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杉咲花を占うユニークな展開に 『ハケン占い師アタル』が問う、仕事における“存在価値”

2019年03月08日 06:51  リアルサウンド

リアルサウンド

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 母である占い師・キズナ(若村麻由美)と、ついに対面することとなったアタル(杉咲花)。自身のもとから逃げ出したアタルを、キズナは連れ戻そうとするのだ。


 3月7日に放送された木曜ドラマ『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)第8話では、部長の代々木(及川光博)も加わり、より強力となった「シンシアイベンツ」制作Dチームの面々が、アタルをキズナから守るべく奮闘。これまでに彼らを救ってきたアタルのことを、なんと今度は彼らが占うこととなる。


【写真】『ハケン占い師アタル』第8話シーン写真


 アタルがキズナのもとを逃げ出したのは、アタルの特殊能力である占いを、キズナが金儲けの手段にしていたからだ。いままでにもDチームの人間がアタルの過去に触れようとしたことはたびたびあったが、それについて語ることを拒否する彼女の反応を思い返せば、いかにその過去が過酷なものであったか容易に想像できる。


 本作では、迷える子羊であるDチームの者たちの成長が描かれてきたが、それはじつはアタルも同じなのだ。彼女にとっては初めての社会人生活で、その成長過程が表立って描かれていなかっただけなのである。つまりこの回で、アタルの成長と、働くということの難しさへの実感が顕在化することになったのだ。


 ところがキズナは、占いだけがアタルの存在価値であり、いまの仕事はやがてAIによって必要なくなるものだと酷なことを言い放つ。これに対しアタルは、この職場における、占い以外に自分にしかできない仕事があるのだと証明しようとする。それが無理なのであれば、キズナのもとへと戻るのだという。


 ここからが、いまのDチームの本領発揮。アタルとともに、大手ゼネコンが主催するイベントのコンペに挑むこととなるのだ。だがやはり、まだまだ経験の浅いアタルには厳しいものである。いい案は浮かばず、彼女からは珍しく焦燥感がにじみはじめる。やがてアタルにとって初めての「仲間」である皆の、懸命な姿勢とも衝突してしまうことなるのだ。その上、今までになく彼女はミスを連発。チームには軋轢が生じてしまう。コンペへの挑戦だけでなく、自分が乱してしまった職場の環境。アタルが越えるべきハードルは、思いのほか高い。そんな迷える子羊となってしまったアタルを、Dチームの面々が占うと言い出すのだ。


 これまでアタルはチームの皆を占ってきた。この占いの場面では、いつもニコニコしている彼女から高圧的なキャラクターへの転換と、演じる杉咲のまくしたてるような台詞回しが見ものであったが、今回は皆と立場が逆転。Dチームの面々は一様に腕組みし、無理に厳かな態度でアタルと対峙する。7対1という、壮観でユニークな展開だ。そこでアタルは、母であるキズナにぶつかっていくしかないとの言葉を受け取り、皆に背中を押される。


 そしてアタルがキズナに訴えたのは、「自分の人生をいきていきたい」「分かっている未来は欲しくない」という、至極まっとうなものだった。なかなか話の通じない毒親ではあったが、彼女自身もまた、大きな問題を抱える人であることがアタルの能力により発覚したのだ。結局すっきりとした母娘の別れとはならなかったが、両者にとって前向きな別れとなったことはたしかである。


 この8話で、「自分の存在価値」という今までで最も重いテーマが描かれたが、気がつけば次週が早くも最終回。この物語の人々の行く末と本作に託されたメッセージを、最後まで見届けたい。


(折田侑駿)