イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーのMotoGPコラム。MotoGPオフィシャルテストで見えた各メーカーの動きをオクスリーが分析する。
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2018年シーズンの大部分はヤマハにとって悪夢だった。ヤマハは1973年に最高峰クラスに初めて参戦して以来、最も長く続く敗北の記録を作った。問題はシンプルだ。ヤマハはドゥカティやホンダが行っているように、MotoGPの新たな電子制御とタイヤに適合できていないのだ。
ミシュランタイヤへの変更はドゥカティには一番の助けとなったが、ヤマハはその影響を一番受けている。ドゥカティ・デスモセディチGPがコーナーを速く通過するために大きな傾斜角度を必要としない一方で、ヤマハYZR-M1はつねに傾斜角度を必要としている。これがドゥカティがブリヂストンタイヤで5年間勝てなかった後、2016年に再び勝ち始めた理由のひとつであることに、多くの人が気づいていない。
「我々の不利な点は、バイクがコーナーを曲がる時により傾斜角度を必要とすることだ」とヤマハのモータースポーツマネージャーを務める辻幸一は語る。
「だから我々はタイヤのエッジをより使うようになる。そうするとエッジのグリップが落ち、バイクが望むように動かなくなる」
「2017年と2018年に我々は多くのことを試した。さまざまなフレーム剛性や異なる重心などだ。だが我々はいまだにミシュランタイヤに合う正確な数字を見いだせていない。何か具体的なことが見つかれば対応できるのだが、何が問題なのか正確なことがわからない。エンジンの特性かもしれないし、電子制御なのかもしれない。また、シャシー剛性なのかもしれない。色々な部分が影響していると思う」
バレンティーノ・ロッシとマーベリック・ビニャーレスは、ヤマハにおいてほとんどの期間を不振に喘いでいるのは、シャシーやエンジンの特性よりも、電子制御のせいだとしていた。しかし2018年シーズン終盤に向かうところで、ついに彼らはエンジンが有力な原因であることに気づいた。
「電子制御は問題の一部でしかない」と辻は付け加えた。「電子制御から余分なグリップを生み出せないのだから、我々に必要なのはもっとメカニカルグリップを得ることだ」
■新仕様エンジンでレギュラーライダーの意見が分かれる
オフシーズンテストの間、ロッシとビニャーレスはふたつの新仕様エンジンを試した。スムーズなコーナー進入を可能にし、コーナー出口でのトラクションを増すためのメカニカルグリップを増大させるため、クランクシャフトの慣性を大きくしたエンジンだ。
ビニャーレスは新仕様のエンジンに感心した。なぜなら彼はよりエンジンブレーキを好むからだ。「今ではエンジンブレーキの感触は良くなったよ」とビニャーレスは語った。
「コーナー進入時には深く集中している。そこでグリップを失うと、タイムを失ってしまうからね」
だが、ロッシはそれほど感心しなかった。「ヤマハは柔軟な性質のエンジンを与えようとしている。スピンが減るようにね。でもいまだに僕たちはリヤタイヤの摩耗に悩まされている」とコメントしている。
ヤマハは2018年11月のヘレステスト後で2019年のエンジンを確定させたがったが、ロッシはもうひとつの仕様を2月のセパンでテストしたいと希望したのだ。
ヤマハには2019年に向けた新型シャシーもあるが、それがYZR-M1のグリップとタイヤの摩耗の問題を解決するかどうかを知るには、時期が早すぎるだろう。ヤマハは常にコーナースピードを出せるバイクを製作しているから、2019年のYZR-M1がストップ・アンド・ゴータイプのマシンになることはなさそうだ。
ヤマハのシャシー担当エンジニアたちは、傾斜角度とタイヤ寿命の課題について他の道を探らねばならないだろう。
電子制御がヤマハの唯一の問題ではないことが今では分かったものの、彼らはこの分野でも追いつかなければならないのは明白だ。私が辻に、ドゥカティとホンダに続いて彼らもマニエッティ・マレリのスタッフを雇えないのかと尋ねたところ、彼は笑った。
「もしドゥカティかマニエッティマレリの優秀なエレクトロニクスエンジニアを知っていたら、我々に紹介してほしい」と辻は語った。
「だがたとえば、ドゥカティは常にエンジニアを契約で縛り付けている。それがリン(・ジャービス、ヤマハ・レーシングのマネージングディレクター)がいまだにエンジニアを探している理由だ」
ともかくヤマハは、ミシュランタイヤの性能をいかに引き出すかということの答えを出す必要がある。エンジン、シャシー、電子制御という3点の主要なパフォーマンス要因に小さな改善を施すことで、ドゥカティとホンダとの小さな差を縮めることができるはずだ。