F1バルセロナテスト3日目。初日に続いて2度目の走行を担当したダニール・クビアトが、終了直前に1分17秒704の総合トップタイムを叩き出した。直後にロマン・グロージャン(ハース)がこの日2度目の赤旗中断を作り出したこともあって、そのままトロロッソ・ホンダのトップタイムが確定した。2015年にF1復帰して以来、ホンダ製パワーユニット搭載マシンがウィンターテストで首位の座を占めるのは、これが初めてのことだった。
とはいえテストは始まったばかりであり、トロロッソを含めほとんどのチームのこの時点での目的は速さを競うことではない。クビアト自身、終了直後の囲み取材では、「総合トップに、さして意味はない。それよりわずか1周だけ、最多周回数がキミ(ライコネン/アルファロメオ)に及ばなかったことの方が悔しいよ」と、コメントしていた。
その後に話を聞いた田辺豊治テクニカルディレクターも、ほぼ同じ反応だった。
「今はできるだけ距離を稼いで、潜在的なトラブルを出しつくすことが重要ですから」
実際この日は、レッドブルに積んだパワーユニットにいくつか細かい初期トラブルが出た。それもあって(マックス)フェルスタッペンは予定していた周回数をこなすことはできなかったが、不具合はすぐに修正され、その後は順調に周回を重ねた。
「速さに振る方向の、フルパワーを絞り出すテストも今後は予定されてます。ただし今はまだ、他に確認すべきことが山ほどありますから」と田辺テクニカルディレクターは繰り返した。しかしすぐに、「まあそうは言っても」と言葉を継いだ。
「わざと燃料を軽くしたりとかで、無理やりひねくり出したタイムではないと聞いてます。一連の作業の過程で、スルッと出たんだと。その意味では、このトップタイムは素直に喜んでいいのかもしれません」
実際トロロッソのスタッフたちは、この日の結果に大いに盛り上がっていたという。
■2018年とは現場の空気が一変。ホンダF1との友好関係の証か
実は今回のテスト現場では、レッドブルもトロロッソも初日から何だかやけに雰囲気が明るいのである。田辺テクニカルディレクターもそれは感じているという。3日目からテスト現場に合流した山本雅史モータースポーツ部長も、「クリスチャン(ホーナー代表)に会ったら、いきなり満面の笑みで肩を抱かれて驚いた」と言っていた。
ヘルムート・マルコ博士も同様で、二人が並んで歩いているところに僕がすれ違った時も、揃って終始ニコニコしながら何かの話に興じていた。トスト代表に山本部長が会った時も、実に明るかったそうだ。ガレージ内のスタッフも、概ねそんな感じを受けたと、田辺テクニカルディレクターは言っていた。
それは、どこから来るものなのか。両チームともに、初日から順調に周回を重ねていることは、もちろんあるだろう。2日目にはマシン限界を探ろうとした(ピエール)ガスリーがクラッシュを喫したが、新車テストではありうることだ。唯一、リアからバリアに突っ込んだことでパワーユニットが損傷し交換を余儀なくされたことだけが、まあ想定外の事態といえた。しかしそれ以外は、両チームともにほぼ順調である。だが彼らの上機嫌は、おそらくそれだけでは説明できない。
ここからは推測でしかないが、たとえばレッドブルはこの5年間、本来ならパートナーとして協力し合う関係であるべきルノーと、ずっともめ続けていた。それがあまりに長期にわたったことで、現場はすっかり疲れてしまっていたのではないか。それがホンダとはかなり早い段階から友好的な関係を結べた。単純に、ホッとしているはずである。
さらに両チームに共通するのは、新車に対するポジティブな手応えであろう。テストでは何もわからない、というのはよく言われることである。確かにライバルチームとの相対的な差は、開幕するまでは本当のところはわからない。しかし自分たちの新車の、たとえば素性が良いか悪いかは、走らせてすぐの時点でわかってしまうはずだ。
テスト3日目を終えて上機嫌が続くレッドブルとトロロッソは、かなりの手応えを感じているということではないだろうか。