王』までのRotten Tomatoesの評価は、57%、19%、35%、18%、15%とこれまで低空飛行が続いている。もちろん、作品の良し悪しと評論家による評価は必ずしも一致するわけではないが、今回は、風当たりが強かった本シリーズに対して、米国の評論家筋が手のひらを返したことは疑いようがないだろう。


 本作の舞台は1980年代。第1作『トランスフォーマー』でシャイア・ラブーフ演じるサムがバンブルビーと出会う以前の話が描かれる。前シリーズと大きく異なる点は、これまでメガホンを取ってきたマイケル・ベイが製作総指揮になり、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』のトラヴィス・ナイトが抜擢されたところ。


 そのためだろうか。これまでの『トランスフォーマー』シリーズで顕著だったストーリーテリングのスケールの広がりやダイナミックに世界を巻き込んだ戦闘というものが極端に抑えられ、ただのポップコーンムービーではなくミニマムな人間ドラマに寄り添った秀作へと昇華されているのだ。


 Rolling Stone誌は、本作を「これまで『トランスフォーマー』シリーズを嫌っていた人々に向けた『トランスフォーマー』映画」と評している。ヘイリー・スタインフェルド演じるチャーリーは、家庭環境に悩みを持ち孤独を抱くティーンエイジャー。その少女が未知との遭遇を果たすことによって、人間的成長を遂げる姿にフォーカスしており、これまでのシリーズでは描かれることのなかった舵切りがなされたことが1つのヒットの要因だろう。


 さらには、主演を務めたヘイリー・スタインフェルドの功績も大きい。ReelView誌は、「この映画の大部分は、ヘイリー・スタインフェルドのパフォーマンスによりできている。他の『トランスフォーマー』映画で、こんなにも作りこまれたキャラクターを見たことがない」とコメント。登場人物の描き方の深さも、本作が歴代シリーズと大きく異なる点だ。


 また、今回のバンブルビーは記憶をなくしており、チャイルデッシュな様子で登場する。その姿は、外見にも反映されており、過去シリーズのシボレーのカマロをモチーフにしたスポーツカーのスタイリッシュなデザインとは違い、フォルクスワーゲンのビートルの可愛らしい姿で描かれている。細かいディテールにもこだわりが感じられる。


 「トラヴィス・ナイトは、2つの大きな青いフラッシュライトでできたバンブルビーの瞳から優しさを抽出し、さらに巨大な機械に心臓の鼓動を与えることに成功した」と評したのはDetroit News誌。血の通ったロボットの表現力に心を打たれることだろう。


 本作の予算は推定1億3500万ドルとされており、これは歴代シリーズの中で最低予算で製作されたこととなる。日本以外の国での公開が始まった今年1月21日時点での世界全体の興行収入は、4億1373万ドル。前作には届かなかったが、上々の結果だ。パラマウント・ピクチャーズは昨年5月の報道で、今年6月に公開が予定されていた『トランスフォーマー6』の製作を中止しており、さらに昨年12月には、『トランスフォーマー』シリーズは今後も製作されるが、その内容は今まで作ってきたものとは違うものになると明言しており、シリーズ全体の今後を模索している最中にある。


 マイケル・ベイが2007年に世に放ったビッグシリーズは、今トラヴィス・ナイト監督という新しい血を入れたことにより、マンネリ化からの脱却への糸口を掴みだした。この先、MCUシリーズのように様々な監督の手によって、多様性を見出すかもしれない。今後のシリーズの展開を占う意味でも今作『バンブルビー』は必見の一本となっていると言えるだろう。


(安田周平)