2019年02月18日 13:01 弁護士ドットコム
自身のウェブサイト上に他人のパソコンのCPU(処理装置)を使って仮想通貨をマイニングする「Coinhive(コインハイブ)」を保管したなどとして、不正指令電磁的記録保管の罪に問われたウェブデザイナーの男性(31)の論告求刑公判が2019年2月18日、横浜地裁(本間敏広裁判長)であった。検察側は罰金10万円を求刑した。
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弁護側は「コインハイブは不正指令電磁的記録に当たらない」と改めて無罪を主張した。
最終意見陳述で男性は「これからのIT業界やインターネットに深刻な影響を与える問題。(コインハイブは)どうしたら利用者にとってより良い体験を提供できるか模索する中でやったもの」と話した。
公判は結審し、判決は3月27日に言い渡される。
不正指令電磁的記録保管の罪は、
・正当な理由がないのに
・人の電子計算機における実行の用に供する目的で
・人が電子計算機を使用するに際して、その意図にそうべき動作をさせず、またはその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録その他の記録を
・保管した
場合に成立する。
検察側は論告で、まず、コインハイブは(1)意図に反しており(反意図性)(2)不正であるため、不正指令電磁的記録にあたると主張した。
男性がコインハイブを設置した自身のサイトには、マイニングに関する記事もなく、マイニングについて同意を得る仕様にもなっていなかったため、「閲覧者はマイニングされていることに気づかなかった」と指摘。
その結果、「閲覧者のCPUを20%使用し、PCが遅くなったり、ファンが動いたり、消費電力が7Wから17Wに上昇するなど影響を与えた」とし、「一方的に負担を強いられ、常識に照らして閲覧者の意図に反している」と述べた。
弁護側の「JavaScriptで同意を得る慣行はなく、同意が推定されていた」という主張については、「プログラムの内容によるもので、JavaScriptだから同意が推定されていたとはならない」と反論した。
次に、不正性については、「マイニングが社会的に知られておらず、社会的に合意がなかったことは明らか」と指摘。弁護側の「PCを破壊するなどということはなく、社会的に許容されていた」という主張については「CPUを消費するなど広い意味での実害が生じていないとは言えない」と反論した。
「JavaScriptの表示は拒否設定できる」という弁護側の主張については、そもそもマイニングされていることに気づかず、JavaScriptを拒否する設定さえできなかったため、「不正指令電磁的記録でないことにはならない」と指摘。
裁判所などのサイトでもJavaScriptが使用されているが、「閲覧者が求めている情報を載せているに過ぎず、男性のサイトと事情は異なる」とした。
弁護側の「広告に変わる収支になる」という主張については、社会的に許容されている広告と違い、コインハイブは知られていなかったとし、「犯罪の成立が否定される根拠にはならない」と述べた。
加えて、不正指令電磁的記録保管の罪は、故意および実行の用に供する目的、それぞれがなければ罪が成立しないが、検察側はそれぞれあったと主張した。
まず、故意については、わいせつ物頒布等の罪が成立するのに、刑法上の「わいせつ」に当たるという認識までは必要ないという事例を挙げ、「(同罪も)男性の違法の認識までは不要」と主張。
男性がコインハイブを知るきっかけになったウェブサイト記事でコインハイブについて賛否両論の意見が示されていたことや、ツイッターでユーザーから「グレーではないか」と指摘を受けたことなどから、「未必的には故意を認識していた」とした。
次に、「実行の用に供する目的」については、利用者が実行しようとする意思がないのに実行され得る状態に置くことだと説明し、「閲覧者がマイニングする意思がないことは明らかだった」と述べた。
最後に、男性が結局マイニングで得られた報酬を受け取っていないことや、ユーザーから指摘を受けた後最終的にプログラムを消したという事情を認める一方、「気づかない形で保管していたのは巧妙で悪質であり、動機も経済的利益を得るためと身勝手。反省の態度は希薄で、再犯の可能性がある」とした。
弁護側は、まず(1)意図に反しており(反意図性)の部分について、「検察側が一般的な閲覧者の認識について調べたものは一切見当たらない」と検察側の立証が不十分であると指摘。
「閲覧者は自分のブラウザ上でJavaScriptが実行されていることについて、あらかじめ承諾を与えていると考えるのが自然で、コインハイブだけが特別の例外だとする理由はない」と述べた。
次に、(2)不正性については、どのような条件を満たしたプログラムが不正なのか明らかにされておらず、「基準が明らかでない以上事実認定をしようがない」と指摘。
証拠調べでは、男性が設定していたCPU使用率50%ではなくCPU使用率100%で実験を行なっていたことが明らかになり、「裁判所に対して虚偽の悪印象を植え付けようという悪意に出たもの」と批判した。
仮にコインハイブが(1)意図に反しており(反意図性)(2)不正である、という2つの要件を満たして、不正指令電磁的記録にあたるとしても、男性に故意および実行の用に供する目的はなかったと主張した。
いわゆる「サイバー刑法」(情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律)が成立した際の附帯決議で、「実行の用に供する目的」とは「不正指令電磁的記録であることを認識認容しつつ実行する目的」とされていると指摘。
また、男性が当時コインハイブを設置した際には、閲覧者の承諾を得る機能が実装されていなかったことにも言及。
加えて、コインハイブの公式サイトにも承諾に関する記載はなかったこと、男性がCPU使用率について負荷をかけないよう配慮し、ツイッターでの指摘に対しても「個人的にグレーとの認識はありません」と答えていたことなどから、「自分の設置したコインハイブは閲覧者の意図に反する不正なものと認識していたとは到底言えない」とし、無罪判決を求めた。
最終意見陳述で男性は「少なくとも私やコインハイブを試した方の多くは、利用者を不幸にするためではなく、どうしたら利用者にとってより良い体験を提供できるか模索する中で悩んだ末でコインハイブを選択した」と説明。
「この選択が間違いでも、利用者を考えて行動に移せたことは、一人のものづくりに携わるものとして誇りに思うし、胸を張りたい思いです」と話し、慎重な判断を求めた。
※検察側の故意に関する主張について、一部修正をしました(2月19日午後)。
(弁護士ドットコムニュース)