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劇場版「ダンまち」は神たちの“恋愛事情”に注目? 知っていればより楽しめる“三大処女神”の神話エピソード

2019年02月16日 13:32  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

『劇場版 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか -オリオンの矢-』場面カット(C)大森藤ノ・SB クリエイティブ/劇場版ダンまち製作委員会
『劇場版 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか(ダンまち) -オリオンの矢-』が2月15日から劇場公開された。これまでアニメ化やスマホアプリなど幅広いメディアミックス展開をしてきたシリーズ累計1000万部を突破したライトノベルが原案で、原作者・大森藤ノ氏による完全オリジナルストーリーとなっている。


英雄になることを夢見て迷宮都市オラリオにやってきた主人公のベル・クラネル。小さな女神ヘスティアの眷属となり、冒険者として活躍する日々の中、神月祭の夜に選ばれた者にしか抜けないと言われる伝説の「槍」を引き抜いたことで、女神アルテミスと出会って新たな冒険が始まる。


劇中ではベルとヘスティア、アルテミスの3者を通して恋を語る場面が多く出てくる。三大処女神に名を連ねるヘスティアとアルテミスは、共にベルに対して特別な想いを抱く。ベルは言う「女の子は守るものだって、おじいちゃんが……」。ヘスティアは言う「ベル君はボクの宝物なんだ」。アルテミスは言う「神は人間と一万年の恋をする」。


ヘスティアとアルテミスのふたりは、“処女神”の言葉からすると、恋愛とは無縁なイメージを持つ人が多いのではないか。
そこで、本稿ではギリシア神話における2人の恋愛にまつわるエピソードを紹介することで、これから映画を観る人により楽しんでもらいたい。はてさて、二人は本当に恋愛に無縁だったのだろうか?

■ヘスティア


『ダンまち』で「ロリ巨乳」とあだ名されるヘスティアは、ギリシア神話で炉の女神だ。炉は家の中で調理や暖をとるために使われる“家庭”の象徴であることから、ヘスティアは家庭守護の女神として祀られた。
劇中でアルテミスが、天界時代のヘスティアは「引きこもっていた」と言うのは、家庭の炉としての立場に由来しているからだろう。

また、実はヘスティアは、最高神ゼウスの姉であり、オリュンポス十二神にも数えられる。ただし、ギリシア神話において目立ったエピソードは少なく、影が薄い。
それでもモテた逸話として、海の神ポセイドンと光明神アポロンに求婚されたことがある。しかし、その申し出を断って、永遠の処女であることを望んだという。

ベルが可愛くて仕方がないため、彼以外の団員をなかなか増やそうとしないヘスティアだが、劇中ではベルと仲良くする友人のアルテミスを見てヤキモチを焼く姿が見られる。
「ベル君にドキドキするこの気持は何なんだろう?」と相談されて「ドキドキなんかしちゃダメだ!」と答え、「ヘスティアにとってのベル君は?」と問われた際には「ボクの宝物なんだ」と答えるなど、地上に降りてきたことで変わった彼女が見られる。そのギャップが可愛らしい。
→次のページ:アルテミスの恋愛エピソードは?

■アルテミス


同じくオリュンポス十二神に数えられ、アポロンの妹であるアルテミスは、“狩猟”と“純潔”の女神だ。
一方で“出産”の守護神としても知られている。非常に気が強く男勝りの性格で、純潔の誓いを立てていたために、男とは距離を置いており、どちらかで言えば、男嫌いと伝えられている。武勇に優れており、人間に罰を与える時は疫病をもたらしたと伝えられている。

さらに純潔への意識の強さを現す逸話も。アルテミスに使える下級精霊で純潔の誓いをしていたカリストが、女好きの最高神ゼウスに狙われて妊娠させられた際、怒ってカリストを熊に変えて森に追放したことがある。

とくにキレたら恐い逸話には、偶然、人間の狩人アクタイオンに水浴びしているところを覗かれたアルテミスが激怒して、アクタイオンを鹿に変えたうえに愛犬たちに襲わせたことがある。

そんなアルテミスが唯一心惹かれたとされる男性がいる。それがギリシア一優秀な狩人であった人間オリオンだ。
狩猟を通してアルテミスは次第にオリオンとの仲を深めていくのだが、兄であるアポロンが妹の純潔が奪われることを心配して引き離すために一計を案じる。

それはオリオンを海上に立たせ、何も知らないアルテミスを「この距離でも射貫く腕前あるかな?」と挑発して頭を射抜かせるというもので、アルテミスは自らの手でオリオンを殺めてしまう。
その悲しみからオリオンを生き返らせて欲しいとアルテミスは奔走するが、死者を生き返らせるのは理に反するとして願いは叶えられなかったため、ゼウスはせめて「オリオン座」として宙に輝かせることでアルテミスの心を慰めた。


劇中では、苛烈な女神であるアルテミスも地上に降りてきて、眷属を持ってファミリアを築いたことで大きな変化があったもよう。ベルに惹かれる気持ちに抗うことをせず、仲むつまじい姿が多く見られる。

■運命に選ばれし少年と、月夜に降り立った女神が紡ぐ【約束の物語】が示すのは?
『ダンまち』は神々が刺激を求めて地上に降りてきて、人間とずっと一緒に過ごすことを決めた世界の物語だ。劇中では「恋」を一つの感情だけで括らず、多様な意味を持たせた広義として解釈している。それによって、原作の持ち味である神と人の距離感の近さを改めて描いている。

注目すべきは、女神であっても一人の女の子として守ろうとするベルだ。彼にとって女神は特別な「高嶺の花」の存在でありながらも、あくまでも守りたい女の子なのだ。一見矛盾しているが、そこには真っ直ぐ向き合う心の在り方が見て取れる。

ギリシア神話では神と人それぞれの恋が描かれ、本来遠い存在である神と人を繋ぐ“共通言語”の役割も担ってきた。だからこそ、本作は共感しやすく、多くの人にとって身近な物語になるのではないか。

(C)大森藤ノ・SB クリエイティブ/劇場版ダンまち製作委員会