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正当進化を遂げた「HoloLens 2」が予約開始 アメリカ軍との契約に一部社員が抗議も

2019年03月01日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

 本格的なAR体験を可能にするということで一躍有名になったARヘッドセット「HoloLens」の新世代機「HoloLens 2」の予約が始まった。同製品は全体的な性能が向上したまさに正当進化したものだが、価格はまだ一般消費者向けではないようだ。もっとも、同製品はその性能よりもMicrosoftが結んだある契約で注目を集めている。


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正当進化したHoloLens 2
 テック系メディアCNETは、26日、HoloLens 2の予約が始まったことを報じた。同製品の公式サイト(現在は英語版のみ)を見ると、予約画面に移動するリンクが設定されている。価格は3,500ドル(約39万円)であり、出荷時期に関しては公式サイトには明記されていないが今年後半になると見られている。価格からわかるように、同製品は基本的に法人を顧客として想定している。しかし、いずれは一般消費者が購入できるようになるだろう、とMicrosoftはコメントしている。


 同製品の仕様に関しては、国内テック系メディアEngadget日本版がまとめ記事を公開している。その記事によれば、同製品は全世代機と比較して画素密度(視野角1度あたりの画素数)が2倍の47ピクセルになり、より高精細なグラフィック表現が可能となった。また、素材にカーボンファイバーを採用したことにより、軽量化にも成功。


 特筆すべきは、10本の指の動きをトラッキングできるようになったことだ。10本指のトラッキングに対応したことで、例えばARピアノアプリを開発することが可能となる。また、音声認識や視線のトラッキングにも対応しており、音声コマンドでアプリを操作することもできるようになっている。


 同製品を早くも業務に導入しているパートナー企業もあり、実際に同製品を活用する様子を収録した動画が公開されている。そうした企業は医療機関、製造業、そして建設業と多岐にわたる。


快適なフィット感にクロスプラットフォーム対応も
 国内テック系メディア『AV Watch』は、26日、テック系ジャーナリストの西田宗千佳氏が執筆したHoloLens 2のレビュー記事を公開した。同氏によると、手に持った時の同製品の重量感は前世代機とそれほど変わらないが、頭に装着した時には軽く感じた、とのこと。軽く感じるようになったのは、同製品の重心が再設計されたからだと考えられる。また、10本指による操作は違和感を感じるようなことはなく、驚くほどの出来栄えである、とコメントしている。


 CNETの同製品のレビュー記事では、同製品の快適な装着感を実現した舞台裏を紹介している。Microsoftにはハードウェアの快適性とアクセシビリティを研究するHuman Factors Labというラボがあり、同製品のデザインもこのラボで精査された。同ラボには多数のセンサーが付けられたヘッドギアがあり、テストユーザがこのギアを装着すると脳波が読み取られ、その脳波から製品使用時のストレスを計測できるのだ。こうした同ラボの活躍で、同製品の快適なフィット感は実現した。


 単独でも優れた性能を発揮する同製品と連携するサービスも発表された。国内テック系ASCIIによると、Microsoftのクラウドコンピューティング・サービスAzureの新機能「Azure Spatial Anchors」を活用すると、同製品のユーザが見ているARオブジェクトをスマホのディスプレイからも閲覧できるようになる。この機能を使えば、同製品とスマホの両方で機能するクロスプラットフォームなARアプリが開発できるだろう。


軍事協力をめぐって社内は紛糾
 以上のようなHoloLens 2は、実のところ、アメリカ軍に納品されると見られている。というのも、Microsoftは、昨年11月、アメリカ陸軍と4億8,000万ドル(約530億円)の納品契約を締結したからだ。しかし、この契約に対して一部の同社社員が抗議する書簡を同社CEOのサティア・ナデラ氏に提出した。


 以上の顛末を報じたEngadget日本版の記事によると、同CEOは従業員との対話は続けるものも「民主主義国家としてわれわれ自身が選出した機関へのテクノロジー供給を否定しないという合理的な決定を行った」とコメントし、上記契約を破棄しない考えを示した。同社の方針に従えない社員に対しては、同社の最高法務責任者ブラッド・スミス氏は配置転換の希望に応じると発言して、限定的な救済措置の用意があることを伝えた。


 HoloLens 2は、着実に各業界に普及していくだろう。その普及先には軍需産業も含まれる。同製品は、ヒトビトの働き方だけではなく安全保障体制とその政策にも影響を与えていく可能性がありそうだ。


(吉本幸記)