2019年02月21日 10:11 弁護士ドットコム
NHKで放送された「みんなで筋肉体操」に出演、そしてタンクトップに弁護士バッジをつけて紅白出場ーー。小林航太弁護士は2018年、法曹界でも唯一無二の存在となった。
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しかし、数年前はこんな自分の姿を想像もできなかったという。東京大学に現役合格したものの、燃え尽きて引きこもり2年留年。「24歳無職」を前に一念発起し、法科大学院を経て司法試験に一発合格した。
その勉強法を余すことなく解説した「東大卒筋肉弁護士のもう後がない状況でも確実に結果を出せる超効率勉強法」(主婦と生活社)が2019年2月22日、出版される。
目次には「勉強=筋トレ」「筋肉も脳も、すぐにバルクアップはしない」といった言葉が並ぶ。一瞬何の本なのか混乱しそうになるが、小林弁護士は「勉強と筋トレはとても似ている」と言う。
平日の仕事後、スーツ姿で颯爽と現れた小林航太弁護士。「今も日サロでたまに焼いている」という焼けた肌に白い歯をのぞかせながら、本に込めた思いを語ってもらった。
ーー今回出版されたのは勉強本ですが、すきあらば筋トレでの例え話が入ってきて、「全ての話を筋肉に置き換えられるのでは…?」と思うほどでした
勉強と筋トレはとてもよく似ています。やっただけ結果が出る。ただし正しい方法でやる必要があります。間違った努力は遠回りになってしまいます。
僕も以前から一緒だなと感じていたので、担当編集から話をもらった時はまさに「渡りに船」でした。
ーー勉強も筋トレも「才能は必要ない」って本当でしょうか
自分は、勉強にしろ、筋肉にしろ、才能がある方じゃないと思っています。筋肉のことで言えば、体は華奢で、筋肉がつきやすいタイプではありません。
でも、勉強も筋肉も、やるべきことは何か決まっているんです。
必要なことを満たせば、そこに突飛なものはいらない。司法試験であれば、満点を取る必要はない。当たり前のことを当たり前にやれば受かるんです。努力で、もって生まれた才能との差を埋めることができます。
ーー勉強は「努力で成功できる場所」だとも書いています
司法試験に合格して弁護士になることは、起死回生の一打だったんです。勉強以外では一発逆転ってなかなかできないことですよね。
条件としても、試験はフェアに点数だけ競ってパスできる。くすぶっていた自分が生き残る最後の手段はこれしかないと思っていました。
とか言いつつ、筋トレしていたので矛盾しているんですけど(笑)。
ーー3年履修の法科大学院入学後、筋トレを本格的にはじめ、丸3年間勉強と筋肉の両立をしていた
試験勉強と筋トレは相性がいいと思います。特に法科大学院に通って司法試験を受ける場合は、2~3年勉強するわけですから、長期スパンの戦いになります。勉強を始めた段階では、僕も気が遠くなるほどでした。
それに対して、筋トレは短期間でも目に見える結果が出る。勉強の方は先行きもわからない中、筋トレでの成功体験で、心の平静を保っていましたね。
ーー司法試験のために、左利きを右利きに変え、「親知らず」を全部抜いたそうですね
利き手まで変えたのは、今考えると頭おかしいですね(笑)。1分1秒を争う限られた試験時間の中で、万年筆だと力を入れずにサラサラ書けるんですよ。でも、万年筆のペン先は基本的に右利き用にできている。
歯も「試験当日に痛くなったらどうしよう」と思い、だったら時間に余裕あるうちに抜いちゃおうと。
ーー徹底的にやり切る強さを感じます
6年間大学でグダグダして、30歳間近の状況。あとがない感覚が強くありました。遠回りしたからこそ、この試験だけは1発で合格して、人生を挽回するしかないと思っていました。
だからこそ、どういうリスクを排除しなければならないのかを徹底的に考えていましたね。そこは、やはりストレートで来た他の弁護士志望の学生と目的意識が違ったのかな。
大学でくすぶっていた頃は、友達から「あいつ何やってるんだろ」という風に見られていたと思います。だからこそ、皆今の状況に驚いていますね。紅白で生存報告できたのでよかったです。
ーー晴れて弁護士になり、素晴らしい筋肉を持ちながらも「自信がないから筋トレを続けている」というのは驚きました
努力して手に入れられるものには、限界があると気づいています。勉強だってそうですけど、自分が努力して得られたものがこれだけでも、軽々超える人はたくさんいる。
僕は欲張りなんだと思います。勉強も筋肉も際限がないですからね。
「筋肉体操」のインタビューを受けた時に「今の自分に満足できないから筋トレをしている」と言ったのですが、出演者全員同じことを言っていたそうです(笑)。
筋トレにゴールはないですね。もっと鍛えたい。もっと大きくなりたい。
ーー今も弁護士と筋肉の両立をしているわけですが、ジムに行きたくないなぁという日はないんですか
仕事後に「今日はまっすぐ帰りたい」と思う日はありますよ。でも、事務所を出てジムの方に5分歩くと、元気になってくるんです(笑)。それでジムに着くとやる気満々。勉強もそうですが、習慣化することが大事ですね。
気乗りしない日も、やってみるといつも通りだったりします。第一、僕らは筋肉痛がないと不安になるんですよ。
今も夜に予定がなければ、ジムに行って1時間半トレーニングして帰りますね。今や体も商売道具の一つなので(笑)、手入れは欠かさずおこなっています。
ーー最近はジムでも声をかけられるようになったとか
ファンクラブができたそうです。年配の女性に「今8人いるのよー」って言われました(笑)。困った時には、弁護士としての自分を思い出して欲しいですね。
ーー弁護士といえばスーツですが、入所後からサイズは変わっていないんですか
今は取材で露出する機会があり太れないので、体型自体は72~73キロで安定しています。まだ筋肉を大きくしたいので、たくさん食べたいんですけどね。
スーツはセミオーダーで、今は肩幅や胸回りに合わせて作っています。ただ、調整できる範囲にも限度があるので、ウエストがダボダボなんです。大会に出る時期とオフシーズンとで体の変化も大きい。本当はフルオーダーで作りたいのですが、費用的にもなかなか勇気が出ないですね。 ーータンクトップでは、ダメなのでしょうか。
弁護士は法廷でスーツを着ていますが、本人訴訟ではジャージで来ている人もいます。女性のノースリーブもよく見かけます。タンクトップとの境目は何だろう、男性のタンクトップはダメなのだろうかと考えます。
最近は取材を受けるタンクトップの時も、バッジをつけています。ボスがどういうかまだわかりませんが、了承を得たら、夏はタンクトップで法廷に立ちたいですね(笑)。
ーー減量時でバキバキの時は、別人のようですごいですね
大会が近づくにつれ、水分も抜いているので、目もくぼんで顔がこけて行くんです。去年の5月くらいは死にかけていました。
事務局(事務員)にも「死ぬんではないか」と心配されましたね。蚊の鳴くような声で「これFAXしといてください」とか指示していたんです。久しぶりにあったお客さんにも「どうしちゃったんですか」と爆笑されました。
去年一番仕上がってたきの写真置いときますね。 pic.twitter.com/o4zchqUqPi
今もたまに日サロに行って、多少肌を黒くしています。「筋肉体操」の3人の中で、色でわかりやすくしようと思って、カラーリングを意識しています(笑)
ーー筋肉が仕事に役に立ったことはありますか
1回だけあるんですよ。土地の明渡しで駐車場から車を撤去する時に、相手方が車を出そうとしたら、エンジンがかからなかったんです。その時に「先生ガタイがいいから、ちょっと手伝ってくださいよ!」と言われて、スーツ姿で後ろからガンガン押しました。
筋肉が物理的に役立った瞬間でしたね。
ーー法曹の間でも小林弁護士の活躍は注目されていますね
好意的に受け止めてもらっていますね。叩いたら筋肉に弾かれそうだからですかね(笑)。
裁判官からは「筋肉体操見ましたよ~。小林先生は裏切らない」と言われました。その裁判官がいる部では書記官も含めて、皆で「筋肉体操」をみてくれているそうです。
ーーこれだけの知名度を活かして、これからやりたいことはありますか
今うまく活かせていないので、考えなきゃなと思っています。今のところ本業につながっていない。黙々と筋トレしてるだけの弁護士をみて、「この人に頼もう」という発想になる人はなかなかいないですよね(笑)。
とは言っても、まだ事務所の事件で手いっぱいで、個人事件を増やすまでの余裕はまだないので、考え中です。「弁護士×筋肉」という分野は、先人がいない。僕自身もどこに行くのかわかっていないし、楽しみなところです。
もちろん筋肉は、まだまだです。全身余すとこなく大きくしたいです。伸び代しかありませんよ。
【プロフィール】 小林航太(こばやし・こうた)。1988年、横浜市生まれ 。東京大学法学部、首都大学東京法科大学院(3年履修課程)を経て、2017年弁護士登録。小嶋総合法律事務所(横浜市)に所属し、不動産や相続などの分野を取り扱っている。紅白に出場した初の弁護士。
(弁護士ドットコムニュース)