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CYNHNが生み出した燃えあがるような“青” 初ワンマンで見せたヴォーカルグループとしての真骨頂

2019年03月04日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 CYNHN(スウィーニー)の6人組が、初めてのワンマンライブでヴォーカルグループとして真骨頂を見せたのは、13曲目に配された「はりぼて Remix」という楽曲だった。これは、ロックナンバー「はりぼて」をリミックしたもので、オルタナティブR&Bのようにボイスをサンプリングしているトラックは音数も少なく、6人の歌声が生々しいまでに響いた。サビはゴスペルを聴いているかのようだ。


(関連:CYNHNが語る、メインヴォーカル制から得たもの「“6人でCYNHN”が鮮明に見えてきた」


 2月24日、下北沢GARDENで開催されたCYNHNの初のワンマンライブ『Link to Blue』は、6人の成長をはっきりと体感させるものだった。チケットは1か月以上前にソールドアウト。人がこれでもかと詰まった下北沢GARDENを眺めながら、当日券を出せなかったことにも納得した。


 CYNHNは、2017年6月25日から活動してきたグループ。2016年末にジョイサウンドとディアステージによるオーディションで選ばれた6人によって結成された。グループ名はロシア語で「青」を意味する。


 私がCYNHNに初めて会ったのは2017年1月のことだ。そのときの彼女たちはグループ名もない、崎乃奏音、桜坂真愛、綾瀬志希、百瀬怜、月雲ねる、青柳透の6人だった。「私たち、なんでもできます!」と言っていたような気がするし、「大丈夫なのだろうか」と思った記憶がある。彼女たちが大丈夫だったことは、2017年11月の『FINALegend』でのデビュー以降の急成長ではっきりとしていく。


 『Link to Blue』では、センター曲(ソロ曲)が多く披露された。その光景を下北沢GARDENで見ながら思いだしたのは、同じ会場で2018年4月28日に開催されたフィロソフィーのダンスの定期公演の2部ゲストにCYNHNが出演したときのことだ。あの日のCYNHNもセンター曲を多く歌っていた。しかし、同じヴォーカル重視のユニットではあるが、キャリアの違いゆえにフィロソフィーのダンスの実力は圧倒的。後にCYNHNのディレクターの山田裕一朗が「ボコボコにされる覚悟で出て、ボコボコにされたライブだった」と述懐していた。


 あれから1年弱。『Link to Blue』には、フィロソフィーのダンスの十束おとはの姿もあった。CYNHNの魅力にいち早く注目し、定期公演のゲストに招いたのは彼女だ。『Link to Blue』の開演前に十束おとははつぶやいた。「勝手にエモくなってる」と。そしてステージ上には、約1年前の下北沢GARDENのときよりもたくましくなったCYNHNの姿があった。あの頃よりも彼女たちは自信に満ちあふれている。


 『Link to Blue』は、CYNHNのこれまでの足跡を振り返る映像で幕を開けた。1曲目はデビュー曲「FINALegend」。百瀬怜はこの曲で〈できるかな? アイドル〉と歌う。CYNHNがまだ完全にヴォーカルユニットとは定義されていなかった時代独特のまばゆさを残している楽曲でもある。


 センター曲では、桜坂真愛が歌う、1970年代の歌謡曲を彷彿とさせる「くれーるクレーン」が秀逸だ。綾瀬志希による「Sing and Treat」の熱唱も耳に残った。


「どんなに深く憧れ、どんなに強く求めても、青を手にすることはできない。すくえば海は淡く濁った塩水に変り、近づけば空はどこまでも透き通る。人魂もまた青く燃え上るのではなかったか。青は遠い色。」


 CYNHNが、谷川俊太郎の『青は遠い色』を朗読する場面もあった。雨音とエレクトロニカな音が流れるなかで、傘をさしながら読み上げていた。


 これは、演出家の松多壱岱とのコラボレーションによるもの。これまでも「演じまスウィーニー」と題したコンセプトで、演劇的な要素を取りいれたMVを制作してきたCYNHNが、ライブにおいても演劇的な要素を盛りこんだシーンだった。


 3月20日にリリースされる「空気とインク」と「wire」は続けて披露。前者はアメリカンロック、後者はポストロック的なアプローチである。「wire」では百瀬怜のストレートな歌唱がいかされており、シンガロングも起きる楽曲だ。


 個人的に涙腺が緩みそうになったのは「タキサイキア」だった。綾瀬志希は〈モンダイナイ〉と歌うパートでファンとコール&レスポンスをしたが、〈モンダイナイ〉と歌う彼女は葛藤を抱えながら歌に人生を賭けている人物でもある。『Link to Blue』の翌日には、こんなツイートをしていた。


「音楽は人を狂わすし歌は私を壊す。でもその安全地帯にいない危険性が音楽に必要だし有毒であればあるほどハマってしまう。君もいまその瞬間を共有しているんだよ。」(引用:綾瀬志希(CYNHN)オフィシャルTwitter)


 本編のラストを飾ったのは、2018年の2ndシングル表題曲「はりぼて」だった。サビ前で、崎乃奏音が音程を外すことも恐れない勢いで歌う瞬間のカタルシスはいつも強烈だ。


 CYNHNが変わったと私が感じたのは、「はりぼて」が生まれ落ちたときだった。CYNHNのメインソングライターとして多数の楽曲を書いている渡辺翔は、「はりぼて」においてCYNHNのメンバーの内面を描きだしている。人目を気にして笑ってごまかしてきた過去を描きながら、サビの最後にはこんなフレーズが登場する。


〈はりぼてのハートでもいつの日か誰かのなにかになりたい〉


 CYNHNが「はりぼて」を歌った瞬間、たしかに見えたのだ。青い光で発火する瞬間が。楽曲と歌い手の内実が呼応したときにだけ生まれる、小さな火花が見えたのだ。


 アンコールでは、崎乃奏音が作ったアカペラメドレーが披露された。そしてもう一度「FINALegend」。リリースイベントでのライブを除けば、実はCYNHNがライブでアンコールを行ったのも、この日が初めてのことだった。


 本編のMCで、百瀬怜はZepp Tokyo、日比谷野外音楽堂、そして日本武道館へも行きたいと抱負を語った。その言葉に「絶対に連れていくから」と続けた綾瀬志希。彼女たちが能天気な夢物語を話しているのではないことをファンは知っていたはずだ。前日である2月23日に、ディアステージの先輩である妄想キャリブレーションが活動終了ライブを行い、それをCYNHNも見ていたのだから。特に青柳透は、CYNHN加入以前から熱心な妄想キャリブレーションのファンだった。


 CYNHNの「FINALegend」にはこんな歌詞がある。


〈終わりがあって始まんだよ〉


 終わりがあるがゆえに始まるものがある。それを痛いほど知ったうえでCYNHNは『Link to Blue』のステージに立った。歌うことへの覚悟に満ちた、燃えあがるような「青」を、その日のCYNHNはたしかに生みだしていたのだ。(取材・文=宗像明将)