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そろって『勝つのは簡単ではない』。次世代F1候補、マルケロフとティクトゥム。スーパーフォーミュラと新型車両SF19の印象

2019年03月05日 10:01  AUTOSPORT web

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レッドブル・ジュニアドライバーとしてF1昇格を目指すダニエル・ティクトゥム(TEAM MUGEN)
スーパーフォーミュラ鈴鹿公式テスト初日、セッション終了後に新人のアーテム・マルケロフ(TEAM LEMANS)と今季が初のレギュラー参戦になるダニエル・ティクトゥム(TEAM MUGEN)が会見し、走行インプレッション等について語った。自身のキャリアや今後の展望についても触れながらの、なかなかに興味深い内容となっている。

 ロシア出身の24歳、マルケロフは近年のFIA-F2でシリーズ上位実績を連ねてきた実力者。公式テスト初日は2回のセッション合計で44周を走り、ベストは1分38秒224、全体16番手だった。前日までのモースポフェスでのフリー走行等を含めたSF19初テストの印象を次のように語る。

「最初はちょっとコーナーで苦労したりもした。でも、今日はチームと一緒に大きなステップを踏めたと思うし、(明日も)さらなるステップを果たしたいね。このクルマは本当に素晴らしい。それに乗れる(今年スーパーフォーミュラに参戦できる)ことは本当にハッピーだ」

「実は最初に戸惑ったのは、主に(FIA-)F2のピレリとのタイヤ特性の違いなんだ。大きく違った考え方で対処する必要がある。まだ、そこに合わせきれてはいない。ただ、僕は(ピレリより長持ち傾向である)スーパーフォーミュラのヨコハマタイヤの方が好みだと感じている。もっと慣れて、うまく使えるようになっていきたい」

 マルケロフが鈴鹿サーキットを走るのは今回が2度目。昨年の日本GP直後に実施された2019年用F1ピレリタイヤの開発テストでルノーのF1マシンをドライブし、鈴鹿を初めて経験した。

「鈴鹿はすごくタフなコースだと思う。特にファーストセクターはスネークのように曲がっているし、丘を上がっていくところもあって本当に難しい。F1のピレリでは、タイヤをもたせるのが大変なセクションだな、とも感じたよ」

 今季のF1昇格を目指していただろうマルケロフ。しかしこのオフ、残念ながらそれは叶わず、当面の新天地を日本に求めることになったわけだが、彼の気持ちはとてもポジティブなものである。

「何年も前からスーパーフォーミュラのことは知っていたし、F2(旧GP2)からスーパーフォーミュラ、そしてF1という道を辿った選手たちもいる。僕にとっても『いい機会になる』と思ったんだ。それに欧州圏外で戦うことも僕にとっては興味深い経験だし、実際に日本にはいい人が多く、異なるカルチャーを楽しんでもいるところだよ」

 ロシアといえば、今でこそF1開催国であり、ビタリー・ペトロフやダニール・クビアトといったF1表彰台経験者の輩出国でもあるが、マルケロフの幼少時にはF1とはほぼ無縁のお国柄だったはず。実際、「F1を見たこともなければ、憧れのヒーローもいなかった」そうだ。そんな少年が、「レンタルのカートをやってみたら、それが楽しくて」というところからキャリアを本格化させ、世界トップレベルまで上がってきた(現在はキミ・ライコネンが憧れの存在だという)。

 近年、TEAM LEMANSに加入した外国人ドライバーは前評判以上の活躍をすることが多い。マルケロフにも、高い実績以上の期待をしたいところだ。ちなみに同じく新人の牧野任祐(TCS NAKAJIMA RACING)とは昨季のF2でチームメイトだった。F2ではマルケロフが成績上位だったが、「やはり日本では(牧野が)速さを見せている。ここがホームという感じでね。だから今度は僕が彼に追いついていかなければ、と思って走っている」と対抗心をみせる。

 「日本では彼(牧野)がスーパースターだと感じる」と、笑顔で少し持ち上げすぎる(?)など、マルケロフはコメント発信力も相当に高そうである。

■「できるだけ早く追いつきたい」レッドブル・ジュニアの期待の星、ティクトゥムの成長と現在地

続いては英国出身の19歳、F3マカオGPを2連覇したレッドブル育成選手ティクトゥム。彼は昨季もスーパーフォーミュラにTEAM MUGENから2戦出場している。今回の鈴鹿公式テスト初日は計54周消化でベスト1分37秒969、全体15番手。ただ、路面がウエットのままだった1回目のセッションでは4番手タイムをマークしてみせた。

「SF19のドライビングフィールはとてもいい。ハッピーだよ。ダウンフォースが増加していることによるスピードアップも感じている。そして、とにかく軽さを感じることができるマシンだね。まだ慣れきっていないが、これから合わせこんで、もっと速くなっていきたい」

 ティクトゥムは「鈴鹿はやはり世界屈指のベストトラックだと思う」と、多くのトップドライバーと同様の実感を抱いている。ただ、「鈴鹿では日本人ドライバーは走り込んでいる量が特に多いよね」とも話し、その面では「他の日本のコース以上に、彼らに追いつくのは大変だと感じる」とも分析。そして、もちろん「できるだけ早く追いついていきたいと思っている」とも。

昨年の参戦時は山本尚貴が隣のマシンに乗っていたが、今季はホンダ陣営の大シャッフルにより野尻智紀がチームメイトになった。「ふたりともすごく経験があるドライバーで、学ぶべきことは多い。一緒に働けることは喜ばしいし、今回のテストでもトモキとデータを比べたりしている」と、着実に前進する姿勢をみせるティクトゥム。そんな彼だが、今回のモースポフェスを含む鈴鹿テストでは少々意外なかたちの“プレッシャー”を感じているそうだ。

それはF1へのアンテナ感度が高い日本のモータースポーツファンが、レッドブルJr.であるティクトゥムに「勝つだろうとすごく期待してくれているのが分かるんだ。すごいプレッシャーが僕の肩にのしかかってきているよ」。そう語り、ティクトゥムは笑顔をみせる。

「もちろんドライバーは皆、常に勝ちたいと思っている。僕もそうだ。ただ、スーパーフォーミュラで勝つのがとても難しいことだというのも、僕は充分に理解している。まずは一年を通じて進化し続けていくことを心がけたい。そしてシーズンの最後の方には勝てるようになる、勝ち始めることができる、と思っている。僕のチームもエンジニアも素晴らしいのだからね」

「以前の僕は、ちょっと先(将来)のことを考えすぎる面があったかもしれない。もちろん僕がスーパーフォーミュラでいい成績を出し、“ボス”(レッドブル首脳)をハッピーにさせることができれば、今年型のレッドブルF1でテストをしたりする機会があるかもしれない。将来的にレッドブルでF1を走り、チャンピオンになれたらそれは素晴らしいことだ。でも、今はそういうことを考えるのではなく、とにかくスーパーフォーミュラに集中したい」

昨年の参戦時に比べると、短時間にうちに考え方がずいぶん大人になったとも感じられるティクトゥム。もともと才能は折り紙付きといってもいい存在だけに、虚心坦懐ともいえる境地での初フル参戦となれば、先輩ピエール・ガスリーが2年前に“レッドブル無限号”で演じたレベルの活躍も期待していいだろう。

アーテム・マルケロフとダニエル・ティクトゥム。2019年のスーパーフォーミュラで大きな存在感を発揮しそうなふたりである。