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「進撃」「カバネリ」WIT STUDIO取締役が明かす、ハイクオリティなアニメをつくり続ける秘訣【インタビュー】

2019年02月16日 19:22  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

WIT STUDIOインタビュー
アニメサイト連合企画
「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」
Vol.12 WIT STUDIO

世界からの注目が今まで以上に高まっている日本アニメ。実際に制作しているアニメスタジオに、制作へ懸ける思いやアニメ制作の裏話を含めたインタビューを敢行しました。アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」、Facebook2,000万人登録「Tokyo Otaku Mode」、中国語圏大手の「Bahamut」など、世界中のアニメニュースサイトが連携した大型企画になります。

WIT STUDIO代表作:進撃の巨人、終わりのセラフ、甲鉄城のカバネリ、魔法使いの嫁、恋は雨上がりのように、屍者の帝国

東京都武蔵野市にあるWIT STUDIO本社スタジオ



2012年に設立されたWIT STUDIO。
わずか7年で、立て続けに話題作を手がける新進気鋭のスタジオだ。

アニメーション表現で、受け手の想像を超える映像を生み出し、未体験の感動を提供するというヴィジョンを掲げるWIT STUDIO。その共同創業者/取締役である中武哲也氏に話を伺った。
[取材・構成=Tokyo Otaku Mode]

WIT STUDIO共同創業者/取締役の中武哲也氏

■スタジオ設立における最大のファインプレー
写真左からWIT STUDIO浅野恭司氏、和田丈嗣氏、中武哲也氏
――まずはWIT STUDIOのきっかけに関して、お話しいただけないでしょうか。

中武哲也氏(以下、中武)
当時、僕が所属していた Production I.Gでは、基本はフリーのスタッフを集めるところから仕事が始まります。『シュヴァリエ』からWIT STUDIOの作画の要の千葉崇明さん、手塚響平さん、デザイナーの尾崎智美さん。続いて『戦国BASARA』がヒットして、『君に届け』もスマッシュヒット。
2011年にオリジナルの企画で『ギルティクラウン』というタイトルを手がけ、作品を重ねるごとに仲間が増えていきました。

その中でWIT STUDIO社長の和田丈嗣とも長く一緒に仕事をしていました。
和田はもうとにかく頭が良くて、折衝能力も非常に高いですから。プロジェクトや人を大きくまとめる力があります。

そして、取締役で作画部長の浅野恭司。彼は手が早くて、絵がうまくて、いい人なんですよ。3拍子揃っている人ってなかなかいなくて。
彼がいることによって、さまざまなアニメーターたちが集まるきっかけになったんですね。

この二人とWIT STUDIOを作ることができたことが僕の最大のファインプレーですね。

Production I.Gの現場はやはり非常に優れていて、申し分なかったんですけど、クリエイターの新しい居場所や自分たちのブランドをつくっていきたいという欲求が勝った。
新しい環境に行って、また新しい100点満点を目指して、みんなでやっているところですね。
→次のページ:素朴でパワーのある作品が自分たちの強み

■素朴でパワーのある作品が自分たちの強み

――どういうスタジオにしようという話があったのでしょうか

中武
自分たちがどういう作品が向いているのかみたいな話を和田としていて。こつこつと調べ物をして、こつこつと描き上げていくような作品が向いていると。
当時はそれを素朴でパワー系な作品作りと呼んでいました。

『戦国BASARA』もそうですが。心と心のぶつかり合いで、気合が上回ったほうが勝つという特殊な勝負のシステムでして(笑)。
しっかりと人間の動きを学習したりとか、いわゆるスポーツからイメージを膨らませて作画にしたりとか、そういう調べ物ができる作品というのが向いていたんですね。

もともと浅野恭司は『攻殻機動隊』をやっていたし、和田丈嗣は『PSYCHO-PASS』もプロデュースしていますが、基本は地味でも着実に進めていく作品づくりをやりたいなって。
そんな中で『進撃の巨人』ですよね。これはWIT STUDIOにとても向いているなと感じる原作でした。

――そのときから『進撃の巨人』は荒木哲郎監督で、このチームでというのは固まっていた?


中武
はい。『ギルティクラウン』の主力チームと一緒にやりたいと思っていました。
浅野恭司と門脇聡さん。後に『甲鉄城のカバネリ』のキャラクターデザインをやっていただく江原康之さんだったり、アクションアニメーターの今井有文さんだったりですね。

ただ最初のシーズンの制作は大変でした。
いわゆる動画・仕上げというのが2Dアニメーションだと非常に重要なポジションになるんですけど、当初はそこのインフラがなかったんですよ。

故に最終画面を仕上げるときに修正が乗り切らないとか、そういうことが多くあって、そこが大変苦しかったですね。そこはもうスタッフを本当に苦しめてしまいました。
あの時のことを思い出すと今でもぞっとします。

最近はWIT STUDIOの、いわゆる動画セクションがようやく安定してきて、リテイク対応の作業がうまく回るようになり始めた時期なんですよ。
だから、まだまだですけど、前よりもみんなの理想にしたいフィルムにちょっと近づいてきてるんじゃないかなと思いますね。

■魂を揺さぶる作品を

――制作環境など力を入れている部分を教えて頂けますか?

中武
例えば、ワンフロア。ワンフロアで制作チームとクリエイターチームが一緒に仕事できることで、コミュニケーション上のズレ
が少なくなるんです。感情のもつれとかもそれによって解消されたり。「なんだよ、あいつ、頑張ってたのか」「じゃあ、しょうがねえか」みたいな。

クリエイターは結構年上が多くて、制作進行の人たちは結構若い人たちが多くて。
制作進行って大変なんですよね。手数も多いし、知らないことも多いし、ひと回り上の人と仕事しないといけないし、何十人もの大人と仕事をしないといけなくて。
だから頑張っていることが理解されやすい環境が大事になってきますね。

作画人材の育成に関しては浅野恭司たちが力を入れています。原画採用と、動画・仕上げ採用とで役職を分けて募集をしています。
原画採用に関しては、最初は研修期間がありますが、即、原画マンとしての職務に就くということになり新しいトライです。

原画と動画・仕上げの特性というのがたぶん別々であるということを前々から作画チームは思っていて、これを実験的にやってみるということですね。

これによってフィルムの最後、いわゆるリテイク対応、そこの部分で動画・仕上げチームが大活躍するんですよ。
これがなかったら安定したフィルムに絶対ならなくて、もう危険(涙)。みんなのおかげで画面が成り立っていますね。

安定した品質の作品を出したいですし、その前提としては、魂を揺さぶる作品を開発すべきだという考え方でやっていますね。

■原点はベルセルク

――創作の現場に進んだ中武さんの原体験について聞かせてください

中武
アニメやマンガは子供の頃からよく見ていましたね。
そういえば三浦建太郎先生の『ベルセルク』。読み切りのマンガがあってそれを熱中して読んでいましたね。お小遣いをもらえるようになってから単行本も買いました。
のちに『剣風伝奇ベルセルク』という名前でアニメ放映されますけど。

大人になって『ベルセルク』のスタッフリストを見ると、本当にすごいスタッフなんですよ。
馬越嘉彦さんがキャラクターデザインをやっていて、松原徳弘さんと千羽由利子さんが総作監をやっていて、村田和也さんが演出。1話は鶴巻和哉さんが演出をやっているみたいな。
ローテーションが超すごいんですよ。あれも『進撃の巨人』のように大変だっただろうと思うんですけど、フィルムとしてはやっぱり素晴らしくて、やっぱり自分の根っこに残ってますね。骨が太い作品は耐久性があるっていう。

僕は高校を卒業して、新聞を配りながら専門学校に入ります。
多くのクリエイターさんの話を聞きつつ、自分のやりたい職種を模索するタイミングで、映像制作が面白かったんですね。
自分でネタを撮って自分で編集して音楽を入れたりとか。しんどいけれど楽しいですよね。

そこから映像制作がいいかなって思いました。
アニメプロダクションを選択したきっかけは、先輩からの「お前は向いているんじゃないか」という言葉でしたね。たぶん僕の心が傷つかなさそうだと思ったんじゃないかなと(笑)。


――言い換えるとタフであると(笑)。

中武
そう。タフで前向きですね。
そこから Production I.Gに入って、最初は『サーヴィランス』というゲームのタイトルで入って。
そこからすごいアニメーターの原画を連発で拝んでしまったんです。江面久さんというビジュアルエフェクツという役職で、押井守監督の作品をよく担当している方なんですけど。

ラッシュチェックで江面さんが撮影した銃を撃ち放つカットがあまりにも凄すぎて、「絵ってこんなにすごいの?」って。まさに絵が動いてると。あれはインパクトがありましたよ。
最初にいいものを見せてもらって、どんどんアニメ制作への欲求が高まっていくきっかけになりましたね。

そして松竹徳幸さん。本当に繊細な線で画面をかっちり決め込む能力があって、松竹さんじゃないと出せない画面というのがあります。
さらに岡村天斎さん、西村博之さん。非常に卓越した日本を代表する演出家と、若い頃からお仕事させてもらったのは大きな財産ですね。
→次のページ:進化するWIT STUDIO

■進化するWIT STUDIO

――NETFLIXやAmazonをはじめとした動画配信サイトによって、国内外のアニメファンの注目は増しています。このような状況で、アニメスタジオとしてどういったことが大事になってくるのでしょうか?

中武
やっぱりアニメ制作会社が商品を開発して、自立していくことが必要なんだろうなとは感じます。
クリエイターが創作活動をしてきちんと生活していける状態にすること。あとは自社内での職域や職能を広げたほうがいいでしょう。

これは頑張っている人に残ってもらえる環境をつくりたいってことですね。
大体みんなアニメ業界に入る人って「なんか作りてえな」って思っている人が多いと思うから。
これまではメーカーさんにお任せしていたようなお仕事であっても、スタジオとしてゼロからトライしてみてノウハウを溜めることもそうした環境作りの一つになるかもしれない。

あとは「アニメーションスタジオミーティング(アニスタ)」(※)も新しい取り組みです。

(※)アニメスタジオミーティングと呼ばれる、スタジオとファン、未来の作り手をつなぐアニメファン感謝イベントとリクルートイベントを同時に行うイベント。
初回の「アニメスタジオミーティング2019」は、ゲストスタジオにMAPPA、CloverWorks、コミックス・ウェーブ・フィルムの3社を迎え、2019年1月27日に茨城つくばにて、2019年2月9日・10日に東京秋葉原にて開催された。

茨城県つくば市はWIT STUDIOが人材を育成する目的で、社員アニメーターの田中君と、制作の山田君を主軸にしたサテライトスタジオを今やっていますね。
浅野恭司と自分が茨城県出身でゆかりがあるんです。県とつくば市と連携して人材育成や明るいニュースを増やしていきたいと思っています。

■根源的に、アニメーターが好き

――海外のファンからの質問で「中武さんがアニメを制作されるときの、一番の楽しみ」を教えてください。

中武
仕事としての醍醐味はスタッフィングですね。「この企画に対してこの人材だったら、たぶんお客さんに満足していただくものになるだろう」という大枠をまず決めて、スタッフを決めること。

そして根源的には、僕はアニメーターが好きなんですよね。「このシーンをあのアニメーターにお願いしたら、これはいいカットになっちゃうな」と想像するのが楽しいんです。

シナリオと絵コンテ段階で大切なシーンは、やっぱりうまいアニメーターにお願いしたい。キャストと一緒ですよね。「この人が描いたら、すごいことになってしまう」という。
実際に観客も良いフィルムのときは喜んでくれるし、「今週自信ないな」って回のときは、コメント数が少ない気がする。

自信があるときに「しっかり見てくれてるな」みたいなのが分かると、やっぱりうれしいですよね。それの繰り返しですかね。

――では最後にWIT STUDIOの作品を楽しみにしている世界のファンに向けて、一言お願いします。


中武
2019年は春に劇場上映で『甲鉄城のカバネリ 海門決戦』があります。
大河内一楼さんの構成の元、荒木哲郎監督が、シナリオ・絵コンテの両方にトライした初めての作品になり、私が見てきた中で最高の絵コンテが上がりました。今一番の荒木哲郎監督の味が出ていると思います。

そして『進撃の巨人』があり、『ヴィンランド・サガ』があり、準備中のオリジナル企画もあり、2019年も2020年もお客さんに楽しんでいただくべく、たくさんアニメを作っています。

ぜひこれからもWIT STUDIOの作る作品を見ていただけると嬉しいです。