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そらるの最近の“お楽しみ”は? 『ユーリカ』の制作にも欠かせなかったワクワクする感情の源

2019年03月06日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 そらるが、2ndシングル『ユーリカ』を3月6日にリリースした。


 表題曲は、MBS/TBSドラマイズム『ゆうべはお楽しみでしたね』のオープニングテーマとしてそらるが書き下ろしたタイアップソング。オンラインゲームで知り合った男女がルームシェアを始めて恋に落ちていくという原作の運命的な出会いに着想を得て、新たな恋物語を表現した一曲だ。また、本作にはじんとの共作曲「群青のムジカ」や卒業ソング「長い坂道」を収録。シングル1枚を通して“現在と過去”と向き合う様々な姿が投影されたコンセプチュアルな作品に仕上がっている。


 今回リアルサウンドでは、最近の“お楽しみ”は「食べること」と「ゲームをすること」だというそらるとともに、本作と同じ名前を持つ運命的なビストロを訪問。リラックスしたムードの中、作品の話はもちろん、普段の曲作りや最近気になった音楽の話題などについても話を聞くことができた。(編集部)


(関連:そらる、動画投稿から広がった音楽活動への思い「知ってもらえるきっかけを増やしていきたい」


■前作『銀の祈誓』を振り返って


ーー初のシングル『銀の祈誓』リリース後の手応えは?


そらる:個人でシングルを出したのが初めてだったので、リリースするまではどうなるのかわからない怖さが少しありました。でも、みなさんのおかげでオリコン週間ランキングで2位という素晴らしい結果を残せて安堵しましたね。表題曲はTVアニメ『ゴブリンスレイヤー』のエンディングテーマとして書き下ろして、アニメの打ち上げにも参加させていただきました。スタッフさんや監督さんからも感想をいただけたのは、今までにない経験でとても新鮮でした。あとカップリングの「ゆきどけ」は、特にCDを聞いてくれた人たちからの反響が高くて。みなさんに喜んでいただけてなによりです。


ーー初の書き下ろし曲で得たことはありましたか。


そらる:タイアップでは作品にしっかり合う曲を作りたいという気持ちがあって。アニメサイドはじめ、いろんな方とお話しながら曲を書いていきました。その作業はもちろん大変でしたけど、人と何かを作るのは好きなので苦ではなかったです。お互いに目指すものがあって、よりよいかたちになっていくのがタイアップのいいところですね。


■“幸せ”を表現した「ユーリカ」と、憧れのじんとの共作曲「群青のムジカ」


ーー「ユーリカ」も書き下ろし曲となりましたが、どのように作っていったのでしょう。


そらる:ドラマ『ゆうべはお楽しみでしたね』のオープニングテーマになることが決まっていたので、まずは原作漫画を読みました。物語の題材になっているゲーム『ドラゴンクエスト』は、もともと自分が大好きだったゲームなんです。何度も何度も繰り返しプレイしてきたので、曲を作る上でもやりやすい部分はありました。あとは原作のストーリー同様、幸せを感じてもらえるような曲にしたいなと。


ーー“幸せ”を表現する上でサウンド面で工夫した部分は?


そらる:アレンジャーの三矢禅晃さんと相談しながら進めていく中で、まずは過去に一緒に作った曲で今回のイメージに近い曲をお伝えしました。あとは、1番と2番のBメロにゲーム的な要素を入れたかったので8ビット的な音を入れたり、歌詞に合うようなサウンドをそれぞれセレクトしていきました。サビはキラキラしたストリングスやシンセサイザーの音を使って、とにかくハッピーな感じにしたくて。この曲では音色もいろいろと指定させていただきましたね。一番最初にいただいたデモはかわいくなりすぎていたところもあったので、きれいな印象に少しずつ調整していって、結果いいかたちでまとまったんじゃないかなと思っています。


ーー歌い方について意識したことはありますか。


そらる:8ビットを使っている部分ではボーカルにオートチューンをかけているんですけど、普段の歌い方ではなくエフェクトがより際立つように歌っています。ビブラートをかけるのではなく、なるべくシンプルにまっすぐ歌うというか。普段から「ここはこう仕上げたいからこう歌おう」というのはあらかじめ決めるようにしています。楽曲の雰囲気に合わせた歌い方を常に心がけているので、曲によって少しずつ歌い方を変えるんです。そういう部分には、やっぱりこれまでいろいろな歌を歌ってきた経験が生かされていると思いますね。


ーーこの曲の歌詞のポイントは?


そらる:前作の「銀の祈誓」はファンタジー要素の強い曲でしたけど、「ユーリカ」の歌詞は〈ボーナスステージ〉〈ゲームオーバー〉などゲームの要素が含まれていても、そういった世界に憧れを抱いている、あくまで現実世界のことを歌っていて。どちらかというとファンタジーとは真逆の、気弱な男の子の現実について書いています。タイトルの「ユーリカ」の意味にあるような「こんな運命的な出会いがあるんだ」という驚きをゲームのプレイにあてはめて表現した曲になりました。


ーー「群青のムジカ」はじんさんとの共作曲です。お二人はいつからのお付き合いですか?


そらる:もともとじんさんのファンで、「カゲロウデイズ」などの楽曲を歌わせてもらったことからつながりができて。1stソロアルバム『そらあい』(2012年6月発売)のときに1曲じんさんに書き下ろしをお願いしたんです(「キミノメヲ」)。その当時は、まだ誰かに書き下ろしをお願いしたことがほとんどない時期でしたね。なので、今回シングルを出すことになって、ぜひまたじんさんにお願いしたくて。シングルではまだ誰かに書き下ろしをお願いしたことがなかったので、タイミング的にもバッチリで。合作ではありますがお願いできてよかったです。


ーーじんさんの楽曲のどういうところに惹かれますか?


そらる:自分はワクワクする曲がすごく好きなんですよ。でも、意外となかなかそういう曲に出会えないんです。人によってワクワクするポイントは違いますけど、じんさんの曲は歌詞もサウンドもワクワクする……それが一番の魅力だと感じています。そこがもう最高ですね。だから曲をお願いするときも、「ワクワクする曲にしてほしい」ということは言ったような気がします(笑)。あとはシングル全体の構成も考えて、あえてじんさんには疾走感のあるロック色の強い楽曲をお願いしました。本当にいい曲を書いていただきました。


ーーこの曲の歌詞のテーマは?


そらる:歌詞を作るとき、じんさんからは「基本的には全部お任せします」と言われていて。そのあとにじんさんとお話する機会があって、「長く活動を続けているからこそある、出会いと別れの中の葛藤」というような、お互いの共通点が見えてきたんです。良いことも悪いこともあったし、出会いも別れもある、それでも進まなきゃいけない瞬間があった。そういうことがお互いに共通する部分としてあるんじゃないかと感じて、そのことをテーマに書いていきました。曲を作るときのイメージはなんとなくあるんだろうなとは思っていたんですけど、じんさんも同じようなことを考えながら曲を作ってくれたみたいです。じんさんの曲がずっと好きだったのでハードルは高かったですが……出来上がった曲を気にいってくれて「もう泣いてます」とまで言ってくれたので(笑)、喜んでもらえてよかったです。


■高校時代の体験を歌にした「長い坂道」


ーーもう一つの収録曲、「長い坂道」はどのように作っていきましたか?


そらる:卒業ソングを作ろうと思って作り始めました。3月のリリースなので季節的にもちょうどいいかなと。卒業ソングといえば合唱ということで、合唱曲を意識した作りになっています。でも合唱はみんなで歌ったハーモニーがあるからこそ気持ちよく聞こえるので、今回はポップスに寄せながら合唱曲の要素を入れるような形で作っていきました。


ーーこの曲の歌詞には、そらるさんの実体験が反映されているそうですね。


そらる:自分の高校の卒業式のことを思い出しながら書いた曲です。卒業式のあとに仲のよかった数人でずっと教室に残って話をしていて。普段は早く遊びに行きたくて、授業が終わったら走って教室を飛び出していたのに、この日は〈いつも待ちわびたチャイムが今日はこんなに鳴らないでほしい〉と感じられたんです。“長い坂道”も自分の学校に本当にあったんですよ。ずっと嫌だと感じていたこと、早く帰りたいと思っていた教室、長い坂道……過ぎてみたらそれがよかったなと感じられる。学生でこの曲を聞いてくれる人も多いと思うんですけど、これからの各々の人生、いろいろな坂道があったとしても過ぎてみればいい思い出に変わっているはず。「きっとよかったと思える瞬間がくるよ」ということを歌にしたかったんですよね。今まで書いた中で一番、自分が感じていたことがそのまま曲になっています。体験をそのまま歌詞にすることはあまりないですけど、説得力がない卒業ソングにはしたくなかったので。経験に基づいて感じること、この歳まで生きてきて感じることもありますし。この曲は変に気取らず、歌い方もできるだけまっすぐ歌うことを意識しました。


ーー『銀の祈誓』の「嘘つき魔女と灰色の虹 -acoustic ver.-」に続いてのSUNNYさんとの曲作りはどうでしたか?


そらる:とにかく完成度の高い曲に仕上げていただきました。ただ、申し訳ない話なんですけど、曲構成をアレンジから少し変えさせていただいて。間奏が長くて、もともとは7分近くあったんです。幻の間奏部分のアレンジもめちゃくちゃよかったので入れられなかったのは残念ではありました。合唱曲のイメージはアレンジでも汲んでいただいて、送ったデモのシンプルな伴奏の弾き方もそのまま活かしてくださったり、本当に感謝です。


ーーシングル『ユーリカ』の3曲からは「現在と過去」という時の流れが感じられます。


そらる:「ユーリカ」が「運命の出会いと歩み」をテーマに主人公の内面の成長を描いた曲だったので、並べてシングルを聞いたとき、他の曲もつながりを感じられるように作ろうと思ったんです。「群青のムジカ」はじんさんからインスピレーションをいただいた「葛藤の中での出会いと別れ」、「長い坂道」は「卒業と旅立ち」をテーマに未来への期待を書いたように、それぞれのシチュエーションごとに「現在と過去」と向きあうような作品になりました。自分は最初に物語を作る歌詞の書き方が多くて、今回もそれに近い作り方をしました。それぞれの曲に物語があるからこそ、時間の流れを感じやすいというのはあるかもしれないです。


ーー輝竜司さんによる3種類のジャケットからも時の流れを感じることができますね。


そらる:司さんと相談する中で時系列でつながりがあるかたちがいいんじゃないかという話になって、時系列順にラフをたくさん書いてもらった中からセレクトして決めました。「ユーリカ」の歌詞に〈竜の背で知った恋〉というフレーズがあるので、初回限定盤Aはひとりで寂しそうな顔をしている男の子、通常盤は翼の生えた女の子から冠をもらっているところ、初回限定盤Bは冠をかぶって竜の背に乗っている男の子、というようにストーリーがわかるような絵になっています。今回のジャケットは本当に最高なので、このイラストを見てCDを欲しいと思ってくれる人も多いんじゃないかなと思っています。


■創作には欠かせない“息抜き”と“お楽しみ”のお話


ーー歌詞についてもいろいろお話を聞きましたが、歌詞はふだんどのくらいの期間で書いていますか?


そらる:曲によってバラバラですけど、「群青のムジカ」は1~2日くらい、「長い坂道」は5日くらいかかりました。昔はもっとかかっていたので少しずつ早くなってはいるのですが、歌も同じで時間をかけたらいいものになるわけでは決してなくて。むしろ勢いで書けたほうがいいなと感じることもあるし、歌も勢いで一気に歌えるほうがいいときもある。コツは昔よりつかめているので、もうちょっと精進していかねばなと思っています。結局、自分が納得できるか、できないかなんです。納得できないものは表に出せない。でも納得できないと無限に終わらないし、下手するとボツになることもある……とにかくやっていくしかないんだろうなと改めて感じています。


ーーなかなかアイデアが浮かばないときは?


そらる:ちょっとゲームをやって脳みそをリセットしてからフレーズを聞き返すと出てきたりしますね。それでも出てこないときは寝ちゃいます(笑)。脳みそが凝り固まってるとアイデアって出てこないんですよ。だから息抜きにゲームをするだけでもけっこう違うんです。メロディを流しながら口ずさんでぱっと浮かんでくるときは、リフレッシュした後のことが多いですね。


ーー歌詞とメロディともにストックがあるんですか? それとも曲を作るときにゼロから?


そらる:メロディはラフみたいなものがあったり、歌詞は言葉のメモがあります。それを見返しながら作ったりしますね。あと、会話の中から新しいことを発見することも多いです。自分の考えを言葉にしてみて自覚することってあるじゃないですか。人との会話の中で出てきたことを曲にしてみたいとか、当たり前だった考えがそうではないことに気づいて、それを言葉にしてみたらおもしろいんじゃないかとか、そういった気づきはあります。まだまだいつか書いてみたい曲はありますよ。甘ったるい恋愛の歌詞とか、クリスマスソングみたいな定番モノも作ってみたいかも。まあそんなラブソングなんて一生書かないかもしれないですけど(笑)、そういう裏テーマがある曲があってもいいかもしれないですね。


ーー「ユーリカ」がオープニングテーマを務めた『ゆうべはお楽しみでしたね』にちなんで……そらるさんは今、なにをしているときが一番楽しいですか?


そらる:うーん、ご飯を食べてるときか、ゲームをしてるときですかね。音楽は手放しで楽しいものではなくて、楽しい瞬間はあるけどその分苦しい瞬間もあるので、ただ楽しいだけなのは、ご飯とゲーム(笑)。でも音楽で得られる喜びはそれとは比べものにならないから、そういう意味で音楽は楽しいですよ。たとえばゲームもプロゲーマーになって、勝ちを求められるようになったら自分は楽しくなくなると思うんです。仕事としてしっかりとしたクオリティを求められるようになったからには、音楽を純粋に楽しむのは自分の人生では難しいなと思いますね。曲を聴くときも、曲の作り方とか歌い方、どういう音作りなのかというエンジニア視点の聴き方になっているんですけど、文章を書く人、映像を作ってる人、みんなそういう考え方が出てくると思う。だから純粋にコンテンツとして、娯楽として楽しむことから離れていくのはしかたないんだろうなというのはありますよね。でも、そんな中でも純粋に「これはめっちゃいい曲!」と思うこともあって。


ーー最近もありましたか?


そらる:去年の作品ですけど、『グレイテスト・ショーマン』のサントラはすごくよかったですね。映画を見たのが公開が終わりかけの時期だったんですけど、純粋に曲がいいなと思ってアルバムを買いました。あとは『スプラトゥーン』というゲームのサントラ。『闘会議2019』というゲームイベントでキャラクターを投影してパフォーマンスするライブをやってたんですけど、めちゃくちゃ演出がよくて。好きでいつもやっているゲームのBGMをライブアレンジで聴けるのもよかったです。あれはみんなに観てほしいなあ。ワンマンライブはやっていないようですけど、やっていたら絶対観にいきたいです。YouTubeで動画見ながら泣いてましたもん(笑)。やっぱりゲームを作る会社ってすごいですよね。ワクワクを与える仕事なので、ライブもワクワクしたし。素晴らしかったなあ。自分もそういうみんながワクワクできるような作品を作っていけるようになりたいと思いますね。


ーー3月からはそらるさんが全国にワクワクを届けるツアーもスタートします。


そらる:舞台のセットやセットリストを決めるのも終わっているので、あとは準備をしていくだけです。どういうことをやりたいのかもお伝えしていて、いい感じになるんじゃないかなと。ソロは1年半ぶりくらいなので緊張もありますけど、前回のライブは本当にいろいろな方に褒めていただいたので、今回はそれを超えていきたいですね。After the Rainでステージに立つようになって、ソロでもなんとかなるだろうと思えるようになりました。何事も慣れですけど、慣れれば慣れるほど感動が薄れてしまうこともある。だからこそ常に新しいものを得られるようにライブのステージにも臨んでいきたいです。