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窪田正孝、朝ドラ主演抜擢は“安心感”の確約 朝ドラ出戻り組への歓迎ムードが後押し?

2019年03月06日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2020年春にスタートする第102作目のNHKの連続テレビ小説『エール』の主役に、窪田正孝が決定ーーこの発表に、「なるほど、そうきたか」と膝を打った。


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 主人公のモデルとされるのは、「栄冠は君に輝く」や「六甲おろし」などの名曲を多数手掛けた作曲家・古関裕而と、妻で声楽家の金子夫妻。東京オリンピック・パラリンピック開催年である2020年、東日本大震災から10年が経つ前に、福島を応援する物語を発信しようという狙いから、福島出身の作曲家が題材として選ばれたという。


 ところで、「そうきたか」の理由には、いくつかの理由がある。


 一つは、窪田正孝の絶対的な安心感だ。


 『あまちゃん』バブル以降、朝ドラは中高年女性だけのコンテンツではなくなり、老若男女が観る「失敗できない」コンテンツとなった。しかも、朝ドラ100作目前後の数作は、注目度がさらに高まる。おまけに、「働き方改革」の推進により、撮影などの物理的制限が厳しくなっている事情もある。


 そうした流れを受け、『まんぷく』では演技派の安藤サクラを、『スカーレット』では人気女優で『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)主演によって評価も上昇中の戸田恵梨香を、『なつぞら』では若手エースのスター女優・広瀬すずを投入。


 実力や知名度・華のある役者が続く中、同じく安心感は継続しつつも、目先を変えた『マッサン』以来の「男性主人公」というのは話題性もあり、うまい方法だろう。


 もう一つ、安心感とは逆を行くのが、従来の朝ドラが担ってきた「新人女優の登竜門」的ワクワク感だ。朝ドラヒロインが、役名で後々まで呼ばれることが多いのは、毎朝見る顔というだけではなく、手垢のついていない新人女優を起用することによって、役者とヒロインが一体化しやすいことがある。また、作品内でのヒロインの成長と、役者としての成長が重なり合うのも、朝ドラならでは。


 そのため、キャスティングではなく、従来の主流だった「オーディションで選ばれた新人女優のヒロイン」を望む層もそれなりにいる。そうした点でも、窪田により、視聴者に「安心感」を確約したうえで、ヒロインはオーディションで選ぶという「ワクワク感」も提供する。おまけに、窪田の存在によって、ヒロインも安心して伸び伸び演じることができるという、良いとこどりなのだ。


 さらに、もう一つは、朝ドラで増えている「朝ドラ出戻り組」への歓迎ムード。


 ヒロインでは、『あまちゃん』で主人公の母親の少女時代を演じた後、『ひよっこ』ヒロインとなった有村架純、『ごちそうさん』でヒロインの義妹を演じた後に『とと姉ちゃん』ヒロインとなった高畑充希、『おひさま』出演後、『花子とアン』のヒロインの妹から『まれ』ヒロインに抜擢された土屋太鳳などが、法則化されつつある。


 また、以前、菅田将暉、要潤、瀬戸康史、加藤雅也などについて「『まんぷく』の朝ドラ二度目俳優(https://realsound.jp/movie/2019/01/post-305998.html)」記事で挙げたように、男性陣の「出戻り組」も歓迎されている。多くの場合は、知名度や認知度を上げて、故郷に錦を飾るスタイルで再登場しており、『花子とアン』出演以来となる窪田もその路線にのっている。


 しかし、窪田の場合、異色なのは、子役から、あるいはイケメン新人枠からなどではなく、「幼馴染キャラ」からの出戻りという点だろう。


 朝ドラの場合、ヒロインが結ばれる相手の他に、ヒロインに思いを寄せ、生涯見守り続ける「幼馴染」枠を設けている作品が多い。幼馴染は、『梅ちゃん先生』の松坂桃李など、わずかなケースを除いて、たいてい報われない運命にある。


 窪田が演じた『花子とアン』の幼馴染・朝市もまさにそうで、ヒロインを慕い続ける誠実な人柄が視聴者に愛されていた。「朝市には幸せになってほしい」と願う者も多かった。


 その人気ぶりや、視聴者の要望に応えるかたちで、スピンオフドラマ『朝市の嫁さん』が作られ、物語では40歳になった朝市が14歳年下の女性と結婚。本編での「報われない、愛されキャラの幼馴染」から、スピンオフの主役を演じ、今度は朝ドラ本編に主役として戻ってきたのだから、応援せずにいられない人が多いことだろう。


 放送開始前から、好意的な受け止め方をする「味方」をきっちり確保している『エール』。すでに保険がたくさんあるというアドバンテージを生かし、自信を持って、思い切ったドラマ作りをしてくれることを期待したい。


(田幸和歌子)