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Nobody、君に話しておきたいこと、ヒールの高さ……欅坂46『黒い羊』CW曲MVに注目

2019年02月28日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ついにリリースされた、欅坂46(以下、欅坂)の8thシングル『黒い羊』。衝撃的な内容の表題曲は、欅坂史上、一番ドラマチックで過酷なMVと共に、発売前から注目を集めていた。同シングルはカップリング曲のMVも秀作揃い。そこで今回は「黒い羊」の影に隠れたカップリングのMVに注目してみたい。


(関連:欅坂46 平手友梨奈、なぜ他アーティストからも愛される? 憑依型ダンスの表現力に迫る


■欅坂46「Nobody」


 まずは、TYPE-Aに収録されている「Nobody」。「黒い羊」で低音の歌声が印象的だった平手友梨奈だが、「Nobody」では高音で美しく歌っているため、彼女の音域の広さに驚かされる。齋藤冬優花がブログで「のーばでぃのーばでぃのーばでぃい~ 頭に残るね~!!」と綴っているように、同曲が解禁されるとサビのフレーズに中毒性があると話題に。欅坂では今までにない大人な曲調という意見もあれば、昭和歌謡、レゲエ、盆踊り調など、様々な感想が飛び交った。


 そんな「Nobody」のMVを手がけたのは、坂道AKB「誰のことを一番 愛してる?」や「国境のない時代」のMV監督を務めた東市篤憲。赤いスーツを身にまとったメンバーが、大型LEDビジョンをバックに踊る姿が印象的である。古いファッション誌のようなレトロポップな雰囲気を意識した演出は、平手のソロ曲「渋谷からPARCOが消えた日」の続きのような歌謡路線を感じさせる(「渋谷からPARCOが消えた日」MVでも平手は真っ赤なスーツを着用していた)。ハイブランドの広告や、ブルーノ・マーズのMVのように、1980年代のダサかっこよさを逆にクールと思わせる路線なのかもしれない。


 「黒い羊」とは一転して、フェミニンで艶のある作品に仕上がっている「Nobody」のMVは、ダンスもしなやかなものとなっているが、あえて当時の言葉を使えば「ブリっ子」のような仕草が多用されているように思う。たとえば、おねだりするようなポーズや、両手の人差し指をフリフリさせるなどのセクシーな振付。今までのダンスの中でも1、2を争うほど面白い振付だが、尾関梨香が真顔でピンポン球をラケットで打ち、それを織田奈那がキャッチするという謎の演出は完全に笑わせにきている。そう考えると壮大なネタなのか、はたまた本気なのか。マネキンのように無表情でパフォーマンスすることには、深い意図があるのだろうが、その掴みきれないところがこのMVの面白さでもある。しかし、同MVでの平手の髪型や仕草からは、今まで何度も言われてきている山口百恵っぽさが一番強く出ているのではないだろうか。じっくり平手の表情が見られるMVというだけでも見る価値ありだ。


■けやき坂46(日向坂46)「君に話しておきたいこと」


 次に全タイプ(MVはTYPE-BのBlu-ray)に収録されている、けやき坂46(以下、ひらがなけやき)「君に話しておきたいこと」。同曲は、ひらがなけやきらしいハッピーオーラ満載で、それにあわせたMVの演出が実に楽しく爽快感のあるものとなっている。監督は、ひらがなけやきの「期待していない自分」を手がけた安藤隼人。振り付けは、『2017 FNS歌謡祭』(フジテレビ)で平井堅×平手友梨奈の「ノンフィクション」の振り付けを担当したCRE8BOY。撮影時にはすでに日向坂46(以下、日向坂)への改名が決まっていたのか定かではないが、日向坂のイメージカラーである空色の衣装が映えていて印象的だ。「黒い羊」のMVではワンカメの長回しが話題となったが、この曲もまた途中の歌唱部分はワンカメ風に撮影されている。動いている1人の背後から何人も出て来たり、引っ込んだりという、かつてミシェル・ゴンドリーがGAPの「Holiday」シリーズCMでやっていたようなトリック演出が見どころ。「黒い羊」と比べると一見単純なMVに見えるかもしれないが、CG処理のことを考えると、編集にかなりの時間がかかっているのではないかと推測できる。また、きっちりそれぞれのメンバーにスポットを当てているところもファンには嬉しい演出だ。ただ、爽快感のある曲だからこそ、なぜ青空が見える場所で撮影されなかったのかが疑問である。


■菅井友香×守屋茜「ヒールの高さ」


 続いて、TYPE-Cに収録されている、菅井友香&守屋茜のユニットによる「ヒールの高さ」。『レコメン!』(文化放送)で菅井が同曲について「欅坂は思春期の葛藤とかの曲が多いんですけど、この曲はもうちょっと大人の世代の、新社会人とか就活生の子とかにより共感してもらえるのかな」と語っていたように、今まで欅坂が歌ってきた歌詞の世界の子たちが成長し、社会人になってから新たに生まれた葛藤を歌っているような楽曲だ。今までにない一つ上のステージを歌った楽曲で、それをキャプテンと副キャプテンの大人コンビが歌っているからこそ感慨深い。菅井が「本当に(守屋)茜がすごく綺麗なんですよ!」と説明するように、主人公の守屋はもちろん、菅井もまたとても美しく映し出されたMVとなっている。特に水中を泳ぐシーンは綺麗だ。


 「もうあんな大きな闇の中だってこわくない。」「みんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。」という宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の一節から始まる同MVは、守屋の夢の中なのか、夜のバスに乗って埠頭へと向かい、そんな守屋に寄り添う菅井という構図で物語は進んでいく。『銀河鉄道の夜』は、本当の幸せは自分の身を犠牲にしてでも他者のために尽くすといった解釈もできる話であり、欅坂における2人の立場や歌詞の中の登場人物ともリンクする部分がある。最後のオチもいかにも文学的だ。


■少女フレンズ「ごめんね クリスマス」


 そしてTYPE-Dに収録されている、上村莉菜、尾関梨香、長沢菜々香、渡辺梨加によるユニット・少女フレンズの「ごめんね クリスマス」。監督は小林由依&土生瑞穂のユニット・線香姉妹「302号室」を手がけた月田茂。尾関以外、歌声はかなり未知数なメンバーが集まった同ユニットの「ごめんね クリスマス」は、好きな男女が別れるという切ないクリスマスソングではあるが、とても愛らしい歌声のアイドルソングとなっている。


 MVについては、『ゆうがたパラダイス』(NHK-FM)で曲が初解禁された際に、尾関が「ひたすらゴロゴロしてます」とコメント。クリスマスソングで香港風のセットという斬新さの中で、それぞれのカットではクールに決めている4人が、キレはないが味のあるダンスを披露しているのが癖になる。そのギャップにどこかほっこりしてしまうのだ。これがアイドル好きの長沢が理想とするアイドル像なのだろうか、その愛らしさに何度も見返したくなるMVだ。


 8thシングルは「黒い羊」が鮮烈な分、それを受け止めるためなのか、カップリング曲は比較的柔らかい印象がある。だが、どれも趣向を凝らしたMVばかり。秋元康が「僕の歌詞は、TAKAHIROの振り付けによって完成すると言っても過言ではない」とダンサー・TAKAHIROの著書『ゼロは最強』にコメントを寄せていたが、欅坂の曲はMVによって完成するのではないかと、8thシングルを見て改めて感じさせられた。(文=本 手)