イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーのMotoGPコラム後編。2月6~8日にマレーシア・セパンで行われたMotoGPオフィシャルテストで見えたホンダとドゥカティの開発方針をオクスリーが分析する。
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2019年シーズン、ドゥカティのゼネラルマネージャー、ルイジ・ダリーニャと彼のエンジニアたちは、ドゥカティ・デスモセディチGPのコーナーリング時(主にコーナー進入時とコーナー中盤)の弱点をどのように減らすことができるだろう? おそらくは、トルクアーム(トルクロッド付きスイングアーム)が最初の問題を解決するために役立つだろう。
トルクアームは過去のグランプリシーンでも登場しており、開発しつくされている。ドゥカティのトルクアームは、トルクロッドがスイングアーム下部に取り付けられており、ライダーがブレーキをかけて前進する勢いを弱めると、リヤタイヤの接地面を増加させる。そのためライダーはバイクを止めるためにリヤブレーキを今まで以上に使うことができる。これはフロントグリップを欠いているミシュランタイヤの重要なアドバンテージだ。
トルクアームのメリットにより、ライダーはコーナリングのプロセスをより良い状態で始めることができるはずだ。
トルクアームを使用したデスモセディチGPは、2018年11月のスペイン・ヘレスで行われたオフィシャルテストで初登場した。ダニロ・ペトルッチはトルクロッドを装着したマシンで初日の最速ラップを記録している。このパーツが開発の初期段階にあったにも関わらずだ。2月にマレーシア・セパンで行われたオフィシャルテストの初日でもペトルッチはトルクアームをテストしたが、総合トップタイムを記録した最終日にはトルクアームは使用していなかった。
「新パーツには良い面と悪い面がある。セパンではヘレスの時より良くなかったね。だからまた試さなければならないだろう」とペトルッチは語った。
■コーナリング改善はシャシー面でも
ダリーニャはシャシーのたわみと重心がバイクを曲がらせるのに重要な助けになると考えている。セパンでは、アンドレア・ドヴィツィオーゾ、ペトルッチ、ジャック・ミラーの3人が最新フレームを試した。
テストしたフレームには、2018年に数人のライダーが使用してたカーボンファイバー製の補強パーツは使われていなかった。フレームは見た目では違いが見えないが、コーナー付近でバイクを曲がりやすくするための、ある部分の剛性に重要な違いがある。
ドヴィツィオーゾはセパンでもう1台の新たなシャシーを試した。コーナーをより速く通過できるよう設計されたものだが、思うように機能しなかったという。「コーナー中盤では、今も僕たちはもっと改善する必要がある」とドヴィツィオーゾは語った。ドゥカティのコーナー中盤でのコーナリング問題は解決するのが一層難しそうだ。
ペトルッチは、ドヴィツィオーゾを追尾することでコーナー中盤のスピードを改善しようとしていた。
「僕はアンドレアを追いかけたけど、とても多くのことを理解したよ」とペトルッチは付け加えた。
「もちろんライディングについて話すのは簡単だけど、アンドレアは単に僕にこう言ったんだ。バイクで曲がるには、スロットルを開ける前に待たなければならない、と。でもコンマ1秒単位で誰かを追いかけている時にそれは簡単なことではない。なぜなら、速さを出そうとする時には、ブレーキを1メートル遅くかけ、スロットルを1メートル早く開けるようにするものだからね」
■ドゥカティのさらなる技術アイデア
セパンテストではダリーニャが再び“技術アイデア”を仕掛けた。ドゥカティの最新型デスモセディチGPを近くで検分するとトップブリッジに追加されたパーツがあるのが分かる。トップブリッジの上にあるウイングのようなナットで固定されたデバイスは、油圧ケーブルを通じて何かに結合されている。
関係者の間で噂されている本命の説は、この仕掛けはホールショットデバイス(サスペンションを沈めたままにするパーツ)を制御するものということだ。ホールショットデバイスはすでにモトクロスやドラッグレースではよく見られている。この“技術アイデア”が「僕はプロのモトクロスライダーになる方がいい」と言っていたドヴィツィオーゾのアイデアかもしれないと誰に分かるだろう。彼はオフシーズン期間の大半をモトクロスレースを観たり、参加したりして過ごしているのだ。
ホールショットデバイスは主にリヤショックを軽減するだろう。そのため、ライダーがレーススタート時にスロットルを開けると、サスペションを縮ませるためのエネルギーが消費されず、すべてのエンジンパワーがバイクを前に進めるために使われる。だがデメリットとして、バイクがよりウィリーしやすくなるという影響がある。MotoGPの共通アンチ・ウィリーシステムは極めて基礎的なものであるため、ホールショットデバイスは効率的なのだろう。
このシステムはスタートして最初のコーナーに向かう時にバイクをより安定させる。毎回のギヤシフトの影響をさほど受けないからだ。通常、ホールショットデバイスはライダーがブレーキをかけると外れるが、どのように外れるかは不明だ。なぜなら、MotoGPではサスペンションコントロールは機械か油圧で行われなければならない。サスペンションに電子制御を使うことは禁じられているからだ。
ドゥカティのライダーたちはセパンでは多くのスタート練習を行ったが、全員が非常に印象深く見えた。迅速なスタートはMotoGPではかつてないほどに重要になっている。今ではバイクの性能は同等であり、オーバーテイクはより難しくなっているため、もし最初のコーナーで集団の先頭に出られれば、大きな一歩を進めたことになるからだ。
■ドゥカティの新技術は他メーカーも使用するか
セパンでドゥカティがデスモセディチGP19をピットレーンに送り出すたびに、ホンダ、スズキ、ヤマハのエンジニアたちがガレージから出てきて群れを作り、ダリーニャの最新“技術トリック”をチェックしようとしていた。これは目新しいことではない。ウイングレットのときも、トルクアームやその他のときも同じことが起きた。
こうした大半のデバイスは、効率的にボルト締めされた装備であり、ウイングのように簡単にコピーが可能なことだ。
もしトルクアームが継続して改善され、ドゥカティのライダーたちにブレーキング時のアドバンテージを与えるようなら、他のファクトリーチームが設計をコピーすることを避けられないのは確かだ。トルクアームの設計は1930年代、1960年代、1970年代のレースバイクから借用されたもので、それらのバイクには類似のトルクアームが使われていた。
ドゥカティのホールショットデバイスの場合も同様だ。もし3月10日のカタールですべてのデスモセディチGPが最初のコーナーへ至る競争に勝ったとしたら、まだ設計に取り組んでいないライバルのファクトリーチームは、確実に作業を始めることになるだろう。