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キスマイ 北山宏光、“愛情”を演技で表現 初主演作『トラさん』はあたたかな気持ちになれる良作に

2019年02月22日 13:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 Kis-My-Ft2 北山宏光の初主演映画『トラさん~僕が猫になったワケ~』が、2月15日に公開された。興行収入ランキングや観客動員数ランキングなどに挙がっていないものの、ネット上での評価は高い。ツイッターでも「いい映画」「泣けた」「また見に行きたい」「大満足」など、賞賛の声が多数見られる。


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 同作品は、漫画『トラさん』を実写映画化したもの。北山が演じるのは、売れない漫画家・高畑寿々男だ。妻・奈津子(多部未華子)がパートで稼いだお金をギャンブルに使い、お気楽な毎日を送っていた寿々男だが、ある日突然交通事故で死んでしまう。死んだ後に訪れた“あの世の関所”の裁判長(バカリズム)が、そんな寿々男にくだした判決は、「執行猶予1カ月、猫の姿で愚かな人生を挽回すること」というもの。トラ猫姿で奈津子と娘・実優(平澤宏々路)のもとに戻り、「トラさん」として飼われることになった寿々男。人生を挽回とはいうものの、言葉も通じない、思うように体も動かない寿々男は頭を悩ませつつ、奮闘していくというストーリーだ。


 北山初主演というトピックスも然ることながら、同作品が注目されている理由は「着ぐるみ」だろう。ストーリーの序盤に寿々男が死んで以降、北山はほとんど猫の着ぐるみを着て出演している。インパクトのある見た目のため話題になるのも納得だ。しかし、『トラさん~僕が猫になったワケ~』は“アイドル・北山宏光を愛でる映画”ではない。王道ながらも心温まるストーリー展開、実力ある俳優たちによる演技、ストーリーを盛り上げる主題歌……。良作と言えるファクターが充分に盛り込まれており、単なる“着ぐるみ映画”にとどまっていないのだ。


 中でも、特筆したいのは北山の演技。北山といえば、Kis-My-Ft2の中ではMCを務めるまとめ役だ。最近では『プレバト!!』(フジテレビ系)などバラエティ番組での活躍で、出演しているドラマは決して多くはないだろう。しかし、『トラさん~僕が猫になったワケ~』での演技は、実に素晴らしかった。例えば、映画の冒頭。パチンコにお金をつっこんだり、娘の授業参観で好き勝手振る舞ったりするダメっぷりはお見事。だが、家族にはきちんと愛情を示し、貧乏ながらも日々明るく生きようとする前向きさがある。この憎めなさや、飄々とした雰囲気をうまく作り上げた北山には脱帽だ。一方で、ストーリーの後半、裁判長へ熱く訴えかけるシーンでは一転して迫真の演技を見せている。そして、そこに一貫しているのは家族への愛情である。


 原作者の板羽皆は、「やんちゃな表情や憎みきれない可愛らしさ、だけど真っ直ぐなアツい所が寿々男に似ていると思いました。北山さんはとても楽しくて可愛くてかっこいい、同時に真面目で誠実さや品格があって、最初寿々男を演っていただくのに恐れ多かったんですが、北山さんご自身が寿々男だったらこうするだろう等考えてくださって(引用元:https://realsound.jp/movie/2019/02/post-314947.html)」と語っている。まさにその通りで、寿々男には北山らしさが存分に盛り込まれているのだ。


 「チャラい」と言われることが多い北山だが、実は寿々男と同じくメンバー想いな男。以前、『Myojo』(集英社)に掲載された10000字ロングインタビューの中で、「グループ内での役割を背負いすぎていないか」「孤独ではないのか」という問いにこう答えていたことがあった。


「自分のことはいちばん最後だから。背負わなきゃならない部分もあるかもしれない。でもそれはキスマイとして良いものを作るためだから。待っていてくれる仲間がいるから、孤独じゃない」


 グループのため、メンバーのために自分も努力する。このメンバー思いの気持ちは、寿々男の愛情深さにつながっているのではないだろうか。


 『トラさん~僕が猫になったワケ~』は、そんな北山の演技やキャラクターもしっかり伝わってくる、鑑賞後どこかあたたかなほっこりした気持ちになれる映画である。もし、「単なる着ぐるみの映画だ」と思っている方がいるなら、まずは一度鑑賞することをおすすめする。鑑賞せずに切り捨てるには、いささかもったいない作品なのだから。


(文=高橋梓)