F1ジャーナリストの今宮純氏が独自の視点で2月26日~3月1日に行われた第2回F1プレシーズンテストを分析。注目ドライバー9人と各パワーユニットの信頼性を分析し、開幕戦オーストラリアの予選グリッドを予想する。
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濃い内容のF1プレシーズンテスト2回目が終わった。2018年より1週早い時期だが最高気温24度、路面温度34度、昨年スペインGP週末にほぼ近かった。全体タイム傾向が上がったのは、このコンディションと、路面ミューの変化に加え8チームが800周以上走破しラバーグリップ効果もあった。
■注目の9人ドライバー
◇ルイス・ハミルトン(メルセデス)
チームのテスト戦略としてテスト2回目から大幅なエアロアップデートを実施。再びイニシャルセットから取り組み、最終日夕方17時過ぎにセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)に対し0.003秒差の2番手に押し上げた。
涼しい時間帯、ラバーグリップ条件などが12時半過ぎに最速のベッテルとはやや異なる。しかしハンドリング改善とタイヤマッチング向上がみられ、王者も内心ほっとしたのか。「いまはフェラーリのほうが0.5秒速い」という発言の真意はメディア情報操作と思え、イタリアーノを“油断?”させる舌戦かも。
◇バルテリ・ボッタス(メルセデス)
注意深くコメントをフカヨミすると、メルセデスW10のリミット把握が万全ではないようだ。最終日に4番手タイム記録後、さらに最もソフト寄りのピレリタイヤC5でアタック。しかしセクター3がまとまらず0.2秒ダウン。低中速エリアがスムーズなハミルトンとここでの違いが気になる。「まだやり残した部分がある」と正直なボッタス。
◇セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)
テスト2回目最終日、C5タイヤで1分16秒221のベストタイムをマーク。もしセクターベストをつないだ場合“可能タイム”は1分16秒040だった。セクター1と2で昨年スペインGP予選の最速タイムを破っている。高速3コーナーの安定性と9コーナーの回頭性は群を抜く。硬めのC3タイヤでも1分16秒7をマーク、つまりベッテルには1分15秒台が見えていた。
◇シャルル・ルクレール(フェラーリ)
名門チーム組織の正社員に出世したルクレールは、落ち着いてコース上でフェラーリSF90を理解中。ロングスティントの平均ペースがそれを表し、メルセデス勢より0.25秒以上優った。燃料量は不明でも有益なデータをもたらし、チームから信頼を得ただろう。初仕事から上々の出来で新代表ビノットもご満悦だろう。
■着々と自分好みのマシンに仕上げるキミ・ライコネン
◇マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)
ストレスをじっと我慢のテスト最終日、前日のクラッシュの影響でたったの29周しか走れず、ショート/ロング走行もできなかった。とはいえ燃料あり状態でC3タイヤを履き1分17秒709、推定タイムは確実に1分16秒台に入る。チームとフェルスタッペン自身の“データ不備”は否定できないがホンダとともに挑む19年、彼らの戦意は高い。
◇ピエール・ガスリー(レッドブル・ホンダ)
2度のクラッシュとも、コーナーエントリーの不用意なミスだった。これは心理的に2018年と全く違う環境を意識しすぎ、もっと攻めなくてはという行動の結果だろう。レッドブル代表のクリスチャン・ホーナーらの『メンタルケア』が開幕までに望まれる――。
◇キミ・ライコネン(アルファロメオ)
開幕戦オーストラリアである準公道アルバートパークに狙いを定めるベテラン。2007年にはフェラーリ初戦で快勝、昨年も開幕戦の予選でベッテルに先行、このトリッキーなコースを熟知する。テスト最終日の後半はずっとロングスティントに専念、タイムではなくアルファロメオC38を自分好みに仕上げるためだ。自己最速主義、アルファロメオで再び。
◇ダニエル・リカルド(ルノー)
レッドブル時代はロングランよりショートに重点、それは若いマックスを意識していたからだろう。今年ニコ・ヒュルケンベルグと組む彼はセットアップを試し、連日協同でシャシーをチューニング。密かに古巣への『恩返し?』を画策しているような気もする。
◇ロバート・クビサ(ウイリアムズ)
テストに2日半遅れたウイリアムズだが、それでも昨年スペインGP予選タイム(1分19秒695)は上回った。テスト2ではジョージ・ラッセルとともに合計479周し、基本の信頼性だけはなんとか確認。開幕序盤は『テストレース』、9年ぶり復帰のクビサはそう自覚して励むのだろう。
■高い信頼性を確保したホンダパワーユニット
■第1回・第2回テストで見るパワーユニットの信頼性
◇メルセデス
テスト8日間の合計で2382周(3チーム)。メルセデスチーム単体では2018年1040周以上の1190周、昨年の雪に見舞われた1日分ロスを考慮すればほぼ同じ周回数となる。
5日目に油圧系に問題が出て、パワーユニット交換を行った。ウイリアムズが5日半しか走れず3チームの総周回数はマイナス188周。ちょっと気になるのはセクタースピード比較でフェラーリにやや及ばず、ドライバーもそれを認めていることだ。
◇フェラーリ
2790周(3チーム)。ワークスは997周、5日目に冷却システムと7日目に排気系などの不具合が発生。871周したハースにも同じ日に同じことが起きており、初日には燃圧トラブルも。
アルファロメオは、922周を走行し支障をきたす事案はなかったようだ。総体的にパワーユニットのドライバビリティ特性が良好に見え、ラインを外れても乱れないフェラーリ。
◇ルノー
1835周(2チーム)。レッドブルへの供給が解消されて昨年2177周よりは少ない。ルノーは、テスト2から新パワーユニットを投入。ヒュルケンベルグは「確かな進化を体感できる」とコメントした。トップスピードも伸び、新形式名“E―TECH19”は戦闘力を高めている。何度も言うが対ホンダに向け戦闘力を上げてきた。
◇ホンダ
1768周(2チーム)。2018年供給がトロロッソのみの822周から2倍を超える距離をカバー。想定外トラブルは皆無、初めての2チーム供給オペレーションもほぼ順調に進んだ。が、ガスリー2度クラッシュの影響でパワーユニット交換、レッドブルは3基を使用せざるを得なかった。
トロロッソは2基のパワーユニットを使い分け4352Km走行。年間3基ルール、1基×7戦の高いハードルに迫り、その消耗変化度など精査できたはず。これがパワーユニット参戦5シーズン目で飛躍する成果になるか。
■ハミルトンのオーストラリアGP連続PP記録を止めたいベッテル
■私的予想:開幕戦オーストラリアの予選グリッド
※ペナルティ無しの場合、昨年はボッタス&リカルド降格している。
1番手:セバスチャン・ベッテル/フェラーリ
2番手:シャルル・ルクレール/フェラーリ
3番手:ルイス・ハミルトン/メルセデス
4番手:マックス・フェルスタッペン/レッドブル・ホンダ
5番手:バルテリ・ボッタス/メルセデス
6番手:ダニエル・リカルド/ルノー
7番手:ピエール・ガスリー/レッドブル・ホンダ
8番手:ロマン・グロージャン/ハース
9番手:キミ・ライコネン/アルファロメオ
10番手:ニコ・ヒュルケンベルグ/ルノー
11番手:カルロス・サインツJr./マクラーレン
12番手:ダニール・クビアト/トロロッソ・ホンダ
13番手:ケビン・マグヌッセン/ハース
14番手:セルジオ・ペレス/レーシングポイント
15番手:アレクサンダー・アルボン/トロロッソ・ホンダ
16番手:アントニオ・ジョビナッツィ/アルファロメオ
17番手:ランス・ストロール/レーシングポイント
18番手:ランド・ノリス/マクラーレン
19番手:ロバート・クビサ/ウイリアムズ
20番手:ジョージ・ラッセル/ウイリアムズ
オーストラリアで最多7回のPPを獲得しているハミルトンをベッテルが抑え、シーズン2年目のルクレールがラップをまとめ2番手。フェルスタッペンは昨年と同位の4番手へ。ボッタスに母国GPのリカルドが迫り、7番手ガスリーにアルバートパークが得意なグロージャンが肉薄。アルファロメオのキミとヒュルケンベルグがトップ10に入ると予想。
サインツは先輩フェルナンド・アロンソのようにタイヤフリーな“ラッキー11番手”、復帰クビアトが中団チームの接戦を潜り抜け12番手。マグヌッセンとペレスはトリッキーなコースに手を焼く新鋭ドライバーたちに先行。クビサの旅路が最後列から始まるだろう。