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安月名莉子×ボンジュール鈴木「Whiteout」対談 『ブギーポップは笑わない』EDテーマの“二面性”

2019年02月27日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 昨年11月、TVアニメ『やがて君になる』のオープニングテーマ「君にふれて」でデビューを果たしたシンガーソングライター、安月名莉子。彼女が2019年の第1弾リリースとなる2ndシングル曲「Whiteout」を完成させた。この楽曲は、上遠野浩平によるライトノベルの金字塔を原作にしたTVアニメ『ブギーポップは笑わない』(AT-X、TOKYO MX、テレビ愛知、KBS京都、サンテレビ、BS11)のエンディングテーマ。「君にふれて」でも作詞/作曲を担当したボンジュール鈴木と引き続きタッグを組み、アニメの世界観と自身の魅力の両方を楽曲に詰め込んでいる。リアルサウンドでは、前作のリリース時に続いて、ふたたびボンジュール鈴木との対談を企画。「Whiteout」の制作過程や楽曲の魅力を聞いた。(杉山仁)


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■安月名さんが『ブギーポップ』の中に登場したら、どんな存在かと考えた


――安月名さんとボンジュールさんは「君にふれて」での対談時に「りこちゃんと話すのは初めて」という話をしていましたが、今回2連続で楽曲をともにすることになりましたね。


安月名:運命だと思います(笑)。本当に嬉しいです。


ボンジュール:とても嬉しいです。


――その後、2人でゆっくりと話せる機会はあったんですか?


ボンジュール:ないんですよ(笑)。私は安月名さんのMVを観たり、ご活躍を拝見していたので、勝手に距離が近くなっている印象なんですけど、実際にはゆっくりお話できていなくてあれ以来ですよね。


安月名:そうですね(笑)。


――「Whiteout」がEDテーマに起用された『ブギーポップは笑わない』は1998年のライトノベル刊行以来長く愛されてきた作品ですが、この作品にはどんな魅力を感じますか?


安月名:私にとってはエンディングテーマのお話をいただいたときに初めて知った作品でした。これまで読んだライトノベルの中でも初めての印象を受けました。主人公がひとりとは限らなくて、色々な視点から物語が描かれている雰囲気も独特ですし、読んでいくうちに「あっ、ここはこうなんだ」と色々なことが重なっていって、それを理解できたときの感動を覚えています!


――パズルを解いていくように、物語が徐々に分かってくるような作品ですよね。


安月名:物語が繋がった瞬間に感動しました。それに、学生生活を舞台にしながらも、何か不気味な魅力を感じるという意味では、現実的でありながら非現実的なところに入り込めるようでもあって、そこが素敵だと思います。


ボンジュール:思春期ならではの闇や心理状態って、大人になればそこまでたいしたことではなかったな、と思うことかもしれないですけど、その時期の子たちにとってはそれがすべてなんですよね。そこがすごく魅力的に描かれているな、と思いました。現実にはなさそうで、でも現実とも繋がるような雰囲気があって。もちろん、現実世界では人を食べたりはしないですけど……。心理的な意味では色々な人に通じるものが描かれた作品だと思います。


安月名:タイトルからして謎が深い(笑)。


――劇伴もすごくさりげなく入っていて、セリフもゆっくりしていて。


安月名:それに、原作を読んでいるとグッとくる名言が、アニメでもたくさん描かれていてそこにも惹かれます。私が特に好きなのは、「君たちは、泣いてる人を見て何とも思わないのか?」「呆れたものだ。これが文明社会ってわけか?」というブギーポップのセリフです。刺さる言葉が色々とあって、「戦う覚悟を持たなきゃいけないんだよ」というセリフは「自分に言われてるのかな」と思ったり。


ボンジュール:あっ、私も同じ!


――哲学的なセリフが多いですよね。いわゆる世界の敵のようなものが、人の中から湧き上がってくるという意味でも複雑な作品だと思いますし。


ボンジュール:私の場合、作詞をやらせていただくことも多いので、曲の世界観を、台詞から連想していくことも多いんです。それを自分の言葉にしていく作業をするんですけど、その中でも「思春期はもろくてとても危うい」という言葉は、『ブギーポップは笑わない』という作品を、ものすごく語っているように感じました。その脆くて危ういダークサイドと、正義感を持つ少女たちの葛藤のようなものが魅力的に描かれているな、と毎回感じます。


――人の中にある二面性が描かれているということですね。ボンジュールさんは曲を作るときにも、そうしたことを意識して曲を作っていったんでしょうか?


ボンジュール:そうですね。ただ、それだけではなくて、どれだけ歌う方と作品を「いい形でその2つを結び付けられるか」ということを考えて制作させていただきました。安月名さんはすごく純粋で、『ブギーポップは笑わない』に出てくるようなダークサイドはあまり感じられないように思うんです。でも、それを演じる力はある方だと思うので、安月名さんがその世界観の中にいたらどうなるだろう?ということを考えながら、曲をイメージしました。安月名さんがクラスメイトにいたら、どういう存在かな、と想像したんです。


安月名:ああ……!!


――安月名さんが『ブギーポップ』の中に登場したら、どんな存在になるだろうか、と。


ボンジュール:絶対にいい子なんですよ(笑)。戦いはしないかもしれないけど、きっと人を救う子になるんじゃないかな、って。でも、そのときに悪とも向き合わなければいけない――。そういうことを想像しました。


安月名:実際、私は学校で『ブギーポップ』のようなことが起こったら、きっと何が起こっているのか興味を持つ気がします。謎を探っていきそうな気がする。末真(和子)タイプ(笑)。


ボンジュール:そんな気がする(笑)。そこに主人公にあたる(宮下)藤花ちゃんのことも加えながら、2人(安月名&藤花)を合致させて書いていきました。物語に忠実でありつつ、安月名さんの歌でもあると思うので。


安月名:今初めて聞きました。もっと色々お話ししたいです……!


ボンジュール:あとは、『ブギーポップは笑わない』ほどダークではなくても、聴いていらっしゃる方が実生活で感じる何かに当てはめて聴けるようなものにもしたいと思っていました。


■私の引き出しが、またひとつ増えたような気がしている


――安月名さんは曲を聴いて、どう感じましたか?


安月名:『ブギーポップは笑わない』のキーワードの一つでもある二面性、その世界観に本当にピッタリな楽曲でした。音楽をやっていく生活の中で新しい自分が生まれたり、悩んだりすることが出てきたときに、もうひとりの自分が出てきそうで出てこないもどかしさを想像して歌ったら、すっと曲に入り込めました。あと、ボンジュールさんの仮歌の独特な雰囲気に近づけるように頑張ろう、と思っていました。ボンジュールさんは当日もディレクションをしてくださって。でも、やっぱりエロさが全然違いました。


ボンジュール:フランス語で仮歌をしてしまうと、どうしても吐息が混じってしまうというか……。最終的に日本語詞になっている曲でも、最初はフランス語や英語、それから何語でもないようなものが混ざった状態でリズムを組み立てたりしているので。


安月名:それがすごくかっこよくて!


――安月名さんに渡ったデモの時点でも、色んな言葉が混じったボンジュールさんの声が入っていたんですか?


ボンジュール:そうです。安月名さんは自分自身で表現ができる人なので、こっちではっきりと歌い方を提示するのではなくて、何語なのか分からないようなものを渡して自由に表現してもらった方がいいものになると思ったんですよ。渡した曲をどんな風に表現してくるのか、すごく楽しみでした。


安月名:今回は「ここはどういう風に歌った方がいいのだろう?」と考えたところが結構ありました。Bメロの〈溢れてく See, I don’t want to lose to myself〉のところに、作品にも繋がる二面性が特に出ていると。そこで自分の中の自分と追っかけをしているように歌い方を工夫したりながら、歌が平坦にならないように考えていきました。


――歌詞でいうと、〈I just live by my raison d’être〉という部分の〈raison d’être〉だけフランス語になっているのは、何か理由があるんですか?


ボンジュール:確かにその部分だけフランス語ではありますけど、英語圏の友達に聞いてみると、「raison d’être」という言葉はもちろん知ってるよ!という感じだったので。ただ、もとがフランス語ということもあって、少し不思議な語感のイメージかもしれないなと思い。『ブギーポップは笑わない』は、物語の中で違和感を魅力的に表現している作品なので、その雰囲気とリンクするような形で「raison d’être」という言葉を入れました。ちょっと字余りなのは、違和感として耳につきやすいかな、と思ったからなんです。


――なるほど。しかも「raison d’être」(=存在理由/レーゾンデートル)という言葉は、『ブギーポップは笑わない』の重要なテーマに繋がる言葉にもなっていますね。


安月名:私、「レーゾンデチュ」って発音していますよね?


ボンジュール:それがすごく可愛いアクセントになっているな、と思いました。


――「Whiteout」という曲名はどんな風に出てきたものだったんですか?


ボンジュール:原作の中に「Whiteout」という言葉が出てきていて、それがすごく安月名さんのイメージに合うと思ったんです。「Whiteout」には、「雪や雲が光の乱反射などで白一色になって見えなくしてしまう」という意味もありますけど、安月名さんの純粋なイメージと宮下藤花ちゃんが合わさった時に、世界に乱反射を起こさせるようなイメージになるんじゃないかと。


――安月名さんは、他に今回の楽曲の好きなところや、工夫したことはありますか?


安月名:私は〈Flashback〉もすごく好きで。レコーディング中に「今の(歌い方)かっこいい!」という声が聞こえてきたのが嬉しかったです。リズムもすごく好きだし、私はもともと洋楽が好きなのですが、そのテイストがあるように感じました。


ボンジュール:以前、「日本の歌謡曲はもともと、フランスの音楽に似ている」というお話を聞いたことがあって。実際、さかのぼって聴いていくと共通点が多い気がします。今回の「Whiteout」は、ヨーロッパのクラブ、エレクトロミュージックの要素を少し意識しました。


――確かに、『ブギーポップは笑わない』のじわじわと不気味さがやってくる雰囲気は、ヨーロッパの美学に近いものがありますね。


ボンジュール:ヨーロッパって映画もそういうものが多いですよね。今回は、そういう雰囲気の方が作品の魅力を表現できると思ったんです。「鏡」というのもキーワードですね。


――音でもややインダストリアルっぽい、鏡やガラスっぽい雰囲気が表現されていますね。


ボンジュール:そこは意識していて、編曲家の鈴木Daichi秀行さんにもそういうイメージで伝えさせていただきました。少し難解な作品なので、音は分かりやすく表現しようという話をしていたんです。


――なるほど、そういう意図だったんですね。そして何より今回の「Whiteout」は、前回の「君にふれて」とは随分違う雰囲気の楽曲になっているのが何よりも印象的でした。


安月名:「Whiteout」は、リズムを掴むのがすごく難しかったです。なのでリズムのポイントになるようなところにチェックを入れつつ歌っていきました。そこからBメロの部分は、普段の私らしい感じを全開にして歌っていきました。


――この曲は初となるMVも制作されましたが、とても印象的な映像になっていますね。


安月名:すごく素敵なMVにしていただきました。今回、初めてのMVでしたが、歌わずに踊っています(笑)。素敵な振りもつけていただきました!ドローンでの撮影だったのですが、あの場所から見た景色は本当にすごかったです。スモークと光とがあたり一面を覆っていて、遠くは見えないという感覚で。かっこよく撮っていただいて本当に嬉しかったです。


――まさに「Whiteout」ですね(笑)。途中、安月名さんが歩いていくところも、まるでブギーポップが乗り移っているかのようでした。


安月名:もうひとりの自分にとりつかれているようなイメージでした。


ボンジュール:周りに広がっている闇と、安月名さんの白い衣装が、私が曲を書いたときのイメージにすごく似ていてびっくりしました。


――今回もとてもいい化学反応が起こっていたんですね。


ボンジュール:安月名さんは、どんな曲でも自分のものとして素敵に表現してくださるので、曲を書かせていただけてとても嬉しいです。しかも、前回は作曲段階では安月名さんの声を聴いたことはなかったですけど、今回は安月名さんを思い浮かべながら曲を作ることができたので、それも嬉しかったですね。歌唱力があり表現力が豊かな方だということは前回分かったので、今回は前とは違う、別の面を引き出させてもらいたいな、と。作家冥利に尽きますね。


安月名:こちらこそ、素敵な曲を書いていただいてとても嬉しいです。今回はアコースティックギターを持っていない曲ということもあり、ギターを持たずに歌う自分がどんな風に見せられるのだろうとも思いますし、そういうことを想像するのも楽しくて。今回もとても素晴らしい曲をいただけたのでとても嬉しかったですし、また提供していただけるように頑張っていこうと思っています。「君にふれて」も「Whiteout」も、ボンジュールさんに書いていただいたおかげで、私の音楽が広がりました。私の引き出しが、またひとつ増えたような気がしています。(杉山仁)