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泥棒から“かけがえのない”存在に 『まんぷく』でいま絶好調な瀬戸康史

2019年02月28日 07:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 朝ドラ『まんぷく』(NHK)にて、萬平(長谷川博己)の心血を注ぐラーメンづくりに対し、ヒロイン・福子(安藤サクラ)に次ぐサポーターぶりを見せている神部茂(瀬戸康史)。福子の姪・タカ(岸井ゆきの)と結婚してからというもの、親愛なる萬平の動向が気になりながらも家族のために尽くすべく、日々もどかしい思いを募らせていた彼だが、晴れて正式に「まんぷく食品」の従業員になったいま、絶好調である。


【写真】泥棒時代の神部(瀬戸康史)


 神部といえば、端役から物語の中核を担う存在へと、今作で最も出世した人物ではないだろうか。終戦間もない頃、生活にあえぐ彼が、福子や萬平たちのもとへ泥棒に入ったことから今の関係は始まったのだ。気がつけば福子の姉夫婦(松下奈緒、要潤)の子どもたちの家庭教師となり、萬平が事業を始めれば、その度ごとにチームのリーダーとなって萬平をサポート。さらには、あろうことか“みんなのタカちゃん”までを娶ってしまう、なんとも人の懐に入るのが上手い男である。もちろん、いい意味でだ。いまや福子たちにとって、そして『まんぷく』にとって、かけがえのない存在となっているのは間違いない。


 こんな奇想天外な人生を送る者など、当時いたのだろうか。しかし、こんな突飛な展開に柔軟に馴染んでしまい、天性の“人たらし”のちゃっかり者を嫌味なく演じられるのは、愛嬌あふれる瀬戸ならではだ。世渡り上手とあれば、いくつもの顔を持たねばならないし、それを接する相手ごとに上手く使い分けるのがコツだろう。ときに暴走する主君・萬平に忠義を尽くし、頑固者の義祖母(松坂慶子)を懐柔してみせ、最愛の女性・タカに誠実な態度で臨んでいるかと思えば、やはり家庭そっちのけで萬平の前に立ち現れる難事に表情を曇らせている。


 筆者はこれまでに、「瀬戸康史、中尾明慶、毎熊克哉……『まんぷく』長谷川博己を支える“塩軍団”俳優に注目(https://realsound.jp/movie/2018/11/post-278626.html)」と「年末企画:折田侑駿の「2018年 年間ベスト俳優TOP10(https://realsound.jp/movie/2018/12/post-290665.html)」 今後も追い続けたい若手俳優の誕生」の二つの記事で瀬戸に触れている。繰り返しにはなってしまうのだが、やはり彼の演じ手としての器用さの源泉には言及しておきたい。


 もはや見かけない日はないほどに映画やドラマでの活躍を繰り広げる瀬戸だが、デビュー以来、舞台作品への参加もコンスタントに続けている。キャリア初期の頃の彼は、“テニミュ”の愛称で親しまれる『ミュージカル テニスの王子様』に多数出演。いわゆる“2.5次元舞台”とあって、ルックスが作品起用の大きな理由となりそうだが、ここで現在の瀬戸に繋がる表現力を培ってきたといえるだろう。その後、彼の所属する俳優集団・D-BOYSによる演劇ユニット公演「Dステ」が立ち上がると、様々な演出家とのコラボレーションの中で、ジャンレスな作品群を生み出すことに貢献。近年は『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』(2016)や『陥没』(2017)など、世代もキャリアも異なった演技者の集う舞台にアクティブに参加し、主演を務めた『関数ドミノ』(2017)では、第72回文化庁芸術祭・新人賞を受賞した。


 舞台では、映画やドラマ以上に時間をかけて作品や自身の役に向き合い、集団芸術とあってチームワークも必要とされる。うん十回と同じセリフを口にしなければならないのは、演劇の苦しさであり醍醐味だろう。そしてその中での、山内圭哉や銀粉蝶、井上芳雄に生瀬勝久、さらに勝村政信といった演劇人との交流が、瀬戸の芝居の器用さの礎となっているのではないだろうか。また、『陥没』でタッグを組んだ演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチによる新作『ドクター・ホフマンのサナトリウム ~カフカ第4の長編~(仮)』への出演も先ごろ発表されたばかり。これには是が非でも駆けつけたいところだ。


 さて、半年にわたって放送される『まんぷく』も、残すところあと一カ月。とはいえ、まだまだ問題は山積みであり、神部の愛嬌や想いの強さだけではどうにもならないものばかりだ(彼の家庭での振る舞いも含めて……)。そのあたりを瀬戸がどのように演じていくのか、これも大きな見どころだろう。


(折田侑駿)