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メディアミックスとして大成功? 『アリータ:バトル・エンジェル』の絶妙なバランス

2019年02月27日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 実写化に限らず、メディアミックスは難しい。ゲームのアニメ化、漫画の小説化、映画の漫画化などなど、表現媒体を変え、なおかつ「原作」の持つ魅力を活かすのは至難の業だ。全ての原作ファンを満足させることなど不可能だろう。特に原作が「原作の表現媒体」と強く結びついている場合は。


参考:ロバート・ロドリゲス監督が語る、ジェームズ・キャメロンとの友情と『アリータ』への自信


 漫画『銃夢』は実写化するには非常に難しい作品だ。サイボーグ少女・ガリィ(今回の映画ではアリータ)の戦いを壮大なスケールで描くSFアクションだが、同作を成立させているのは「漫画ならでは」の要素が多い。作者・木城ゆきと先生の画力や構成力、テクニックがあってこその作品だ。たとえば登場するガジェットに対する注釈。作中用語に「※」が付いていて、コマの外にその説明が書いてある。現実に存在しない単語を登場人物が説明なく使うことで、読者に「この人たちにとっては当たり前の言葉なのだな」と思わせ、リアリティを補強しながら説明の尺を割く手法だ。漫画ではよく見かけるテクニックだが、これも実写には不向きだろう(『ミナミの帝王』みたいにテロップで流す方法もあるが)。


 『銃夢』はこうした漫画的な技巧面で優れている。そして巧み過ぎるからこそ、実写映画化以前に、そもそも漫画以外のメディアに置き換えることが難しい。しかし、それでも監督のロバート・ロドリゲスと、プロデューサーを務めたジェームズ・キャメロンはあえて難題に挑戦し、一定の成果を出した。良くも悪くもハリウッド超大作としての再構築には成功している。


 まず多くの実写化映画が最初に躓く「再現度」のレベルがイイ。これがなかなか難しく、過去にも設定から何から改変してしまい、公開から10年経った今でも悪しき実写映画化の例として引き合いに出される『DRAGONBALL EVOLUTION』(2009年)や、逆に原作のヴァイオレンス表現を忠実に再現したところ、当の作者から「気持ち悪かった」と身も蓋もない評価を受けた『RIKI-OH/力王』(1991年)といった事例がある。削ぎ落し過ぎてもいけないし、そのまんま過ぎてもいけないが、そこは足かけ20年(!)も実写化にこだわってきた強い気持ち・強い愛を持っていたキャメロンと、映像表現に創意工夫に定評があるロドリゲス。絶妙なバランスで原作の映像化に成功している。予告公開時から話題になったアリータの大きな目も、実際に見てみるとアリータが生身の人間じゃないと明確に分かるので非常に効果的だ。何よりアリータが使う格闘技「機甲術(パンツァークンスト)」のキレが素晴らしい。この格闘シーンだけでも映像化した価値がある。また少々強引でも原作のカッコいいガジェットを登場させているのも、その強引ゆえに「『銃夢』ならコレを出さないと!」という強いこだわりを感じさせる。そして原作を再現しようと努める一方で、一見さんお断りにならない配慮も怠らない。


 ここで頭をよぎるのは、日本の偉人・範馬勇次郎の「競うな 持ち味を活かせッッ」精神だ。ロドリゲスもキャメロンも、原作でいう「ユーゴ編」のような流れの物語が得意だ(キャメロンなら『タイタニック』(1997年)、ロドリゲスなら『プラネット・テラー in グラインドハウス』(2007年)が好例だろう)。OVA版のシナリオをベースに、その持ち味を存分に発揮、単体の物語として話の筋を通している。


 もちろん最初に書いたように、全ての原作ファンを満足させることは不可能だ。本作の場合だと原作のマッドな雰囲気や、複雑に練られた背景/設定が薄れているのが痛い。この点において全くの別物だと感じるファンも多いだろう。原作の重要キャラがチラっとだけ出てくるのも、続編に期待と捉えるか、アイツの出番があれだけなのかと捉えるか、意見が分かれるところだ。しかし、『銃夢』という強烈な原作の1つのメディアミックス作品として、本作『アリータ:バトル・エンジェル』は可能な限りの努力をした力作である。本作を入口に、原作を手に取る人は確実にいるだろう。そしてそれは、メディアミックスとして大成功である。(加藤よしき)