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“実況映え”するゲームの条件とは? ゲーム実況人気タイトルから考える

2019年03月07日 10:41  リアルサウンド

リアルサウンド

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 動画・ライブ配信サービスの誕生後に生まれ、今やYouTubeをはじめとした動画サイトの中でも一大ジャンルを築き上げているゲーム実況。新しい時代のエンターテイメントとして若い世代を中心に親しまれているゲーム実況だが、普通にプレイして面白いゲームと、実況して面白いゲームは必ずしも一致しない。


(参考:菅田将暉、aiko、須賀健太、西野七瀬……あの有名人が見ているYouTuberって?


 たとえば、下半身が釜に入った男がハンマーで山を登る『Getting Over It with Bennett Foddy』はその難易度の高さからあまりにもストレスが溜まるポイントが多すぎて、独自の良さはあるものの万人向けとは言いづらい。ところが、このゲームを扱ったゲーム実況は人気を博しており、多くの実況者やVTuberが本作に挑戦している。


 ゲーム実況者はどのような基準で実況する動画を選んでいるのか? 実況して面白いゲームとはどのようなゲームなのか? この記事ではゲーム実況で人気のタイトルを例に出しながら”実況映え”するゲームについて考察する。


■実況者にどれだけリアクションさせるか? ホラー系フリーゲーム
 ホラーゲームと実況プレイは相性が良い。2006年、ゲーム実況の黎明期に「びびりバイオハザードプレイ」というタイトルのゲーム実況が人気を博したのを覚えているだろうか。


 実況者がゲームプレイ中に感じている恐怖を視聴者と共有でき、さらに実況者の驚くリアクションまでエンタメになる。実況者が意図せずとも、必然的に動画をエモーショナルなものにするのがホラーゲームなのだ。


 そんなホラーゲームの中でも、ニコニコ動画・YouTubeの実況動画を中心に火がついたのが『青鬼』を代表とするホラー系フリーゲーム。無料でプレイ可能でキャプチャボードのような配信用機材も必要ないフリーゲームは実況者にとって気軽にプレイできるタイトルで、かつ前述の通りホラーゲームと実況の相性は抜群だった。


 『青鬼』や『魔女の家』では初見プレイでは到底ゲームオーバーを避けられない”初見殺し”なポイントがゲーム内に多数登場し、プレイヤーを苦しめる。実は、この初見殺しこそがゲーム実況者にリアクションをさせるきっかけを作り出している。いわゆる出オチ的なゲームオーバーは通常のゲームプレイではストレス源になるが、実況ならばリアクションのネタになるのだ。


■動画の数だけ生まれるクリティブ系ゲーム
 ホラーゲームに続いて実況動画で人気なのが、『マインクラフト』や『スーパーマリオメーカー』のようなクリエイト要素のあるゲーム。


 サンドボックス系のゲームは、プレイヤーが作り出す建築物や地形が当然ながら人それぞれ違ってくる。すると、同じ『マインクラフト』の実況動画でもそれぞれの動画が差別化される。


 RPGやアドベンチャーのようなある程度決められた道を辿るゲームでは、実況者のトークが異なるだけでゲームの内容自体は動画ごとに大差のないものになりがちだ。しかし、『マインクラフト』や『テラリア』といったサンドボックスゲームは実況者ごとに多様なゲームプレイが成立する。


 同様に、歴代マリオのステージを自分でデザインできる『スーパーマリオメーカー』も、動画ごとの差別化が容易であるため多くの実況者がこぞってプレイしている。


 このタイトルは、オンライン上にアップされた他人のステージをプレイできるのも実況者にとって嬉しいポイントだろう。今をときめくトップYouTuberのヒカル氏も、かつては700本以上の『スーパーマリオメーカー』実況をアップロードしていたが、その多くはオンラインで公開されているステージのプレイ実況だ。


■予定調和を破壊する”縛りプレイ”
 こちらはゲームジャンルとは少し違うが、ゲーム実況で独自のジャンルを築いているのが”縛りプレイ”だ。縛りプレイもクリエイティブ系のゲームと同じく、同タイトルの別の実況動画とコンテンツを差別化する効果がある。


 通常のゲームのルールに加えて、プレイヤーが自身にいくつかの制約を課してプレイ(勇者1人旅や、コンティニュー禁止など)する縛りプレイは、ゲームを通常とは全く違った角度から照らしだせる。


 開発者の意図していない難易度でプレイするゲームは、まるで別のゲームのような姿となって実況者とリスナーの前に立ち現れる。


 人気実況者”うんこちゃん(加藤純一氏)”の『ポケットモンスター』”ポケセン縛り”は、通常なら小学生でもクリアできる難易度のポケモンを、「大人がプレイしてもクリアできるかどうか」というレベルまで難化させたハイレベルな縛りプレイだ。この縛りではうんこちゃんが繰り返しリスナーにアイテムの場所や技の選択について意見を募っているのが興味深い。縛りプレイでは、難易度が高いからこそ実況者とリスナーの間にコミニケーションが生まれるのだ。


 本来は報酬のない無意味な制約である縛りプレイも、リスナーとゲームプレイを共有することによって、そこに価値が生まれてくる。


■見世物であり教材! FPS・TPSの場合
 これまで挙げてきたジャンルとは違った理由で実況映えするジャンルが、シューター系のタイトル(もしくは格闘ゲームやMOBAなど広くeスポーツと呼ばれるゲームを入れてもいいだろう)。


 シューター、特にFPSは画変わりが乏しく、似たような画面が実況動画中かなりの長時間持続する。これは通常のゲーム実況の観点からすれば、リスナーが飽きてしまうリスクがありデメリットなのだが、シューター系ゲームにはその点を補って余りあるメリットも存在する。


 シューターを含めeスポーツ系のゲームでは、リスナーが配信者に求めるのは上手いプレイだ。ゲーム実況者ではトップクラスのYouTuber”2Bro.”は、FPS・TPSのプレイが上手いことが人気の理由のひとつになっている。


 そして、華麗に敵をキルする瞬間が見世物として成立すると同時に、リスナーが自身のプレイに生かすための教材にもなり得るのが上手いシューター系実況の魅力だ。


■実況映えするゲームの条件
 ここまで具体例を挙げながら実況映えするゲームについて考察を重ねたが、それでは一体どのようなゲームが実況映えするのだろうか?あくまで仮説ではあるが、私は今回の考察をもとに3つの条件を提示したい。


・実況者の強いリアクション(喜怒哀楽)を誘う
・同タイトルの他のゲーム実況と差別化しやすい
・実況者とリスナーのコミニケーションを促進する(教える←→教わる関係や、協力プレイ)


 もちろん、こういった条件抜きに単純に人気のタイトルが実況されやすい側面は間違いなくあるが、ゲーム実況だからこそ面白くなるタイトルも存在する。


 ゲーム実況には著作権の問題も付きまとうが、ゲームと実況がうまくマッチしたとき、ゲームの潜在的な面白さを実況者が引き出し、実況者のポテンシャルをゲームが引き出すという共鳴にも似た現象が起こる。


 だからこそ、ゲーム実況を見るのはやめられない。


(脳間 寺院)