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坂口健太郎が持つブレない信念 『イノセンス 冤罪弁護士』は弱者たちの声を掬い上げるドラマに

2019年02月24日 12:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 本格的にドラマの本筋が動き出した第4話から、1話ごとにインターバルを作ることなく時系列通り進行する『イノセンス 冤罪弁護士』(日本テレビ系)。その物語運びはあくまでも1話完結を主体としながら、毎話違ったテーマが語られ、それがメインストーリーにも対応するような形になっている。2月23日放送の第6話では、司法が下す判決の限界が描かれるなか、それでも一貫して「本当のこと」を追究する黒川拓(坂口健太郎)の姿から、「なぜ拓が冤罪事件に固執するのか」という理由とその重要性が垣間見える回となった。


参考:優しげな笑顔を浮かべる坂口健太郎


 今回、保駿堂法律事務所に持ち込まれたのは、事務所が顧問契約を結んでいる企業の社長からの弁護依頼。社長の息子である樽前裕也(須賀健太)にかけられた射殺事件の冤罪を晴らして欲しいとの依頼だった。拓たち刑事弁護チームがこれを引き受けたものの、状況証拠はバッチリと樽前にハマっており、接見での態度も極端に悪い。唯一、犯行時間には部屋にこもってベースを弾いていたというアリバイが使用人・有珠田(吹越満)から語られるものの、いつも騒音に悩まされているという近所には、そのベースの音は聞こえていなかったという。限りなく黒に近い樽前。そんななか、穂香(趣里)の息子・晴斗が誘拐されてしまい、その犯人である何者かから拓たちに本件の弁護を降りるよう、要求されてしまう。


 聡子(市川実日子)や秋保(藤木直人)、また事務所総出のチームプレーで事件の真相究明と誘拐された晴斗の捜索を続けるなか明らかになったのは、晴斗を誘拐した女性(山下容莉枝)と有珠田が元夫婦であり、ふたりの娘は大学時代に自殺をしているということだった。そして今回の事件は、その自殺の元凶となった樽前と殺害された新島彰への復讐によるものだったことが明らかに。司法では裁くことができなかった樽前と新島の悪行に涙を滲ませる拓だったが、それでも「本当のこと」を追い求める彼の“ブレない軸”が、どうしようもない現実のなかのわずかな光を手繰り寄せていく。


 今回の事件で真実が明らかになるきっかけとなった聴覚特性という要因。これは、低い周波数の音よりも高い周波数の音のほうが聞き取りやすいという人間の耳の性質のことなのだが、この「大きな音にかき消されてないがしろにされてしまう小さな音」というのは、そのまま冤罪事件を背負ってしまったものの苦しみの声にも当てはまるし、今回においては、娘を失いながらもどうすることもできなかった有珠田たち両親の苦悶にも合致する。これまでのストーリーでも描かれてきているように、マスコミによる報道や立場の大きさによって発言力が大きくなる人がいる一方で、その音に隠れてしまう弱者たちの小さな声がそこかしこに存在している。本作に顕著なのは、そうしたものたちの声を注意深く掬い上げようとしていることだ。時折感情を表に出しながらも、被告人のためでも正義のためでもなく、“本当のこと”を追究するために冤罪事件の弁護に挑む拓の一貫した姿勢は、彼らの抱えるあらゆる悲しみや呪いを浄化していく力を持っている。


 今回は、そんな拓の姿勢に追随するように、石和(赤楚衛二)や別府所長(杉本哲太)ら法務弁護担当の面々も積極的に関わりながら、チームプレーの色が強いストーリー展開になった。また、穂香の波乱万丈な人生なども語られるなかで、拓も自殺した被告人の幼馴染として「東央大学殺人事件」の悲しみを背負う人物のひとりであるということが明らかに。改めて、聡子や秋保、湯布院など、同じ過去を共有しながら、皆が違う立場でそれぞれの感情を抱いている彼らが、協力してひとつの事件に挑む姿には胸を打たれる。また、そこにある“救われなかった弱者たちの小さな声”に耳を傾けるのは、おそらく楓(川口春奈)の役目なのだろう。彼女の目線を共有しながら、後半戦も彼らの行く末を見守っていきたい。 (リアルサウンド編集部)