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iri、伊原六花、夏木マリなどプロデュース 今、大沢伸一が再注目されている理由

2019年02月20日 12:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 音楽家/プロデューサーの大沢伸一が、再び大きな脚光を浴びている。


(関連:【写真】大沢伸一が明かす、MONDO GROSSO新作にも繋がった“ニューウェーブからの影響”


 歌手で女優の夏木マリが、1月26日に配信リリースした新作EP『Co・ro・na / 私を生きて』では、谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)の作詞による「Co・ro・na」と、UAが作詞を手掛けた「私を生きて」の作曲を担当。“バブリーダンス”でおなじみの大阪府立高校ダンス部元キャプテンで、昨年2月からセンチュリー21のイメージキャラクター“センチュリー21 ガール”を務める女優の伊原六花が、1月30日に配信リリースしたセンチュリー21の新CM曲「Wingbeats」でも作曲を手がけた。さらに、3月6日にリリースされるiriの3rdアルバム『Shade』では、タイトル曲「Shade」をプロデュースするなど、今年に入ってからも止まるところを知らない勢いだ。


 きっかけとなったのは2017年、彼のライフワークであるソロプロジェクトMONDO GROSSOによる最新作『何度でも新しく生まれる』がリリースされたことだろう。前作『NEXT WAVE』から実に14年ぶり、通算6枚目となるこのアルバムは、全曲日本語詞のボーカル曲というMONDO GROSSOとしては初の試みがなされており、彼の朋友であるbirdやUAに加え、満島ひかりや齋藤飛鳥(乃木坂46)、やくしまるえつこといった意外なコラボ曲も含まれ話題となった。特に、満島ひかりをフィーチャーした楽曲「ラビリンス」は、香港で撮影された幻想的なMVと共に、シーンに鮮烈な印象を与えたのは記憶に新しい(ダンス監修は、映画『ラ・ラ・ランド』の振付補を務め、キャストとしても出演していた世界的ダンサー、ジリアン・メイヤーズ)。それぞれ強烈な個性を放つシンガーたちの魅力を最大限に引き出しつつ、1枚のアルバムとしてまとめ上げた大沢のコンポーザー/プロデューサーとしての手腕が、このアルバムを機に彼のファンはもちろん、それ以外の層にも広く知れ渡ったのは間違いない。


 また、ここ数年続いている「90年代ブーム」とも呼ぶべき状況も、彼への新たな評価を後押ししているだろう。Suchmosを筆頭に、SANABAGUN.やKANDYTOWN、Nulbarichといった次世代シーンを担うアーティストたちは、ロバート・グラスパーやクリス・デイヴら同世代のトレンドとリンクしつつ、アシッドジャズや90年代ヒップホップ~R&Bあたりをルーツとしており、彼らをきっかけに「大沢伸一」を知った若い世代も少なくないはずだ。


 1991年にソウル、ジャズ、ファンク、ヒップホップやブラジリアンを融合したバンドMONDO GROSSOを結成し、沖野修也(Kyoto Jazz Massive)らと共に京都発のクラブシーンを支えた大沢は、1993年のメジャーデビューと同時に上京。バンドとしての活動と並行し、様々なアーティストやシンガーへの楽曲提供/プロデュースを積極的に行うようになる。彼の名を知らなくとも、例えばUAの「リズム」(1996年『11』収録)や、Charaの「Junior Sweet」(1997年同名アルバム収録)、birdの同名デビューアルバム(1999年)は知っているという人も多いはず。当時の最先端をいくクラブミュージックのエッセンスを取り入れつつも、幅広いオーディエンスにアピールするポップセンスはこの頃から確立されており、上述したアーティストたちに多大なる影響を与えたことは間違いない。


 また、大沢をはじめとする90年代サウンドの「洗礼」を浴びた世代が、現在レコード会社のディレクターやA&R、もしくはプロデューサーといった立場になり、メインストリームを支えていることが、「90年代ブーム」の一端を担っているともいわれている。例えばアイドルグループである私立恵比寿中学への楽曲提供(2016年「summer dejavu」)や、アイドルデュオFaint★Starのアレンジ~リミックス(2015年「スライ」)などのワークスは、そうした流れで実現したのかもしれない。いずれにせよ(繰り返しになるが)どんなタイプのシンガーであろうとも、その個性を活かしながら“大沢ブランド”とも言うべきサウンドに仕上げてしまうのである。


 他にも浜崎あゆみやCrystal Kay、Monday満ちる、wyolica、中島美嘉……等々、様々なシンガーたちと数多くの名曲を生み出してきた大沢。25年以上にもわたり多くのディーヴァを見出し、その才能を羽ばたかせた能力は一体どこから来ているのだろうか。以前、彼に取材した時にそう質問したところ、こんな答えが返ってきた。


「ディーヴァを見出す能力ですか? そんなのないです(笑)。たまたまなんですよ。能力というか……やっぱり僕自身の強い思い入れじゃないかな。(特にbirdは)僕の「代わりの声」みたいな思いでプロデュースしていますからね」


「birdのときのように「自分自身の代弁者」という意識はないですけど、自分の引き出しのなかにあるものを使うという意味では、やっていることは何も変わらないんですよ。そこは安室奈美恵ちゃんも、birdも同じ。一方でコマーシャルなことをやったつもりもなければ、もう一方でアンダーグラウンドなことをやったつもりもないです。僕がやりたい音楽をやっているだけ」(参照:https://www.cinra.net/interview/otoheya/vol34-mondogrosso)


 また彼は、曲を作る上で「自分らしさ」といったものへのこだわりは一切ないとも話していた。


「結局、「個性」みたいなものって残そうとして残るものではなく、むしろ変えようとしても消えないもの、変わらないものなのだと思うんです」(参照:https://www.cinra.net/interview/otoheya/vol34-mondogrosso)


 自らの「快感原則」に従いながら、その時に作りたい音楽を、作りたいように作る。その結果、誰にも真似できない「大沢伸一ブランド」になっているということなのだろう。(黒田隆憲)