トップへ

『トクサツガガガ』が伝える、他者を認める寛容さ 目指したのは「正義にこだわらない」ドラマ

2019年03月01日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 毎週、多様なジャンル・スタンスの「オタクあるある」に頷き、笑い、「オタバレ」の危機にハラハラし、オタク的名言に心を打たれ、劇中特撮のクオリティの高さに打ちのめされてきたNHKのドラマ10『トクサツガガガ』。視聴者たちの熱い支持を得た本作が、本日3月1日にいよいよ終了する。そこで、別れを惜しむべく、本作のチーフプロデューサーでNHK名古屋局制作部の吉永証氏に、改めてこのドラマが誕生したきっかけや、作品に込めた思いなどについて伺った。


「もともと金曜夜10時の『ドラマ10』の枠は、『セカンドバージン』などをはじめ、シニアの女性を対象にした作品を多数作ってきました。しかし、30~40代くらいのもう少し若い層に見ていただけるよう、様々な企画を探していた中で出会ったのが『トクサツガガガ』だったのです」(吉永証、以下同)


【写真】『トクサツガガガ』最終回シーン


 いくつかの候補の中に、若い女性ディレクターが提案したという丹羽庭氏による原作の同名コミックのドラマ化があった。決定のポイントは、「若い人が興味を持つだろう特撮というジャンル」「オタクの話」ということ、そして、原作・ドラマともに「自分の好きなモノを大事にすること」が軸にあることだった。


 ドラマ化にあたって、原作の丹羽氏から出された要望は、「作品の世界観や人物像を大切にしてほしい」「特撮がテーマだからといって、正義にこだわって、誰かのために何かやらなきゃいけないとか、勧善懲悪のドラマにしないでほしい」こと。


 「ドラマになると、どうしても主人公が能動的になり、何か解決したり、変えたりするものになりがちですよね。でも、この作品の主人公は正義を振りかざさないし、能動的じゃないし、解決もしない。そのため、ストーリーを作る上で、正義を求める主人公にしないことと、日常の延長線上にあるささやかな『あるある』エピソードなどに共感してもらえるようにすることなどを大切にしました」


 確かに、好きなことに対する熱量が凄まじい一方で、リアルの生活はグウタラだったり、大人げなかったり、正義じゃないところが、ヒロイン・仲村叶の大きな魅力となっている。演じる小芝風花は、可愛く凛々しく、ズッコケ感もあって、まさにハマり役。だが、このドラマを観るまでは正直、もっと優等生イメージの女優だったが……。


 「小芝さんは非常に表情豊かなんですよね。だから、キリッとしている部分も、ズッコケている部分も、自在に表現ができる。特に、仲村叶は、他者から見えるものと、内面的なこと・思っていることが違うというのが大きな特徴で、漫画の中でもドラマでも、モノローグがたくさん出てくるんです。それを表現するには、綺麗なだけの女優さんではダメ。お芝居が優れていないと表現できません」


 さらに、これまで出演してきたドラマなどから、演技だけでなく、本人の持っている「嫌味のない感じ」「人柄の良さ」「素直さ」が、誰からも愛されること。かつ「原作上のヒロインの『筋の通し方』に通じる雰囲気があったこと」も決め手だったそう。


 ヒロインは同じく特撮オタクで30代の吉田さん(倉科カナ)や小学生男子のダミアン(寺田心)、アイドルオタクの30代の北代さん(木南晴夏)や大学生のみやびさん(吉田美佳子)、美少女アニメオタクの任侠さん(竹内まなぶ)らと、年齢・性別・ジャンルを超えた交流を深めていく。彼らを「オタク戦隊」とするなら、小芝の放つ「戦隊レッド」感は、まさに「誰からも愛される」人柄から滲み出る部分だろう。


 ちなみに、原作ではヒロインは26~27歳。しかし、小芝は21歳と若く、年齢的な部分だけが引っかかる点だったが、それは大きなファクトではないと判断。


 「ドラマでは原作者にも了承を得て、24歳としました。24歳でも、母親に結婚を急かされる年齢としては早いですが、あのお母さんのキャラクターを考えると不思議ではないと」


 本作では、一口に「オタク」と言っても、ジャンルや価値観・スタンスの違いは人それぞれであることを丁寧に描いているのも、素晴らしい。


 「特撮や、アイドルなど、『何かが好きで大事にしている』という共通点はあっても、大事であるがゆえに隠している人もいれば、公言している人もいる。でも、自分と違う価値観の人も、それはそれで認める寛容さは、原作の世界観でもあって。悪人を出すのは、(原作の)丹羽さんが嫌がったんですよ。だから、ドラマにも悪い人が出てこないし、他人を攻撃しない、お互いに認め合っている。自分が大切に思っているものも肯定してくれるということが共感を呼ぶんだと思います」


 ところで、2月22日放送分ラストでは、とうとうヒロインの特撮オタクぶりが母親にバレてしまい、直接対決になるハラハラの展開に。娘の好きな特撮を嫌い、女の子っぽく可愛いモノを押し付け、自分の思い通りにコントロールしようとする母親は、「毒親」「ジェンダー」など、現代的なテーマでもあるが……。


 「確かにお母さんとの関係は大きな軸です。でも、ジェンダーや毒親というのを前面に出したり、お母さんの問題に集中しすぎたりするのでは、世界観がブレてしまう。だから、お母さんとの対立はあるけど、そこを色濃くし過ぎないことは心がけました。『仲間がいればうれしい』とか『自分と違う事柄に対する寛容性が持てるかどうか』という背景に伝わればいいと思っていました」


 ヒロインの日常を描くだけでなく、特撮部分がはさみこまれることによって、そうした母と娘の対立がシリアスになりすぎず、ゆるやかでおかしく見えるという「劇中劇」効果も生まれている。


 いよいよ最終回。ヒロインと母親との関係を含め、すべての愛すべきキャラの行方に注目したい。


(田幸和歌子)