2019年03月06日 10:31 弁護士ドットコム
近所の駐車場にとめてあった他人の車に、カギで傷をつけたとして、元民放アナウンサーで、現在住職の70代男性が2月中旬、器物損壊の疑いで兵庫県警に逮捕されました。
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報道によりますと、男性は2月11日午後1時ごろ、近所の駐車場にとめてあった乗用車のボンネットに、カギを使って、長さ約30センチの傷をつけた疑いが持たれています。
男性は30年以上、民放のアナウンサーの仕事をつとめたあと、妻の実家の寺で住職となっていました。3年ほど前から認知症となり、症状がすすんでいたという報道もあります。
この男性は、接見した弁護士に「自分が何をやったかよくわからない」と話したということですが、一般論として、認知症の方による犯罪はどうあつかわれるのでしょうか。宮地紘子弁護士に聞きました。
――一般論として、認知症の方が犯罪をおこなった場合、どうあつかわれるのでしょうか?刑事責任能力がない、ということになるのでしょうか?
認知症の方の違法行為だからと言って、ただちに刑事責任能力がない、ということにはなりません。
違法な行為をしたことについて、その人が刑事責任を負担することができる能力を「刑事責任能力」と言います。
原則として、物ごとの善悪を判断する能力や、それにしたがって行動する能力が失われた状態(心神喪失状態)、それを欠いた状態(心神耗弱状態)は、無罪になったり、減刑されたりします。
ただ、これらにあたるか否かについては、判例上、医学的判断ではなく、法律判断とされています。そのため、鑑定医が作成した鑑定書や、認知症の患者の普段の生活状況や犯行当時の病状、犯行動機などを総合して、最終的には裁判所が判断することになります。
――超高齢社会の到来で、認知症の方によるトラブル・事件が増えていくのではないかと予想されています。何かできることはないのでしょうか?
先に刑事責任について述べましたが、民事上の賠償責任を問われることもあるため、注意が必要です。特に、配偶者や子どもなどの家族に監督責任が生じるケースもあります。
認知症の方の事件を完全に防ぐことは、ご家族の負担などを考えると、現実的には難しいと思います。ただ、たとえば、ご家族に認知症の疑いが少し出てきた場合には、早めに適切な医療機関を受診したり、診断を得ておいたほうが安心だと思います。
また、万が一に備えて、認知症の方が第三者に対して損害を与えた際の損害をカバーできるような保険への加入を検討するという方法もあります。
今後、超高齢社会をむかえる中で、他人事ではない事件だと思いますので、ご家族の負担等が軽減されるような公的なサポートも充実していくと良いと思います。
【取材協力弁護士】
宮地 紘子(みやち・ひろこ)弁護士
名古屋市出身。勤務弁護士を経て独立後は離婚や相続などの家事事件を中心とした案件を数多く担当。JAPAN MENSA会員。家庭では1児の母。「UP!」(メ~テレ)にコメンテーターとして出演中。
事務所名:八事総合法律事務所
事務所URL:http://www.yagotosogo.com