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MotoGP:弱点を取り除くことに注力するホンダとドゥカティ。セパンで見えた両者の開発方針【前編】

2019年02月21日 18:21  AUTOSPORT web

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ホンダRC213V(上)とドゥカティ・デスモセディチGP19
イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーのMotoGPコラム。2月6~8日にマレーシア・セパンで行われたMotoGPオフィシャルテストで見えたホンダとドゥカティの開発方針をオクスリーが分析する。

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 ホンダとドゥカティは現在のMotoGPチャンピオン候補であり、2019年のタイトルを巡る戦いはこれまでにないほど厳しいものになることに疑いの余地はないだろう。

 ホンダRC213Vとドゥカティ・デスモセディチGPの両方にアドバンテージがあるが、それは双方に不利な点もあることを意味する。だが、今のMotoGPは激しい接戦となっており、チャンピオンシップを制覇したければ、不利な点をひとつでも持つ余裕はない。したがって、両ファクトリーがセパンで重点を置くのは、3月のシーズン開幕戦カタールGPに挑むにあたって、不利な点を取り除くことだろう。

 ドゥカティには大きなアドバンテージがあることはよく知られている。それはストレートでのスピードだ。2018年シーズンの全18戦のうち、14戦でデスモセディチGPは最速のトップスピードを記録した。一方、RC213Vが最速だったのはそのうちの4戦で、ヤマハYZR-M1が最速だったのは1戦のみだ。

 ドゥカティからホンダに移籍したホルヘ・ロレンソのおかげで、我々はデスモセディチGPの弱点を確認することができた。2018年、ロレンソは私にデスモセディチGP18は“ボートを漕ぐように”走らせなければならなかったと話した。コーナーを通過する際にバイクを正しい方向へ向けるために、リヤブレーキを使わなければならなかったのだ。

 2018年11月に初めてRC213Vを走らせたロレンソは、「このバイクの最大の強みとなる性質は、機敏性とコーナーエントリーにある」と語った。

 つまり、ホンダは2019年にはトップスピードをより向上させる必要がある。そして、ドゥカティはコーナリングと機敏性を向上させる必要があるということだ。

 ホンダとドゥカティの開発者たちは、こうした目標をどのように達成しようとするだろうか?

■RC213Vのトップスピードを上げることに注力するホンダ
 ホンダはRC213Vからより多くのパワーとトルクを引き出そうと、かつてないほどに懸命に取り組んでいる。

 ホンダ・レーシング(HRC)の経験豊富なエンジニアである国分信一は、両手でRC213Vがスリップストリームを使いドゥカティを抜く真似をし、「これが実際に起こることを夢見ています」と満面の微笑みを見せる。

「ホンダがマン島TTレースに初出場したときから、本田宗一郎は常に言っていました。エンジニアはライダーにより良いチャンスを与えるために、大きなパワーを生み出さなければならないと」

 ホンダが今もRC213Vのエンジンからさらに強大なパワーを引き出そうと思っていることは驚きかもしれない。このエンジンは7シーズン目に入ろうとしているのだ。

 だが実際、ホンダがエンジンのパワーを引き出そうとすることは完全に理にかなっている。なぜならホンダの90度V4エンジンは2016年と2017年に大幅に再設計されている。クランクシャフトの向きを変え、その後、点火構成をビッグバン式に切り替えた。技術的に劣る電子制御時代において、エンジンを使いやすくするためだ。

 2018年は、ホンダがパフォーマンス増強に焦点を置くことができた最初の年だった。HRCの桑田哲宏は、2018年に見せた改善は、これまでの数年に比べ“より大きなもの”であったと語っている。2018年9月の第14戦アラゴンGPで、最速スピードを記録したドゥカティの341km/hに対し、ホンダのトップスピードは339km/hと時速2km/hの差だった。2017年の時速4km/hの差から大幅に改善されている。

 2018年のオフシーズンテストとセパンテストでは、ホンダがインテークとエキゾーストに懸命に取り組んだことは明らかだ。空気をエンジンに取り込むほど、より燃焼させられる。エンジニアはエアインテークとエアボックスを、バイクの周辺部分に再設計が必要になる程度まで拡大した。燃料タンクカバー下のステアリングダンパーを動かしてスペースを作り、様々な電子制御ユニットを燃料タンクカバーの下からフレームの両側面に取り付けられた小さなカーボンファイバー製の箱に納めたのだ。

 また、マルク・マルケスと仲間のHRCライダーたちは、急進的な新型の空力パーツも試した。「今年の主な違いはエンジンだ」とマルケスは語っている。

「より大きなトップパワーと、速いトップスピードを期待している。でも当然のことながら、大きなパワーを得た途端に、コーナーを曲がるのがより難しくなる。だからコーナーでのトルクを調整しようとしている」

 バレンティーノ・ロッシ、マイケル・ドゥーハン、ワイン・ガードナーらのチーフエンジニアを務めてきたHRCのクルーチーフ、ジェレミー・バーゲスは、トップスピードは1周あたり1回しか出さないので、人々が考えるほど重要ではないと冗談を言っていたものだ。

 バーゲスはある程度は正しい。しかし、MotoGPの戦いは接戦になっており、オーバーテイクがより難しくなっているため、時速数km/hだけでも速ければ、レースにおいて重大な違いを生み出す。

 また、ホンダがドゥカティ打倒のためにトップスピードを探求することにはさらなる重要性がある。シャシーとサスペンション担当のエンジニアはこの数カ月、どうにかしてフロントタイヤにかかる圧力を減らそうと努力を重ねてきている。マルケスとRC213Vは誰よりもフロントタイヤに圧力をかけているからだ。

 そのためマルケスは一番硬いフロントスリックを使わざるを得ず、そのことが序盤の周回で、特にコース温度が低い時に問題やクラッシュの原因となっている。

 この領域でのシャシー作業の目的は、タイヤにかかる圧力を削減することにある。そうすればRC213Vのライダーは時にはレースでミディアムタイヤを使用することができ、一部のコースではアドバンテージを得ることができる。

 それは良いことだ。速いバイクはストレートで速いだけでなく、フロントタイヤへの圧力を減らす。ライダーは遅いタイミングでブレーキをかける必要がないからだ。また、コーナー進入時に極端にプッシュして、ストレートでドゥカティに対して失った数メートルを取り戻す必要もなくなる。

 ホンダがトップスピードの分野で成功すれば、マルケスとRC213Vを扱う他のライダーたちは、これまでにないほどに競争力を発揮できるだろう。

【後編へ続く】