トップへ

ONE OK ROCK『Eye of the Storm』から考える、“クロスオーバー”がロックに与えた新たな語法

2019年02月26日 10:41  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 ONE OK ROCKのニューアルバム『Eye of the Storm』は、ここ数年の彼らのチャレンジがかたちになった一作だ。ギター中心のアンサンブルからリズム隊に焦点をあてたプロダクションに舵を切ったことで、サウンドそのもののシンプルな力強さが押し出されている。


(関連:ONE OK ROCK、『Eye of the Storm』が日本の音楽シーンに与える影響 チャート1位機に考察


 しかし、本作では、彼らが洗練させてきたロックバンド的なカタルシスのつくり方やメロディの力を大胆に振り切ってしまっている。高揚感のあるコード進行やメロディ、あるいはギターをかき鳴らす爽快感。こうしたカタルシスが本作で薄らいでいるのだ。そのサウンドを惜しむ声も随所で聞かれる。


 そのかわり、本作にはまた別種のカタルシスが用意されており、それに惹かれるリスナーも少なくないはず。ONE OK ROCKの最新作が持つ魅力を体感するためのガイドとして、こうした新しいロックのあり方について概観してみることにしよう。


 ONE OK ROCKの変化の契機は、アメリカのレーベル、<Fueled by Ramen>との契約だろう。同レーベルはもともと、ParamoreやPanic! At The Discoなど、エモを中心としたポップパンク寄りの人気バンドを多く擁してきた。近年はTwenty One Pilotsに代表されるように、トラップやEDMからの影響を貪欲に取り込んだ、新しいロックをメインストリームに向かって放っている。


 彼らの提示する新しいロックは、トラップに負けない重低音と、各パートの抜き差しによって楽曲のなかにダイナミズムをつくりだすEDM的な方法を取り入れたもの。メロディはよりシンプルになり、各楽器が放つ一音一音の存在感を出すために、テンポはやや遅く音数は減る。しかし、大音量でそのサウンドを浴びたときの快感は従来型のロックに引けを取らない。いまや、フェスやスタジアムなど、そうしたサウンドのほうが映える場所も多いかもしれない。


 一方で、新しいロックでは影が薄くなりがちなギターサウンドがヒップホップやEDMへと進出していく例も数多い。現在は異なるシーンが少しずつ交差する、クロスオーバー全盛の時代なのだ。


 たとえば、XXXTentacionやLil Peepの活躍で名を挙げたエモラップ。この二人はグランジやオルタナ寄りのギターサウンドを多用していたが、Lil Aaronはそれこそゼロ年代のポップパンクをサンプリングしたり、Blink-182のドラマーであるトラヴィス・バーカーをフィーチャーしたりと、文字通りの「エモ」ラップっぷりを見せている。また、<Fueled by Ramen>もnothing, nowhereのようなエモラップの流れを汲むアクトを抱えており、人脈もクロスオーバーしている。


 日本では、海外でも評価が高いKOHHがONE OK ROCKのTakaをフィーチャーした「I Want a Billion」を発表した。もともと「Die Young」などメタルを意識したサウンドを取り入れていたが、「I Want a Billion」ではいよいよロックシンガーとのコラボが実現した。


 EDMの側からは、カナダ出身プロデューサーのExcisionが、ダブステップのメタリックなリードシンセとメタルのギターサウンドを融合させたスタイルを確立している。


 Excisionとも共演したギタリストのサリヴァン・キングは、より突き抜けたサウンドでメタルとダブステップの境界線を破壊している。


 元Rage Against the MachineのTom Morelloのソロ作もEDMを取り入れていたが、まだ従来のロックのサウンドメイクにとらわれている印象がある。


 この点、日本で興味深い変化を遂げているバンドが女王蜂だ。最新シングルの「火炎」はフューチャーベース的な構成に、日本語ラップ的なフロウも披露。秀逸なのは、EDMの勘所のひとつである「ドロップ」と、ロックの見せ場であるギターソロを組み合わせた構成だ。その前作にあたる「催眠術」もトリッキーなサウンドメイクが光る。


 こうしたアメリカを中心とするクロスオーバーと並行して、イギリスからは、ポストパンクからネオソウル、80年代風のバラードまでを取り込んだThe 1975『A Brief Inquiry Into Online Relationships』や、多彩なサウンドをメタル的質感のもとに再構築したBring Me The Horizon『Amo』など、ジャンルを横断した意欲作が続いている。


 批評筋からの評価も高いこの2枚と比べると、『Eye of the Storm』はプロダクションの堅実さに寄りすぎているようにも感じる。本記事で概観した新しいロックの語法を手に入れたあと、次の一歩はどこに進むのか。そこでこそ彼らのポテンシャルが問われるだろう。(imdkm)