トップへ

King Gnuはポップミュージックの価値基準をひっくり返す 「白日」から楽曲のユニークさを解説

2019年02月28日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 このバンドは時代をひっくり返すーー。


 いかにも往年のロック雑誌みたいな大仰な言い回しだけれど、King Gnuの曲を聴いて、ライブを観て、実際にそう感じてしまったのだからしょうがない。


(関連:King Gnu、『Sympa』でチャート初登場4位の快挙 常田大希の“鬼才”ぶりに注目


 時代というのは、すなわちポップミュージックにおける価値基準のこと。それは「何がヒットするか」とか「誰が売れるか」みたいに数字で読み切れる単純なものじゃない。何がインで何がアウトか。「格好いい」とはどういうことか、「センスがいい」とはどういうことか。そういう一人ひとりの直感的な判断が積み重なり、うねりのような潮流となって、最終的に“時代性”というものを形作る。King Gnuというバンドには、その基準をアップデートするようなパワーを感じる。


 たぶん、筆者と同じく去年くらいからその予感を抱いていた人は少なくないだろう。だから彼らのライブの動員は右肩上がりで増していったし、同業者であるミュージシャンたちの評価も高まっていたし、今年初頭に放送された音楽番組『バズリズム02』(日本テレビ系)をはじめ様々な場所で「2019年ブレイク候補の筆頭」に挙げられていた。1月にリリースされたメジャーデビューアルバム『Sympa』は、そのタイトルどおり瞬く間に彼らの“シンパ”を増やしていった。


 つまり、すでに導火線に火はついていた。そして、2月22日に配信リリースされた新曲「白日」が、決定打となったのだ。この曲が巻き起こしている状況はそういうことだろう。「白日」はリリース当日からストリーミングサービスでかなりの再生数を叩き出し、各種チャートでも上位にランクインしている。


 この原稿を書いている2月27日時点でApple Musicの「リアルタイム(総合)」ランキングでは、あいみょん「マリーゴールド」、ONE OK ROCK「Stand Out Fit In」に続いて3位。Spotifyの「急上昇チャート」では1位。LINE MUSICの「リアルタイム(総合)」でも1位。ダウンロードも含め、その他各種チャートでも軒並み上位にランクインしている。


 では、なぜ「白日」はここまでのセンセーションを巻き起こしつつあるのだろうか?


 もちろんメディア露出の力は大きい。


 この曲は彼らが土曜ドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』(日本テレビ系)に初のドラマ主題歌として書き下ろした一曲。坂口健太郎主演の同ドラマは、多少波はあるものの回を重ねるごとに視聴率を増し、緊迫感とカタルシスを持つ筋書きも注目を集めている。


 さらに「白日」が配信リリースされた2月22日に、King Gnuは『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に初登場を果たした。披露したのはアルバム『Sympa』収録曲の「Slumberland」。拡声器を用いた常田大希(Gt/Vo)の刺々しいボーカルから、井口理(Vo/Key)の色気ある歌声、勢喜遊(Dr/Sampler)と新井和輝(Ba)のリズム隊のテクニカルな演奏と、そのパフォーマンスがかなりのインパクトを視聴者に残したのは間違いない。ここで4人の姿を初めて見たという人も少なくないはずで、一つのきっかけになったことは明白だ。


 ただ、最も大きいのは、やはり楽曲の力だと思う。中でも筆者が強く感じるのはメロディの強烈な記名性だ。「トーキョー・ニュー・ミクスチャー・スタイル」を標榜するだけあって、音楽性の幅は広い。が、どの曲にも一聴しただけで彼らとわかるような美学が貫かれている。特に「白日」は、それが強い印象を残す曲になっている。


 「白日」はどういう点でユニークな楽曲なのか。それをいくつかのポイントにわけて解説したい。


 まず一つ目は、旋律の上下の動きが激しいメロディであること。〈真っ新に生まれ変わって/人生一から始めようが/へばりついて離れない/地続きの今を歩いているんだ〉という歌詞のところが象徴的だが、オクターブの音域を超えてかなり忙しく音程が飛び回っている。どちらかと言うとテクニカルで器楽的なメロディだ。


 二つ目は、いわゆるJ-POPの王道の“Aメロ・Bメロ・サビ”の曲構造を使っていないこと。と言っても海外のポップソングに目立つシンプルな“ヴァース・コーラス”の構造でもない。


 曲は歌とピアノをフィーチャーした〈時には誰かを/知らず知らずのうちに〉というパートから始まる。そこから横ノリのリズムが入ってきて45秒からの〈今の僕には/何ができるの?〉というパート、1分8秒からの〈真っ新に生まれ変わって〉というパートと、ワンコーラスぶんのおよそ90秒に3つのパートがあるのがこの曲の特徴なのだが、これ、全部サビと言ってもいいくらいフックの強いメロディなのである。イントロからAメロで情景を描写して、Bメロで気持ちを盛り上げて、高揚感あるサビに突入する、という90年代のJ-POPの定番のフォーミュラとは全く違う。むしろ、どこを切っても強烈なロマンティシズムが伝わるような“濃さ”を持ったメロディを最初から畳み掛ける構造になっている。


 そして三つ目、これが一番重要だと思うのだが、こういう特異なメロディセンスと特異な曲構成を持った曲を「よくわからない」ではなく「なんだかすごい」という説得力を持って感じさせる演奏力、そして井口の歌声が持つ陶酔感が大きなポイントになっている。特にファルセットで抜けるハイトーンの歌声が素晴らしい。常田のソングライティングの才能は間違いなくKing Gnuの核だが、ここにやはり彼らがロックバンドである意味と必然がある。おそらくこの曲を起点にKing Gnuがさらにブレイクしていくのは間違いないだろう。


 冒頭で「時代をひっくり返す」と書いたのだけれど、King Gnuの成功が日本のロックシーン、ポップミュージックのシーンにおける価値基準をどう変えていくのかも、今のうちに予言しておこう。それは「こういう曲調がフェスで盛り上がるから」とか「こういう歌詞が共感を呼ぶから」とか「SNSでバズを生むにはどうすればいいか」みたいなマーケティング的発想が先に走ったクリエイティブではなく、むしろ、自らの美学を研ぎ澄まし、その強度を世に問うようなクリエイティブが“ポップ”の力学になっていくのではないか、ということ。すなわち戦略性よりもアート性がヘゲモニーを握る時代がやってくるような予感がする。そういう意味でも、すごく楽しみだ。(文=柴 那典)