東京都の児童養護施設「若草寮」で施設長を勤める男性が2月下旬、元入居者の田原仁容疑者に殺害された。田原容疑者は「施設関係者なら誰でもよかった」と話しており、警察庁は詳しい動機を調べている。
この事件について、精神科医の香山リカ氏が3月4日放送の「モーニングCROSS」(MX系)で言及した。香山氏は「18歳までは基本的に施設で育つことができますが、そこを出た時の問題が非常に大きい」と退所後の生活の困難さを口にした。(文:石川祐介)
一般人の大学進学率は5割、一方、施設出身者は1割に留まる
続けて、高校を卒業した人の半分以上が大学進学をする昨今において、施設出身者の大学・進学率は1割程度に留まり、就職率が7割にのぼる状況だと解説する。香山氏は、
「単純に施設でご飯を食べさせて育てるのではなくて、その人達のライフチャンスをいかに広げるかが注目点になっています」
といい、施設に入所しているというだけで、自分の人生の選択肢が狭められてしまっているのが現状だと指摘。施設出身者であっても本人がやりたい仕事や勉強ができる環境を整え、モチベーションを育てていくのかが重要と語った。
また東京都にある「自立支援コーディネーター」という制度を説明。コーディネーターを施設に配備し、ただ大人になるだけではなく"どんな人生を歩むか"を含めてサポートする試みだというが、「十分ではないです」という。
「いかに自分らしい人生を歩んでいけるかを、社会で支援していく事が必要になる」
ほかに取り組みとして、児童養護施設出身者に対して奨学金制度を設けている大学があることも挙げた。例えば立教大学では、入学金や授業料は全額免除し、生活費年間80万円支給する制度がある。ほかにも、早稲田大学、青山学院大学などでも実施されている。しかし、
「まだあまり多く利用されていない。知られていない。施設で育つ子供達が『俺は早稲田行くぞ』とか『俺は立教だ』っていうようなモチベーションを与えられていない」
と指摘した。香山氏は「今回の事件がどうして起きたかはわかりませんけど」と述べた上で、
「そういうのを防ぐためにも、施設出身の人達に偏見を持つのではなく、彼らがいかに自分らしい人生を歩んでいけるのかを、社会で支援していく事が必要になってくる」
と語った。施設にいる間の生活だけでなく対処した後の生活まで細かくフォローする制度づくりが、今回のような悲劇を未然に防ぎ、生き辛さを抱える人を減らすことにつながるのかもしれない。