前回の記事で内発的動機付けを可能にする"サークル型組織"を作るための前編として、組織の目的、目標を身近に感じるために、2~3年後の組織の"ありたい姿"を作るといったことをお伝えしてまいりました。
今回はもう一つのポイントである"個々の尊重"についてお話を進めてまいります。(文:働きがい創造研究所社長 田岡英明)
個々の尊重の為に知っておくべき3つのポイント
内発的動機付けを部下に持たせるためには、部下が携わっている仕事に対して自ら"やりたい!"と思ってもらわなければなりません。管理職の皆さん自身が仕事の中で"やりたい!"と思う一瞬はどのような時でしょうか?
・「この仕事が世の中の役に立っている!」と実感したとき。
・仕事をしている中で、お客様から感謝の言葉を頂いたとき。
・この仕事をしっかりやり遂げることが出来るし、ある程度自分の裁量に任せられているとき
など、いろいろあるかと思います。
我々が"やりたい!"といった内発的な動機を感じるとき、それは自身のアイデンティティとの繋がりを感じた時です。ではアイデンティティは何で構成されるかといいますと、キャリア理論の中では以下の3つとされることがあります。
(1)自身の価値観
(2)自身の能力
(3)自身の興味
一つ目の「自身の価値観」とは、仕事で大切にしていることです。仕事から得たい何かです。例えば、「お金」「成長」「達成感」「つながり」「愛」といったものです。この自分が大切にしている価値観を仕事の中で感じることができると、人はモチベーションを向上させていきます。
二つ目の「自身の能力」とは、自分ができる事です。自身の強みや持っているスキルだったり、これまでの経験の中で獲得してきた何かです。例えば、「人とのコミュニケーションが上手」「パソコンスキルがある」「プレゼンテーションがうまい」「交渉力がある」「運動能力にたけている」といったものです。この能力といったものは、仕事の中で自分で「できる!」といった感情に繋がり、モチベーションを向上させていきます。
三つめの「自身の興味」は、読んで字のごとく何に興味があるのかです。「政治に興味がある」「教育に興味がある」「スポーツに興味がある」などですね。この興味のあることに仕事が紐づいていると、やはりモチベーションを向上させていくことが出来ます。
仕事の中で部下自身のアイデンティティを再認識させていく
内発的動機付けを可能にするためには管理職として部下に、自身のアイデンティティと仕事の繋がりを感じさせていく必要があります。仕事をしていく中で、自分の大切にしている価値観を感じ、自分でできると思い、仕事にワクワクする状況を作っていくのです。すべての項目を感じる必要はありません。どれか一つでも感じることが出来れば、部下のモチベーションは向上していきます。その効果の順番としては、価値観>能力>興味と私は捉えています。
部下自身がアイデンティティを感じる為には2つのアプローチが必要です。一つは部下自身が自分のアイデンティティを振り返り自己受容していくこと。もう一つは管理職の関わりにより部下自身のアイデンティティの自己受容を高める事です。
日本人は控えめな性格も影響して自己受容が苦手な人が多く、管理職の関わりにより自己受容を支援していくことが非常に大切です。
では具体的に何をやっていけばいいのでしょうか? 部下自身がアイデンティティを振り返るためには、そのような時間を研修や会議の中でとっていくことをお勧めします。人はつい惰性で仕事をこなすようになってしまいますので、定期的に時間を取っていきましょう。
管理職の関わりの中で部下自身のアイデンティティの自己受容を高めるためには、いわゆる"承認"といったものが効果を発揮していきます。"承認"とは「褒める」「叱る」「労う」といったものです。この"承認"に関しては、別途詳しく記事でご説明してきたいと思います。
以上、部下の内発的な動機付けのために管理職に知っておいていただきたい3つのポイントと2つのアプローチについてでした。管理職としてはこの内発的動機付けのポイントである部下自身のアイデンティティを前編で説明した"2~3年後の組織のありたい姿"に向かう中で感じさせてあげる関わりをしていくのです。頑張ってください!
【著者プロフィール】田岡 英明
働きがい創造研究所 取締役社長/Feel Works エグゼクティブコンサルタント
1968年、東京都出身。1992年に山之内製薬(現在のアステラス製薬)入社。全社最年少のリーダーとして年上から女性まで多様な部下のマネジメントに携わる。傾聴面談を主体としたマネジメント手法により、組織の成果拡大を達成する。2014年に株式会社FeelWorks入社し、企業の管理職向けのマネジメント研修や、若手・中堅向けのマインドアップ研修などに携わる。2017年に株式会社働きがい創造研究所を設立し、取締役社長に就任。