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“2019年はGovTech元年” 神戸市が「GovTechサミット」開催 テクノロジーを活用して市民サービスをより良いものに

2019年02月18日 15:42  Techinsight Japan

Techinsight Japan

「GovTechサミット」にて講演したIT批評家・尾原和啓氏
「GovTech(ガブテック)」という言葉をご存知だろうか。政府(Government)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、「政府・自治が市民サービスをより良いものにしていくため、テクノロジーの力を活用する取り組み」のこと。近年海外でも使われている言葉だが、日本ではまだ馴染みがないようだ。この「GovTech」をテーマに、神戸市が2月10日に東京・丸の内SMBC ホールにて「GovTechサミット」を開催した。地方自治体が、GovTechをテーマにしたイベントを開催するのは全国初となる。イベントではテクノロジーを活用することで人々の生活がより豊かになる可能性について探るなど、GovTechの未来を感じられる内容となった。

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神戸市副市長・寺崎秀俊氏による開催の挨拶の後に登壇したのは、IT批評家・尾原和啓氏だ。「GovTechという緩やかな革命-テクノロジーを手に、誰もが参加できる行政の仕組み」をテーマに講演を行った尾原氏は「阪神・淡路大震災の際にボランティアとして参加し、インターネットが浸透していなかった当時、アナログで分散していた避難所の情報を集約した経験から、“人と人を繋ぐ仕組み”、ハブとなるプラットフォームの重要性を実感した」と自身の体験を交えて話した。また「東日本大震災では、掲示板の消息情報が画像やテキストのデータとして出回ったことで、多くの人が消息情報を得られたり、GoogleがGoogleマップ上に封鎖された道の情報を反映させたことで、多くの人が避難物資を届けられたりした。その様子を目の当たりにし、“仕組み”が人の笑顔を作ることに気づいたことが私のGovTechの原体験です」と熱く語った。


また、尾原氏は「GovTechの実現には、市民一人一人が参画しデータを集約していく“互助(Civictech)”や“共助(Local GovTech)”の力が重要となるが、日本では依然として政府・行政による“公助(Country GovTech)”の力が大きく、人々が距離を置いて他人事化してしまう構造が存在する。今後は、“互助(Civictech)”と“共助(Local GovTech)”との領域を両方拡大させていく構造が必要になる」と日本の課題を指摘した。


神戸市は、スタートアップ・ベンチャー企業と行政職員が一緒に、社会・地域課題を解決するサービス開発を目指す「Urban Innovation KOBE」を2017年にスタートさせた。イベントではこの事例も紹介した。たとえば、ためま株式会社は「ためまっぷ」というスマートフォンのGPS機能を活用した「今日、今からでも参加できるイベント情報を5秒で検索できる」サービスを提供している。誰もがイベントのチラシなどをWeb上で閲覧できるようにすることで、神戸市内の地域のイベントを盛り上げる役割を担った。実際に子育てイベント参加者が急増したそうだ。同社とともに「ためまっぷ」の開発に取り組んだ神戸市長田区係長・真柴由美氏は「まちづくりの主役は、行政ではなく市民であることを教わった。官民一体となって、同じ方向を向いて取り組めたことが成功に繋がったと思う」と振り返った。また神戸市内にある複数のバス会社の運行情報のオープン化に取り組んだ株式会社トラフィックブレイン代表取締役社長・太田恒平氏は、今回の経験を踏まえて「行政の決定権を持つ人に直接話を持っていける仕組みが当たり前になれば、より効率的に開発を進めていけると思う」と具体的な改善策を提案した。


他にも「スタートアップコミュニティから見る自治体の意味」をテーマにしたパネルディスカッションでは、登壇者が口を揃えて「縦割り行政の在り方が、プロジェクトが効率良く展開しない原因だ」と鋭く指摘し、「行政には“横の繋がり”が必要」と話す場面があった。それに応えるかのように、イベントの最後に神戸市副市長・寺崎秀俊氏が、行政の縦割りの改善を目的とする組織“つなぐ課”の設立を明言すると、会場からは大きな拍手が巻き起った。「“つなぐ課”はありとあらゆるものをつなぐ。スタートアップだけではなく、いろいろな課題と向き合っていく」と意気込みを述べた。


イベント参加費は無料で、女性の来場者も多かったが、来場者同士の自己紹介タイムなど参加型のコンテンツも尾原氏が用意。行政やスタートアップなどに関わる来場者がその日のうちに繋がりを増やし、有益な情報交換を行えるよう工夫されていた。さらに音声認識によって登壇者の話した内容をリアルタイムで字幕化する「UDトーク」を導入、会場では字幕をプロジェクターで投影し、聴覚障害のある方でもイベントを楽しめた。


2019年をGovTech元年と位置づけ、大きな飛躍を目指している神戸市。2020年に向けて「若者に選ばれるまち+誰もが活躍するまち」をテーマに、若者を中心にスタートアップを考える方々を支援する施策に取り組んでいる。



(TechinsightJapan編集部 高沢みはる)