2019年02月27日 10:31 弁護士ドットコム
お世話になった上司の退職祝いにアダルトグッズをプレゼントしようーー。同僚のそんな計画が「セクハラにあたらないのか」と心配する相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
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都内のIT企業につとめるKさん(30代男性)は、年度末に退職する男性上司へのプレゼント選びを任されました。数人の同僚との議論の末、上司が大のワイン好きだったことから、「生まれ年の赤ワインを贈ろう」ということで意見はほぼ固まりました。
ところが、いざプレゼントを購入しようという段階になって、同僚のひとりが「ワインはありきたりだ。TENGA(男性用アダルトグッズ)をプレゼントしよう」と提案。男性が多い部署だったため、周りの同僚もそれに同調し、プレゼントはTENGAに決まってしまいました。
同性の上司とはいえ、アダルトグッズをプレゼントすることは「セクハラにあたるのではないか」とKさんは心配しています。退職する上司にアダルトグッズを贈ることはセクハラにあたる可能性があるのでしょうか。労働問題に詳しい吉成安友弁護士に聞きました。
ーーKさんの職場は、20、30代の社員が多いため、学生感覚でこうしたプレゼントをしようという発想になったようです。悪意がないとはいえ、セクハラにあたらないのでしょうか。
「セクハラ」といっても、この言葉を定義している法律はありません。公的なものとしては、厚労省が「平成18年厚生労働省告示第615号」といういわゆる「セクハラ指針」と呼ばれるものを出していて、これにはセクハラを分類した上でその定義が記載されています。
ただ、これは雇用機会均等法上の事業者が講じるべき措置についてのものなので、今回のような退職する人のケースには直接は当てはまらない面があります。
まずは、一般的な「相手方の意に反する性的言動」といった意味でのセクハラに当たるかというところを考えてみたいと思います。
ーー同性間でもセクハラは成立するものなのですか
この意味でのセクハラは、社会通念によってその範囲等が画されるものです。現在の社会通念に照らせば、その性的言動の相手方が同性であっても、本人の意に反するのであれば、セクハラに当たるといえます。
実際、先ほどのセクハラ指針でも、平成25年に改正された際に「職場におけるセクシュアルハラスメントには、同性に対するものも含まれるものである」と明記されるに至っています。
このことからも、現在ではセクハラに同性に対するものが含まれることが、広く認識されるに至っていることがうかがわれます。
ーー異性に対しては気をつけても、同性に対しては認識が甘くなりがちですね
同性間であれば、異性間と比べて、本人の意に反しない場合は多くなるとは思います。しかし、本人の意に反すれば、それはセクハラです。従って、異性間でセクハラとなる可能性がある行為は、同性間でもセクハラとなる可能性があると考えるべきですね。
ーー部下から上司に対するものも「セクハラ」と言えるのでしょうか
上司が部下からセクハラを受けることは、逆の場合に比べて少ないとは思います。とはいえ、上司であっても、被害者になることがあるのは当然です。
そして、今回のケースでは、アダルトグッズをプレゼントするのであり、異性間で同様のことを行う場合を考えてみれば明らかなように、性的な言動に当たるといえます。
その上司が不快に感じるのであれば、セクハラに当たるといえます。従って、上司が不快に感じる可能性がある限り、このような行為はすべきではないと思います。
ただし、「相手方の意に反する性的言動」という意味でセクハラに当たる行為についても、その態様、程度は様々であり、その全てが、不法行為にあたり、慰謝料が発生するというわけではありません。
ーーセクハラに該当しても、必ずしも、慰謝料が発生するわけではないのですね。不法行為か否か、慰謝料の有無はどのように決まるのでしょうか
一般に、「相手の意に反する性的言動」が不法行為に該当するか、該当するとして慰謝料額がどのくらいになるかについては、種々の要素から判断されます。主な考慮要素は、行為の悪質性、継続性、結果の重大性といったところになるかと思います。
ーー具体例を教えてください
ギリギリのケースでいえば、同性間や目上の者に対するケースではありませんが、大学教授が酒の席で話をする際に学生の肩に手をかけることがよくあったというケースがあります。
この教授は、酒の席では、こうした行為を男女問わずに行っていて、他の学生には違和感なく受け容れられていたそうです。
しかし、裁判所は、原告の学生は不快に思っていたことから、不法行為に該当するとし、慰謝料として5万円の支払を命じました。
ーー職場の事例はありますか
公務員のケースですが、管理職の女性が見回り中、職場に設置されている浴室の脱衣所に上半身裸でいる男性の職員を発見。男性がズボンを履いていることは確認した上で、近づいて、じろじろみながら、「ねえ、ねえ、何してるの」などと訊ねたというケースがあります。
このケースでは、二審では事実認定自体が変わって請求棄却となったのですが、一審の裁判所は、女性の行為が不法行為に該当するとしていました。
そして、「公権力の行使に当たる国の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人は責任を負わない」とする最高裁判例により、女性個人の責任は認めなかったものの、国に責任を認め、裁判当時国から責任を承継していた国営特殊法人に慰謝料として10万円の支払を命じていました。
ーー加害者側はあまり重く考えていないようなケースでも慰謝料の支払が命じられることがあるのですね。
ちなみに、これらのケースでは、それぞれ退学、休職という事態が生じており、セクハラ行為との因果関係は否定されているのですが、このことが裁判所の判断に事実上の影響を及ぼした可能性があるようにも思われます。
ーー結論として、今回のケースはどのように考えられますか
今回のケースは、前述したケースと比較すると、性的な言動として露骨な面があるとはいえます。ただ、これから退職されるということで今後の就業環境の悪化という事態は生じないといえます。
また、不法行為の成否を考える場面では、悪質性が比較的低いと考えられることになりそうです。力関係から言って、その上司は逆らえなかったりするわけではないからです。
加えて、問題の行為が1度限りであることを考えると、今回のケースは、上司が不快に感じても、不法行為とまではされない可能性が高いように思われます。
【取材協力弁護士】
吉成 安友(よしなり・やすとも)弁護士
東京弁護士会会員。企業法務全般から、医療過誤、知財、離婚、相続、刑事弁護、消費者問題、交通事故、行政訴訟、労働問題等幅広く取り扱う。特に交渉、訴訟案件を得意とする。
事務所名:MYパートナーズ法律事務所
事務所URL:http://www.myp-lo.com/