2019年02月20日 06:11 リアルサウンド
ドラマは視聴率が全てではないけれど、数字を見て気づくこともある。2010年代、女性が主人公の連続ドラマで最高視聴率を取ったのは『家政婦のミタ』(日本テレビ系)。松嶋菜々子演じる“笑わない”家政婦・三田が、母親を亡くした一家に住み込み、家事そのほかをバリバリこなしていく物語だった。また、第5期まで年間トップの視聴率を獲得しているのは『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)シリーズ。神業のような手術の腕をもつ未知子(米倉涼子)が、大学病院の医師たちを差し置いて難しい手術を成功させる。その痛快さで人気を得た。そして、現在は『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ系)が1月クール最大のヒットに。これは2016年に放送された『家売るオンナ』の続編で、その成功により間違いなく主演の北川景子にとっての代表作となり、シリーズとしても今後、『ドクターX』になりえるポテンシャルを秘めている。
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『家政婦のミタ』の三田と『ドクターX』の未知子、そして『家売るオンナの逆襲』の万智に共通するのは、めっぽう仕事ができるが、いっさい妥協をせず、他人の言うことを聞かず、ほとんど感情を見せないということ。ドジで未熟だけど夢に向かって頑張り泣き笑いする朝ドラのような従来型ヒロインとは正反対で、まるでロボットのよう。つまり、ヒットする女性のドラマはどれもこのタイプになってきている!?
だが、三田が最後に自分の悲しい過去を打ち明け、未知子が麻雀をしたり卓球に興じたりして人間らしい面を見せるのに対し、万智の私生活は描かれない。上司の屋代(仲村トオル)と結婚したが、万智は仕事で外泊するときも世界の名物料理を作り、屋代が食べられるように用意しておくらしい。まさに死角なしのパーフェクト・ヒューマン。高性能のAIを搭載したサイボーグのような妻なのである。
2018年も7月クールでは『義母と娘のブルース』(TBS系)で綾瀬はるかが演じた亜希子がロボットのようだった。大企業に勤め、そこで30代にして営業部長となったというスーパーキャリアウーマンで、仕事のためなら土下座も腹踊りの芸も厭わない。結婚相手の連れ子に会うときもまず名刺を差し出すというビジネスライクな言動がホームドラマとしては異色だった。10月クール『忘却のサチコ』(テレビ東京系)で高畑充希が演じたサチコもこのカテゴリーに入る。サチコは書籍編集者で、職場では椅子の上に正座し、おじぎの角度もぴったり直角。そんなサイボーグのような彼女が結婚式当日に花婿失踪という致命的なエラーを経験し、そこから心のダメージを回復させていくさまが描かれていた。
なぜロボット型ヒロインが受けるのか? と考えてみると、まず「笑いを取りやすい」キャラクター造形だということが挙げられる。『家売るオンナの逆襲』では万智が部下たちに「ゴー!」と号令をかけるスパルタぶりが笑えるし、それで周囲から恐れられたり呆れられたりという笑いの構図もできる。ロボット型ということはリアルに考えれば“コミュ障”で、相手にとってはスマートスピーカーと会話しているよう。万智の夫・屋代も「どうも話がうまく伝わらないなぁ」と首をひねるほどだから、そこにもおかしみが生まれる。
また「ロボットみたいに感情のない人だと思ったら、実は良い人だった」という意外性で、見る人の心をつかむこともできる。『ドクターX』は未知子が難病の少女を救おうとしたり、親しい人の手術を控え自信を失くしたりという展開でぐっとドラマを盛り上げたし、『義母と娘のブルース』でも、亜希子が夫の葬儀で初めて涙を見せて泣き崩れるという展開が感動を呼んだ。初期設定が無機質だからこそ、「このヒロインも人間だったんだなぁ」と驚きを与え、そのギャップによって、普通に人間味のある女性が泣くよりもずっと感動的に描けるのだ。
そして、少しうがった見方になるが、ロボット型ヒロインのドラマが見やすいのは、成人女性でありながら「性」の要素が排除されるからではないかとも考えられる。男の部下に腹踊りの模様を書かせても平気な『義母と娘のブルース』の亜希子もそうで、彼女は佐藤健演じる年下のイケメンからの告白を受け入れなかった。『ドクターX』でも未知子の恋愛要素は描かれなかった。『家政婦のミタ』の三田には結婚にまつわるちょっとありえないぐらい壮絶な過去があり、もう男なんてこりごりという感じだった。
逆に今、成熟した女性は多くの人の共感を呼びにくい。例えば『獣になれない私たち』(日本テレビ系)のヒロインは彼氏と「やってます」と明言し、別れた後、もうひとりの男ともそういう関係になり、アラサーの恋愛事情としてはリアルだったと思うが、ヒットはしなかった。『中学聖日記』(TBS系)で吉田羊が演じた原口は、自己責任で恋愛を楽しむ海外ドラマに出てくるような女性だったが、こちらも数字としては振るわなかった。もしかすると、日本の視聴者はドラマでリアルな恋愛なんて見たくなくて、むしろロボット型ヒロインを見ている方が安心できるのかもしれない。
しかし、ここにきて意外な展開を見せているのが『家売るオンナの逆襲』の万智である。初回から無表情のまま夫の屋代に「課長、今夜は燃えましょう!」と宣言する場面が描かれ、屋代も万智との性交渉があることを告白。ここはさすが『セカンドバージン』(NHK)、『セカンド・ラブ』(テレビ朝日系)、『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)などで性愛を描いてきた大石静脚本。他のロボット型ヒロインがその問題を避ける中、「当然あるでしょ」と言わんばかりに性欲という要素をプラスしてきた。さらに、万智が意外にも小学生時代は「ひょうきん者のマンチッチ」と呼ばれていた過去も明らかになり、屋代が万智とは正反対の人間味あふれる女性・三郷(真飛聖)と急接近したことでも動きがありそう。果たして万智は夫に対して弱みを見せ、心を開くのか? ロボットから本来の性質であるひょうきん者への回帰があるのか? そしてロボットではなくなるのか。前クール『大恋愛~僕を忘れる君と』でも難病ものという敬遠されがちな悲劇を明るさとユーモアを交えて描き、視聴者を惹きつけることに成功した大石だけに、そこの決着をどうつけるのかが楽しみだ。(小田慶子)