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自ら生み出し、他も支えるーー創造性豊かな凄腕ミュージシャンの活躍から見る音楽シーンの現在

2019年03月01日 16:41  リアルサウンド

リアルサウンド

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 星野源の『POP VIRUS』、ceroの『POLY LIFE MULTI SOUL』、そして、年明けの『バズリズム02』(日本テレビ系)での「今年コレがバズるぞ!BEST10」や『関ジャム 完全燃SHOW』(以下、『関ジャム』/テレビ朝日系)の「3人の売れっ子音楽プロデューサーが選ぶ2018年の年間ベスト10」で取り上げられ、大きな話題を呼んだ中村佳穂の『AINOU』や、『関ジャム』の「売れっ子音楽プロデューサーが選ぶ2018年 上半期ベスト5」に選出されたKID FRESINOの『ài qíng』(「今年コレがバズるぞ!BEST10」では16位)。この2018年を代表する4作品に共通しているのは、ペトロールズ、CRCK/LCKS、Yasei Collectiveといったバンドの優れたプレイヤーたちが、サポートとしてそれぞれの作品に参加し、大きな貢献を果たしているということ。『ài qíng』にはペトロールズの三浦淳悟、CRCK/LCKSの石若駿、Yasei Collectiveの斎藤拓郎が勢揃いしていて、打ち込みのトラックと生のバンドサウンドを横断する稀有なラッパーの作品である同アルバムは、彼らの存在なくして生まれ得なかったと言えよう。


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 星野と細野晴臣の交流は今や多くの人が知るところとなったが、はっぴいえんどの時代から(あるいはその前から)、優れたミュージシャンが表だった自らのアーティスト活動と、裏方としてのサポート/プロデュースの両方を行き来することによって、音楽の歴史は作られてきた。そして、近年はそんな動きがメジャーとアンダーグラウンドの境界なくダイナミックに起こっていて、日本の音楽シーンが新たな転換期を迎えたことを感じさせる。


 昨年はmabanuaがひさびさのソロ作を、小袋成彬が宇多田ヒカルのプロデュースで初のソロ作を発表したが、前者はorigami PRODUCTIONSの一員として、後者はTokyo Recordingsの主宰として、近年は主に裏方としてアーティストを支えていた。『関ジャム』でmabanuaとともに並ぶagehasprings所属の蔦谷好位置もまたここ数年プロデューサーとして大活躍しているが、昨年は自らのプロジェクトKERENMIをスタートさせている。


 agehasprings、origami PRODUCTIONS、Tokyo Recordingsといった、それぞれタイプの異なる作家集団の存在感は、近年ますます大きくなっている。agehaspringsの田中ユウスケやorigami PRODUCTIONSの関口シンゴらがサウンドプロデュースを担当し、「満月の夜なら」や「今夜このまま」にはYasei Collectiveのメンバーが演奏で参加していたりと、あいみょんが時代の顔役になったこともこの流れで必然だったように思える。


 2018年の動きをさらに書き連ねると、星野源の「アイデア」で大きな役割を果たしたSTUTSも自らのソロ作『Eutopia』で高い作家性を示していたし、ceroのサポートを務める3人の中で、小田朋美はCRCK/LCKSとして、角銅真実と古川麦はソロとして、それぞれ素晴らしい作品を発表し、角銅も参加した石若のソロもまた非常にユニークだった。このように、本連載では毎月のリリースやライブをサポートの側にスポットを当てながら紹介し、ピープルツリーを広げることによって、現在の音楽シーンの動きを追っていきたい。


 1月リリースの作品を振り返ると、『バズリズム02』の「今年コレがバズるぞ!BEST10」で一位を獲得し、すでに実際バズっているKing Gnuの『Sympa』が印象的。そもそも現在様々なシーンで活躍しているプレイヤーの傾向のひとつが、“ジャズ”を軸としたセッションカルチャーの出身ということで、King Gnuのメンバー自身がかつてそういった場所に身を置いていたからこそ、プレイヤビリティの高さが評判を呼んだという側面は見逃せない。


 そもそもKing Gnuの前身であるSrv.Vinciは、中心人物の常田大希と、同じ東京藝大出身で、交流のあった石若とで始まっていて、石若は常田のソロプロジェクトDaiki Tsuneta Millennium Paradeの『http://』にも参加。そして、同じ作品に参加していたのがWONKであり、『Sympa』には鍵盤の江崎文武と、ボーカルの長塚健斗が参加。特に、江崎のピアノは作品の重要な構成要素となっていた。


 須田景凪の1st EP『teeter』も話題の一枚。もともとバルーン名義でボカロPとして活動し、代表曲の「シャルル」はボカロ好きなら知らない人はいないくらいの有名曲だが、須田名義では自ら歌い、バンドサウンドを展開している。サポートメンバーとして、ギターには、DAOKOの作品やライブに参加するなど、活躍の幅を広げているAwesome City Clubのモリシーが、ベースには村田シゲ(□□□ほか)や長島涼平(the telephonesほか)といった実力者が名を連ねる。


 中でも注目なのがドラムの堀正輝(ARDBECKほか)で、彼は米津玄師のサポートも務める人物。打ち込みのトラックと生バンドの関係において、重要なのはやはりビートであり、ボカロからバンドへという道を切り開いた先駆者である米津のキャリアに貢献してきた堀の存在は、須田にとっても非常に大きいはず。なお、ライブではモリシーと堀に加え、ボカロPの有機酸(神山羊)がベースを担当しているのも面白い。


 1月に行われたライブの中で印象的だったのは、1月24日に渋谷WWWXで観た江沼郁弥。plenty時代から一転、ほぼ一人で作り上げたソロ作『#1』がインディR&B以降の空気感を纏っていた。江沼のライブでサポートを務めるのは、こちらも1月に発表した『Vi』のミニマルメロウな世界観が早耳たちの心をつかんだ4人組・木のメンバー。ステージ中央にボーカル/ギターの江沼、上手にドラムのナイーブ、下手にキーボードのオヤイヅカナルが並び、アトモスフェリックなうわものと、緻密かつアグレッシブなドラムが江沼の歌を下支えしていて、まだライブを始めて数回とは思えない完成度を見せていた。


 その翌日、1月25日には渋谷TSUTAYA O-EASTでKID FRESINOのリリースパーティー。DJとバンドを交互に迎える形で進行し、バンドには前述の三浦、石若、斎藤のほか、佐藤優介(カメラ=万年筆)と小林うてなという『ài qíng』の参加メンバーが集結した。KID FRESINOと、次々に登場するゲストのラッパーたちとともに、バンド全体で変幻自在のグルーヴを紡ぎだし、オーディエンスを魅了する様は流石の一言。特に、石若は数曲でDJとともにプレイし、マシンビートと生々しいドラミングを使い分けて、プレイヤーとしての実力を見せつけていた。


 石若は昨年くるりのライブとレコーディングにも参加し、弓木英梨乃のソロプロジェクト・弓木トイに参加することも発表されている。石若はもちろん、弓木もまたギタリストとして、KIRINJIや吉澤嘉代子、のんなど様々なアーティストに関わる凄腕プレイヤーであり、今後もその動向に注目していきたい。(文=金子厚武)


※江崎文武の「崎」は「たつさき」が正式表記。