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ドラマ『3年A組』と主題歌「生きる」に共通する、“優しさ”や“温かさ”の構造

2019年03月10日 08:01  リアルサウンド

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 ついに最終回を迎えるTVドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)。このドラマにおいては前回、主題歌であるザ・クロマニヨンズの「生きる」の歌詞の内容とドラマの繋がりを考察してきたが、今回は楽曲の作りと、作品のプロットを比較して考察したい。


(関連:菅田将暉主演ドラマ『3年A組』主題歌、なぜザ・クロマニヨンズ「生きる」に? “繋がり”を考察


 複雑なコード進行と黒鍵ばかりのメロディで構成された昨今のJ-POPの中で、「生きる」は非常にシンプルな構成をとっている。C→Am→F→Gという単純かつ聴いていて気持ちいいメジャーコードと同じリフが繰り返されるだけで、ドレミファソラシドで構成された単純で美しく耳なじみのいいハ長調を徹底し、黒鍵によるシャープやフラットは「生きる」のメロディの中には一つもない。メジャーコード4つで曲を構成するのはパンクロックの基本的な楽曲構成であり、ザ・クロマニヨンズはキャリアの中でずっと同じことをやってきている。ヒロトの発するシンプルで力強いメッセージはなぜいつの時代にもこんなに心に響くのだろうか。


 ここで、TVドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』のプロットの構成へと視点を移動させよう。ドラマの全体的なプロットは、登場人物ひとりひとりに設定された「秘密」をアンロックする(解錠して明かす)ことで、ストーリーのステージが上がる仕組みになっており、それにより視聴者がまるで劇中のネットの声のように誰が「悪」なのかを右往左往しながら推理して視聴する仕組みとなっている。毎回最後に起こるクリフハンガーも秀逸で、視聴者の興奮も回を追うごとに高くなっている。そのラストにザ・クロマニヨンズのシンプルなメジャーコードのパンクソング。初めは違和感を感じる人も多かったのではないだろうか。


 では、物語全体のプロットから一話ずつのプロットへと、視点を一つ下げてみる。するとどうだろう。基本的には、「問題が提示され」「学校や世間が混乱し」「登場人物の一人の秘密がアンロックされて窮地に立たされる」「柊が諭し、その人物は救われる・成長する」という流れを毎回しっかりと踏襲している。これは学園ドラマの王道プロットであり、先で挙げた「C→Am→F→G」のメジャーコードの起承転結と言ってもいい。『3年A組』は「邪道」と見せかけつつ、実は至極「王道」な学園ドラマの構造を持っているのだ。


■甲本ヒロトと真島昌利が歌い奏でてきた、人の心が持つ弱さと強さ


 シチュエーションが違っても、人の心が持つ弱さと強さを、ザ・クロマニヨンズのメンバーである甲本ヒロトと真島昌利はずっと歌い、奏でてきた。THE BLUE HEARTS、THE HIGH-LOWSを経ながら、二人が残してきた不器用なようで力強いシンプルなコードに乗せられたメッセージが、現在になってもあちこちで流れてくるのは、ハ長調音階のように人の心に優しさや温かさを蘇らせてくれるからかもしれない。


 そう考えると『3年A組』で菅田将暉演じる柊一颯の生徒や世間への一切ブレない視点が生む、温かい眼差しと鋭い檄は、ザ・クロマニヨンズの「生きる」そのものである。どんなに辛くて迷いがあっても、この先もこの曲で真っ直ぐに生き抜いていってほしい。そんな柊一颯の声が聞こえてくる。(石川雅文)